幸運のほくろ

連野純也

scene 1

 低く飛ぶ飛行機の音が、雷鳴の如く響き渡る。

 歴史があると言えば聞こえはいいが、偏屈な老人みたいに見捨てられた、古く薄汚れた印象しかない、そんな街だった。

 この、ごみ溜めのような街の中でも目立つ特徴的な建物の中では、一組の男女が言い争っていた。


 女は知的な印象のある顔立ちのはっきりした、美人だった。

 男の方は背が高く、がっちりとした体格だ。

 ただ異様なのは、男が顔を包帯でぐるぐる巻きにしていることだった。

 その、異常な雰囲気を放射している男と美女の組み合わせは非常に目立つ。

 人の集まるこんな時間でも、そこだけ奇妙にぽっかりと穴が開いていた。

 壁際にもう一人、男がいた。

 なるべく目立たないように、なりを潜めている様子だ。

 迷惑そうな顔で――人目を惹く――男女の言い争いを眺めている。

 

 突然、包帯男が銃を抜く。

 驚く女に向けて三発、発砲した。

 至近距離からである。大口径の弾丸は女の身体を貫いた。

 血を噴き出して女は倒れる。

 信じられない、といった表情を残して、女は死んだ。


 包帯男と、壁際にいた、もう一人の男の目が合った。

 包帯男は確認するかのようにじっと男の顔を見る。

 獲物を見定めるような、目だった。

 銃口を男に向ける。そこには明確な殺意があった。

 危険を感じた男は、身を守るために――思いのほか素早い身のこなしで逃げ出した。

 包帯男が男の後を追う。


 さらなる銃声が響いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る