乾物屋 吉右衛門にて ~レッドドラゴンと猫の王 後日譚

野々宮くり

1話完結

 オリビア王国の外れ。

緑豊かな森が丸く開けたところに、その店はある。

庇には「乾物屋 吉右衛門」と書かれた一枚看板。

丸に吉と屋号を染め抜いた長い藍色暖簾が風に揺れている。

柔らかな陽の光に照らされキラキラと輝く店先では、鮮やかな灰色のトラ模様、鯖トラ猫の夏太郎が大忙しだ。

ひょんひょんっと長い尻尾を振りながら、手際よくテーブルを拭いていく。

店の脇に停められた自転車の荷台で揺れる旗が目に留まり、夏太郎は微笑んだ。

小さな自転車の荷台に取り付けられた赤い旗は、夏太郎の弟、茶トラの春之進が狸に盗られた通行手形だ。

先日。この大事な手形を取り戻すために、夏太郎は神の森と呼ばれるレッドフォレストで一騒動起こしてしまった。

今日はその詫びと礼を兼ねた宴の日。

もうすぐレッドフォレストから重要な客人がやってくる。


 軒下では、ざるに干された魚の横で腹を天に向け、淡いこげ茶のトラ模様、キジトラのじじい猫吉右衛門が、今日も気持ち良さそうにピスピス寝ていた。乾物屋吉右衛門の主である。

いつもなら夏太郎も掃除や洗い物をすませて床机に腰を掛け、ほっと一息茶を飲んでいる時間なのだが。

「夏太郎、ごはんが炊けたみたいだよ!」

店の脇を進んだ奥、土間にしつらえた台所から声がかかった。

「おう、いま行く!」

かまどに置かれた二枚刃の蓋がついた鉄釜の側で、人懐っこそうな男が手招きしている。

夏太郎に頼まれて釜の番をしていたフィリップだ。

「途中で開けてないだろうな?」

夏太郎が確認すると、

「開けさせてないわよ。」

腕組みで見張りをしていたフィリップの娘イライザが答えた。

頷いた夏太郎が釜の蓋を取ると、もうもうと湯気が立ち上る。

白い飯が、ふっくらと炊き上がっていた。

いつものように木しゃもじを十字に切って米を起こし、夏太郎は余分な蒸気を飛ばしていく。

「よし、いい感じだ。こいつを握り飯にしよう。」

「握り飯?」

「塩をつけた手で握ってやるのさ。そのままでもいいし、中に具を入れたり、海苔を巻いてもいい。せっかくだから色々作るか?」

「わぁ、楽しそうだね!」

「じゃぁ釜ごと外に出そう。頼めるか?俺は七輪取って来る。あと手を洗っといてくれ。」

重そうな釜をよいしょと外へ出すと、湯気が立った豆腐汁の番をするジノがいた。

耳と尻尾を振って、ごきげんでの鍋の中をかき回している。

今は中途半端な人型だが、本性は銀狼だ。

実は今日の献立は、この店の味を気に入り、ぜひ皆にも食べさせたいと言い出したジノのリクエストだ。

重そうな七輪をテーブルへ置いて網を乗せた夏太郎は、

「かき回しすぎて豆腐つぶすなよ。」

と笑うと、蔵から出してきた味噌と菜箸を渡した。

手に持ったおたまで溶きいれるよう言うと、ジノは目を輝かせて味噌の匂いを嗅ぎ始める。

弟の春之進に言って、裏の漬物樽から柚子大根、茄子、きゅうり等を取ってこさせた夏太郎は、タンタンと小気味よい音であっという間に漬物を切って皿に盛り、水の入った器と塩、大皿を用意した。

桜の木を分厚く切り出してしつらえたテーブルには、炎蛇、犬五郎、獅子王とラベルが貼られた一升瓶。

主役に振る舞われる酒が、何本も並べられている。

「春!こいつらに握り飯の作り方、教えてやってくれ。」

「はい兄上!」

白狐に似た小さな炎獣と、つやのある黄緑色のカメレオンを頭から降ろし、春之進は腕まくりする。

「では、まず手を少し濡らし塩を付けます。で、ここからが試練です。ご飯を取って・・・熱っっっつ!!」

飛び上がった春之進は、せっかく手に取った米を釜の中に落としてしまった。

ピイピイ鳴きながら、火傷した手をペロペロ舐めている。

「なるほど、こいつは大変そうだ。どれ、私達がやってみるよ。とりあえず何も入れずに握っていくから、春之進は具を手に乗せてくれるかい?」

「はい!」

春之進は具材を探しに駆けて行った。

残った二人は教わった通りにせっせと塩むすびを作り始める。

フィリップと笑みを交わした夏太郎が七輪を見ていると、

「うわぁ!大変だよ夏太郎!」

「?なんだよ、豆腐粉砕したか?」

空のおたまを持ったジノが、わたわた叫んでいる。

「お味噌が落ちちゃったよ!」

「あ~あ、お前何やってんだよ。」

苦笑いしながら夏太郎が立ち上がったとき、

「おぅ、お前ら。騒がしいぞ。」

「げ。」

条件反射で眉間にシワを寄せたイライザの視線の先に、くいっと片眉を上げ、ニヤリと笑う派手な若者がいた。

「やぁ!こないだぶり!」

フィリップとジノが手を振っている。

「ジャニック様!」

慌てて駆け寄った春之進と夏太郎が、深く頭を下げた。

歩く度に風をはらんでひるがえる着物の紅が、景色に映える。短めの髪、形の良い眉。すらりと長い手足。

真紅の牡丹と花弁の長い菊花があしらわれた、ド派手な着物さらりと粋に羽織ったレッドフォレストの神。

ジャニックは笑顔で二人を制すると、偉そうに顎を上げた。

「よう、貧乳。仕方ないから来てやったぞ。有難く思え。」

「はぁ?!こっちだってアンタのために仕方なくよっ!」

かなり男前だが高慢ちきなこの若者が、何故か人型を取ったドラゴン、つまりは神だと知ってなお、べぇと舌を出すイライザだったが、小さな炎獣が二匹、ちょこんとジャニックの両肩に乗っているのに気づくと笑顔になった。

「わぁ可愛い!赤ちゃん生まれたの?」

左の一匹に手を伸ばすと、

ガブリ。

「いたたったたた!」

がっつり噛まれてしまった。

その隙に肩から飛び降りた右の一匹は、足で顎の辺りをかしかし掻いている。

「ちょっと!コレ何とかしなさいよ!痛い痛い痛い!」

炎獣がぶら下がったままの手を突き付けると、整った顔を崩してジャニックは爆笑した。

「おい、もうその辺にしといてやれ。貧乳、お前本当に馬鹿だな。」

「何それ、どういう意味よ!」

「あぁ味噌汁が煮立ってますよ。もったいない、早く火を弱めないと。」

ジャニックの足元から、とことこと鍋のそばに移動した片方の炎獣が、一瞬にして銀髪の青年に姿を変えた。

薄い藍色の着物姿の青年は、懐から出したたすきを器用に掛け、手際よく火を弱めにかかる。

「え?あの声は蒼蓮?!てことは、こっちは・・・。」

「わはははは!貧乳め、この黄蓮様を撫でようなんて100年早いわ!」

チビ黄蓮が偉そうに言い放っている。

・・・可愛い。

「何よ、チビだったら負けないわよ。」

尻尾をぎゅうっと掴んでやった。

「ぎゃうっっっ□☆✕△~!!」

バタバタ暴れている。

紅玉の首輪をした紅蓮がジョジョを乗せてやってきて、挨拶するように黄蓮に頬を寄せた。

よく見れば、黄蓮と蒼蓮もそれぞれ首輪をしている。

そうか。レッドドラゴンの護り役である彼らは山のように大きいので、首輪で身体を小さくしてやってきたのだ。

「小さい方がいっぱい飲めるからな!」

「黄蓮は大酒飲みですしね。あぁ、そんな強くかき回したらまた落としますよジノ。」

ぴょんとテーブルに飛び乗った黄蓮が、待ち遠しそうに犬五郎を見上げる。

真剣に味噌を溶くジノを見守る蒼蓮の目元が涼やかで、思わず見とれていると目が合ってしまった。

「何ですか?私も貧乳はちょっと・・・。せめて美乳であればまだ何とか。」

「はぁ?!失礼ね、違うわよ!罠が外せないって言ってたから、人型にはなれないと思ってただけ!」

赤面したイライザにまくし立てられ、ぽかんとする蒼蓮だったが、すぐに何だあの事かという顔で、

「いえ、なれますよ。ただあの時はああいう輩に知られるのもと思ったものですから。やはり本来の姿より力も劣りますし。まぁ、それでもあの程度なら問題なかったでしょうが。はい、一度味を見ましょうか。」

ジノに味見させながら、蒼蓮は涼しい顔を崩さない。


 小さな手で塩むすびに海苔を乗せていた春之進が、今度は七輪でタラコを焼きながらフィリップの手に乗せている。

よく見ると吉右衛門とっておきの椎茸昆布もちゃっかり握らせていた。椎茸昆布は春之進の大好物だ。

 春め。

先日、吉右衛門とっておきの特級ししゃもを、寝ているのをいいことにジノと食べてしまった夏太郎が自分を棚に上げて笑っていると、今度は白い犬を連れた老人が現れた。

「おじいちゃん!」

イライザが手を振った。

どうしてもと請われ、エドワードがナナを連れてやってきたのだ。エドワードはジャニックと目が合うと深く頭を垂れた。

何故かジャニックの頬が少し赤いことに、護り役以外は気付いていない。


 全員揃ったので、夏太郎は仕上げにかかる。

よく慣らした銅の玉子焼き器を火に掛け、椀に割り入れた卵をさっと溶き混ぜる。

卵焼き器から白い煙がもうもうと出たところで卵液を流し込むと、ジュワワっと大きな音を立てて一気に気泡がたった。

大きい気泡を菜箸で潰し、固まってきたところで奥から手前へ手際よく返して行く。

半分は明太子と大葉、釜揚げしらすを芯に手早く巻き込んだ。

今日はいつもより多めに焼かねばならない。春之進が大根おろしを添えていく。

たくさんの玉子焼きが焼きあがったところで吉右衛門を起こし、宴が始まった。

吉右衛門の息子、源一郎が用意した酒がジャニックを始めとするレッドフォレストの面々に振舞われ、瞬く間に杯が空いてゆく。

イライザ達は夏太郎の国元で飲まれている緑のお茶を、子供達はフィリップとジノが提げてきたマーガレットお手製の林檎ジュースをコップに入れてもらいご機嫌だ。

炊き立ての白飯で握ったおむすび。

あつあつの玉子焼きと、小口葱を散らせた味噌汁に漬物。

イライザたちはどれも初めて食べるものばかりだ。

ジャニック達は親しみがあるらしく、黄蓮はがつがつと、蒼蓮とジャニックはゆっくり満足げに頬張っている。

もしかしたらまだ何か作らないといけないか。裏に何があったかな・・・。夏太郎が思案していると、

「美味しいでしょ~!」

何故かジノが自慢する声が聞こえた。皆が頷いて嬉しい。

エドワードの足元では、夏太郎が作ってやったご飯入りの味噌汁を、ナナが尻尾を振りながら上手に食べている。

七輪が温まってきたところで夏太郎はししゃもを取り出した。ジノが目を輝かせる。

目配せをした夏太郎は、由の棒からししゃもを抜き取ると、いつものように鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅ぎ、ジュッという音と共に網に乗せてゆく。

初めてのししゃもに目を丸くするイライザ一家のために、夏太郎はジノにしたのと同じ説明をする。

「柳の葉の魚って書いてししゃも。柳っていう細長い葉の木に似た魚ってことさ。」

ししゃもから香ばしい匂いが立ってきた。

脂が出て焼き目が付いてきたところで裏返し、両側をこんがり狐色になるまでじっくりと焼いてゆく。

「こいつはそこらの安物とは違うんだ。こんな日でもなけりゃ、俺たち庶民には食えねぇ特級品なんだ。

見ろよ、この丸々と太った身を。しかも子持ちだ。

産卵前で身体に脂肪を溜め込んだししゃもは、ちょっとやそっとじゃ手に入らねぇのさ。こないだ届いたのを俺が塩漬けして、由に刺した後すだれ干しにして乾燥させといたんだ。

こうやって天日干しにすることで甘みが増して、絶品子持ちししゃもが出来るってわけ。ほら焼けたぞ。」

夏太郎が皿に乗せてくれた焼きししゃもは、頭と尻尾が焦げてカリカリになり、こんがりと焼けて破れた腹の皮からは、ジュワジュワと音を立てて白い卵が覗いていた。

「頭から尻尾まで、まるごと食えるぞ。」

頭からかぶり付くジノに驚きつつ、イライザ達が恐る恐る口に入れると、頭や焦げたところは少し苦味があるものの、卵はプチプチと弾け、ちょうどよい塩加減のホクホクとした身からはじゅわっと脂が染み出してくる。

「美味しい!」

「うん!夏太郎、やっぱりししゃもおいしいねぇ。」

「やっぱりとな?ジノは食べたことがあるのかの?」

怪訝そうに首をかしげた吉右衛門の盃に、夏太郎は慌てて酒を注いだ。

美味い酒に香ばしい特級ししゃも。ふんわりとした玉子焼き。出汁が香る味噌汁、様々な具が入ったおむすびに漬物。

賑やかな宴は続いている。


「構わんか?」

床机に腰を掛け、茶を飲みながら皆を見ていたエドワードに声をかけたのはジャニックだった。

「ドラゴンと並ぶなど恐れ多い。」

慌てて立ち上がろうとしたエドワードに、

「いや、私が隣に座りたいのだ。」

ジャニックは、何故か恥ずかしそうに腰を下ろした。

二人は黙ったまま、宴を見つめている。

吉右衛門と蒼蓮が飲み比べをする向こうでは、ナナの背中に黄蓮とジョジョと紅蓮、ジノの背中に春之進が乗って速駆けの真似事をしている。大分酔っている黄蓮が落ちそうになって、イライザと夏太郎が大笑いしていた。

「ブラックフォレストでのこと、すまなかったな。」

ぽつりとジャニックが呟いた。

エドワードは弾かれたように顔を向ける。

「何故それを!それに何故、あなたが謝るのです?あれは私が悪いのです、私が安易な行動に走らなければノーランは!」

幼き日の出来事は、老いてなお鮮やかに甦る。

耐えきれずうつむいたエドワードの肩が小さく震えている。

ジャニックは静かに言った。

「善意からとはいえ、神の森に無断で踏み込んだこと。それは褒められぬ。」

「はい・・・。」

「しかし同じ神として私は、ブラックフォレストでのことも恥ずかしく思う。許してくれ。」

香ばしい香りが漂ってきた。

ししゃもを焼き終えた七輪で醤油を塗った握り飯を焼いて、夏太郎が焼きむすびを作っているのだ。

目を輝かせたジノと春之進が身を乗り出している。

ジャニックは、ぽつぽつと語り始めた。

「私は、生まれた時から神だった。

ドラゴンには長い年月を経て神に昇華するものもいるが、私は生まれながらにして神だったのだ。いきなり広大なレッドフォレストの主となり、何百年と上の重鎮からも、同じ年端の子供からもかしずかれ、友と呼べる者など一人もいなかった。

小鳥や木々までが私を見れば頭を垂れ腰を折る。そんな中で育ったのだ。神とは何だ。どうして私が神なのだ。幼い頃はいつもそう思っていたよ。」

いつも尊大なレッドフォレストの神は、どこか寂しげだった。

「レッドフォレストには大きな杉の木があってな。森一番の巨大樹で、唯一の逃げ場だったんだ。御付きの炎獣達も、そこまでは登って来れないからな。頭一つぬけた木のてっぺんに腰掛けると、遥か遠くまで見渡すことができた。やりきれない時はいつもそこへ行って、外の世界を眺めることが、いつしか幼い私にとって唯一の安らぎになっていた。

そんなある日、いつものように一人で辺りを眺めていると、遠くに大きな虫が飛んでいるのが見えた。良く見るとそれは、自分と同じ年頃の小さな少年を乗せたかぶとむしだった。」

エドワードは驚いて顔を上げたが、片膝を立て頬杖を付いたジャニックは前を向いたままだ。

「そのかぶとむしは建物のてっぺんに少年を降ろすと、並んで何か読み始めた。目と耳の感度を上げてみると、絵がたくさん描いてある本を読んでいることが分かった。読み終えるとまた少年を背に乗せどこかへ飛んでゆき、しばらくすると別の本を抱えて戻ってくる。その姿がうらやましくて、毎日のように彼らの姿を眺めるのと、読み聞かせの物語を楽しみにするようになった。真似がしたくて人の姿を取り、背に乗せて飛べと御付きの炎獣に無理を言っては困らせたものだ。」

蒼蓮が酔いつぶれる横で、黄蓮がげらげらと笑っている。

ジャニックはそんな彼らをいとおしそうに眺めている。

「しかし、ある日を境に、かぶとむしも少年もパタリと姿を見せなくなった。何日経っても一向に姿を見せないことを不思議に思った私はいても立ってもいられず、皆に黙って森を出て、彼らの元まで飛んでいった。遥か高みから眼下を確認した私は、片羽を捥がれたかぶとむしと、泣きじゃくりながら彼にしがみついて離れない少年の姿を目にしたのだ。

言葉を失ったよ。何が起こったのか全く解らなかった。衝撃の余り天空で動けなかった私の耳に界下の声が聞こえ、初めて事の経緯を知った。

あろうことか自分と同じドラゴンの森で起きたことであると。人々がドラゴンを激しく憎んでいることも知った私は深く傷つき、前にも増して孤独に過ごすようになった。

そんなある日だ。

いつものように木の上でぼうっとしていた私の目に、あのかぶとむしが飛び込んできたのは。

一瞬のことだったから目を疑ったよ。

しかし見間違いではなかった。一瞬見えては消え、また見えては消えするその姿が飛ぼうとしているのだと気付いた時、私は生まれて初めて鳥肌が立った。

がんばれ、がんばれ!気付いたら聞こえるはずもないのに声を枯らして叫んでいた。そしてついに、いつものように少年を乗せて飛ぶのを目にした時には心の底から感動したのだ。

恥ずかしながらわんわん泣いて、理由を知らぬ周りの者を困らせてしまうほどにな。」

照れくさそうにジャニックは笑った。

「その後の事も見ていたよ。外の者達との関わり方についても学んだ。正直、寂しいと思わずにいられなかったが、仕方のないことだと子供心に納得もした。

しかし今回、ブルードラゴンやグリーンドラゴンが外の者を助けたと聞いた時、私は心から嬉しく思った。それもまた許される行為なのだと。」

エドワードは大きく頷いた。

自分はかたくなにフォレストとの関わりを絶ってきたが、ノーランが助かったのもまた、ドラゴンのおかげなのだ。

「ノーランの命の炎は消えていない。私が言うのだから間違いない。安心するといい。」

涙が溢れる。エドワードは何度も頷いた。

「レッドフォレストには身体にいい効能がある湯が沸く。時が来てノーランが目覚めたら訪ねてくるといい。」

レッドフォレストの神は、子供の顔でこう言った。

「ただし条件がある。妙な力で神の森に空間を繋げるのは無しだ。必ず、あの背中に乗って来てくれ。そして私も乗せてくれ。・・・あと絵本を忘れずにな。」


賑やかな笑い声が響く乾物屋吉右衛門の店先では、今日も長い藍色の暖簾が、秋の風に優しく揺れている。



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