第03章 エラーは ともだち こわくないよ

「また、エラーだ…」


 イッQのひみ〇道具を使った説明でプログラムに対する意識の壁は低くなったものの、だからと言ってすぐに技術が向上する訳でもなく、壱人は地道に『ゲーム作りの書』の内容を実行しているのだが、先に進むにつれてエラーの回数が増えてきた。


 前はエラーが出てもすぐに修正して直していたが、この頃はエラーの度に休憩が入るようになり、最近では10分おきに休憩している状態だ。

 また挫折しそうな雰囲気を感じ取り、心配したイッQが声を掛ける。


「大丈夫か?判らなければ教えるけど」


「んー、判らない訳じゃないんだけど、エラーが出るとモチベーションが下がるんだよね」


 壁にぶつかったというよりは、気力の無い様子で壱人は答える。ジワリジワリとやる気を削られたのだろう。


「どんなエラー?」


「休憩が終わったら確認するよ」


 プログラムをしていればエラーが出るのは仕方ないというか当たり前なのだが、今の壱人はエラーへの苦手意識が生まれてしまい、内容すら見ていない。

 エラーに慣れるのも一つの壁である。乗り越えてしまえば、そういうものだと思えるようになる。なんとかならないだろうかとイッQは思った。


「エラーは、なんというか、ほら、あれだよ…」


 イッQは考えが纏まらないままに話し出す。エラーのイメージが良くなる言葉を探している内に「これだ」というものが浮かんだ。


「…友達。そう、プログラムの友達みたいなもんだよ」


 さらにそれを補強する言葉を、とあるマンガの有名なセリフから思い付く。


「エラーは ともだち こわくないよ」


 しかし、それを聞いた壱人は間髪を容れずに反論した。


「友達じゃないし、怖いわけじゃなくてムカつくだけだし!」


 上手く表現したつもりだったのだが、壱人にそう言い切られてしまいイッQは慌てて付け加える。


「でもほら、ゲーム作りをしてたらずっと付き合う事になるんだから仲良くなっておいた方がいいぞ」


「こんな英語でダメ出しばっかりする奴とは仲良くなりたくない!」


 壱人はエラーに対する拒絶反応を示す。これではきちんと考えれば判る事も判らなくなってしまう。

 なんとかエラーと友達になってもらわなければならない。何かと関連付けて上手く関心を引けないだろうか?てっとり早く喰いつきそうな話題は何だっただろう?

 イッQは頭の中の色々な思い出を引っ張り出して考える。「そうだ、あれだ!」


「エラーは助けを求める少女の声だ!」


「突然、何を言いだすんだイッQさん…」


 イッQは自分の考えを喋り出した。


「発想の転換だよ。エラーは別にプログラムを邪魔しているわけじゃない。そこを直さないとプログラムは動かないんだ。その障害を取り除く為に助けを求めているんだよ」


 そしてイッQは続ける。


「だからこう考えろ。エラーは“間違い”って意味じゃなくて『エラー』という少女の名前だって!」


「む、無理があるだろ?」


 戸惑う壱人を押し切るように言う。


「きっと英語の似合う金髪碧眼美少女だぞ」


 テンプレ過ぎかと思ったが、その言葉に壱人がピクリと反応した。


「髪はロング?ショート?」

「中間」


「目の形は?」

「たれ目でつり眉」


「メガネは掛けてる?」

「掛けてる掛けてる」


「服装は?」


 そこまで考えていなかった。イッQの口からとっさに出たのは「メイド服」である。


「お前は、金髪碧眼のたれ目でつり眉の眼鏡を掛けてメイド服を着た美少女エラーちゃんが、助けを求めているというのに見て見ぬふりをするのか!」


 その時、壱人の頭の中ではエラーちゃんが困り顔で助けを求めるアニメのような映像が流れた。


「仕方がないな。話くらいは聞いてやるよ」


 そう言ってようやく壱人はパソコンの前に座り直す。


 ただ、それを見ていたマイナマイナには「若干引くデスデス」と言われてしまい、イッQが「ゲーム完成のためなので許してください」と急いでフォローしていた。


 その後、エラーの内容を確認していた壱人から「あ、分かった」という声が聞こえた。


「原因は何だった?」


「"}"が足りなかったらしい。付けたら実行できた」


「良かったな」


「良くないよ。不具合があるって指摘してる行がズレてる事が多いし、原因が何も書いてない時もあるし、表現が回りくどいんだよ!」


 エラーの文ってそんな感じだよな、と思いながら、イッQは適当に思い付いた事を言葉にする。


「それはエラーちゃんからの挑戦状なんだよ。『あなたにこの謎が解けるかしら?』って感じの」


「どこの怪盗だよ!そんな属性いらないよ!それにさっきとキャラ設定変わってるじゃないか!」


 なんだかんだ文句を言いつつ、壱人のエラーへの苦手意識は改善されたらしく、その後は内容を確認せずに休憩に入るような事は無くなり、その少しの成長のおかげなのか、知らない内に、記憶の卵から生まれたピヤ号が一回り大きくなっていた。




【おまけ】


「エラーの他に"worning"(ワーニング)も出てるんだけど、これはどうすればいいの?」


「ワーニングは、エラーの妹みたいなものかな。まあ、無視していいよ」


「ワーニングちゃんの扱い、可哀想!」

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