黎明の楔

星落

プロローグ




 皇帝は骨の魚を愛で、司祭が蝙蝠を従え、戦車を蛇が絡めとる。



 人間の世界に愛想を尽かしたのか、それとも人間の手に運命を委ねようと思ったのか。


 正義の執行者の如く、万能の女神は自ら目を隠した。

 自らに捧げられる生贄さえも、見えぬ振りをして。


 茫洋とした意識の中で鉄錆の臭いに包まれながら、ただ意味の無い言葉の羅列が頭を過ぎった。


 月が玲瓏に冴え渡る。もの言わぬ鳥が星を標に彼方へ飛び去って行く。


「全てが壊れてしまっても、貴方は壊れないで」


 静かに祈りを捧げる声が響き渡り、運命は廻る。


 破壊の波涛はすぐ傍に。


 蒼い薔薇が咲き誇る墓場で、恋人達は世界に祈った。

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