第34話 怪我の、何とやら2
そういや岡田のパンツは今一体どうしてるんだろう?
オネエヤンキーがちゃっかり着服して家宝として保管していたりするんだろうか?
パンツ君「えへへたくさんの美女に囲まれて夏のバカンス中だよ☆」
脳内の俺「へえ~。……でもさ、たくさんの美女って布だろ?」
パンツ君「うん! パンティー子ちゃんにパンティー美ちゃんにパンティー菜ちゃんとかたくさん!」
脳内の俺「それは……男としては一度埋もれてみたい気もするが、囲まれても布だし正直羨んでいいものか……」
だがまあ世の中、知らん方がいい事もあるか。
パンツ君「そうそ、知らぬが仏のパンツってね☆」
脳内の俺「ご利益ありそうでなさそうだな……」
「あ、私がやるよ!」
教師に連れられた保健室では、責任を感じているのか藤宮が率先して手当てをしてくれた。
消毒薬を打ち水のように頭からどばっとぶっかけられた時はどうしようかと思ったが。
「ごごごめんね~ッ目に入らなかった!?」
「だ、大丈夫」
出し加減を見誤ったとかいうレベルじゃなく、どうやら出し方を誤ったらしい。
キャップの大元から外したんだって。そりゃ出るわな!
まあ当然傷口にはメッチャ
たぶん聖水を掛けられた吸血鬼みたいにジュワワ~って白い湯気が立ってたと思う。
だがまあ「目がああ~」ってならんかったし、この件は目を瞑ろう。そもそも沁みるから開けらんねえだけだが。
やらかしたって自覚があるなら、藤宮はよく漫画とかで見る天然ドジっ娘じゃなさそうだ。可愛い保健委員のあの子の手当ては、指先の小さな切り傷も、え!? 包帯アメリカンドックのできあがり!?ってなんのは勘弁だもんな。
アハハ一瞬そういう類の包帯ぐるぐるさんかと思ったぜ全く………………………って藤宮さんちょっと息ができませんけど?
顔面ミイラの俺は今日からスケキヨでありシシオであり……金のマスク下のツタンカーメンであり……ほっけの干物であり……焼き加減はコゲもあり…………ありあり? 何の話だっけ? やっぱ頭打ったせいだなこりゃ。
「ごめん花ガッキー。私が巻き込んだから……。一人で置いてったりなんかしなきゃ良かった」
藤宮は自分が一番悪いみたいに声を震わせる。
いやホント巻き込んだっつか巻き過ぎだよ包帯!
「何で藤宮が謝るんだよ? これは俺がうっかり勢いよく転んだ結果負った怪我だ」
「え、何言ってんの……?」
「間抜けにも自分で怪我したんだよ」
藤宮は俺がビンタされた肝心な場面を実際にはその目で見ていない。
だからこいつにとっては俺の怪我の経緯は推測の結果に過ぎない。
俺に都合良くも。
鼻と口を侵食し生存を脅かしていた包帯をずらしながらしれっと答えた俺を、藤宮は元よりヤンキーたちも瞠目して息を呑んで見つめる。女教師は眉根を寄せ不可解そうにした。
「花ガッキー……もしかして……」
俺の意を察したのか藤宮がハッとした。
俺は寛容にも頷いて見せ……られない。
手元が疎かになっていた実は天然ドジっ娘ちゃんだった藤宮に、今度は包帯で首を絞められちゃってるからだよぐえええー。
気付いてっ藤宮頼むっ俺の首に意識を向けて、くれ!
意図せぬ殺人者になりたくなければ……かっ……っ、かぺっ……!
見かねた先生が「ちょっと貸しなさい」と有難くも包帯を巻き直してくれた。ぜえはあ……。
命を取り留め気を取り直した俺は頷いてみせる。
仏のパンツいやいや顔は三度までって言うだろ。
「そうだよ、俺の不注意の単独事故…」
「花ガッキー頭打って記憶飛んでるの!?」
えっそう取った!?
意を
予想外の反応をされ困惑気味の俺は藤宮にこそりと耳打ちする。
「そうじゃなくて、騒ぎになんのは御免なんだよ」
俺の隠蔽作戦を理解したんだろう。
藤宮がたった今神を見たシスターのような形相で顔を近付ける。
うおっセクシー担当近えって!
「花ガッキーって実は慈善事業家なの? それとも頭打って実は死んじゃってて、でも魂が天国行ったら行ったで手違いだって言われた挙句、神様か守護天使と取引して現世でいい事してたらそのうち生き返れるって言われてるとか!?」
「何だよそれは。色々混ざったファンタジーだな」
「違うの?」
「いやまあ善なる心と慈しみは必要だが。俺は反省すべき人が反省してんなら、それでもういいんだよ。だから頼む協力してくれ」
オネエヤンキーを見やれば俯いている。ちょっと気の毒なくらい意気消沈している。構わないでおいたら地の底からわんさか幽鬼を喚んじゃいそうな危うさを感じる。ダークサイドに行くなあああっ!
「はあもうー……仕方が無いなあー。花ガッキーは優しいんだから」
俺の張り詰めた視線の先を追って俺の意図を今度こそ酌んだ藤宮は、不納得そうな顔で大きな溜息をついた。
まあ普通に考えて不問に付すなんて有り得ないだろうしな。
そんな裏取引など露とも知らない女先生は、俺と藤宮の会話が落ち着いたのを見て取って、事情を聞き出そうと俺たち全員を一列に並べてその前に立った。
成り行きでいてくれた佐藤は部活に戻り、俺は座ったままでいいらしく丸椅子の上から彼女を仰ぐ。
見ていると、考え事をする時の癖なのか、手を後ろに組んで俺たち学生の前を行ったり来たりし始めた。今から一二三四と点呼でも始まりそうな雰囲気だ。
えっまさかゆめり閣下とは同期ですか?
一度咳払いすると、教官殿は口を開いた。
「手短に訊くけれど、今回の花垣君の怪我はどういう経緯で負ったのかを聞かせて頂戴。まずは花垣君本人から話してもらえるかしら?」
ヤンキーたちが、特にオネエヤンキー(以後オネヤン)が責任の所在の覚悟を決めてか口元をぐっと引き結んだ。
彼を横目に、俺はすぅと息を吸い込んで口を開く。
「俺たち、相撲してたんです」
「「「「「は?」」」」」
全員の声が見事にハモッた。
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