私と置手紙


『 お別れだ。

 さがさないでほしい。

        せき 』


「・・。」


またか。と思う。


初めてこの手紙を見た時は、

物凄ものすごあわてて取り乱し、

剣さんになだめられたのはちょっとした黒歴史だ。


でも、もうれてしまったので、

最近はあわてる事も無い。


そもそも、心配する必要もないのだ。


何故なぜなら


「今帰った。」


リビングに置手紙の主、

せきさんが土産みやげ片手に入ってくる。


「あ、お帰りです。」


「ああ。

土産みやげを買って来たから、みんなで食べようか。」


「それじゃ、呼んできましょうか。」


そうげると、

私は現在家にいる仲間達に声を掛けに言った。



土産みやげの菓子を食べながら、

私は先程の置手紙を全員に見せる。


すると、

師匠であるいかずちさんが溜息をついた。


「お前はまた・・。」


「相変わらずだよな。

せきのこの手紙の書き方。」


そらさんが手紙を見ながらそう笑う。



そうなのだ。


せきさんのこの手紙は、

家出や別れをげる物ではなく


ただの用事で出かける事を示した、

通常の置手紙。


せきさんは手紙を書く時、

簡潔かんけつに書き過ぎて毎回この内容になる。


つまり、内容を補足ほそくすると


『お別れだ。

(急な用事が入ったから、行ってくる。)

さがさないでほしい。

(用事が終われば戻ってくるから、

心配しないでくれ。)

          せき 』


と、なる訳だ。


・・ややこし過ぎる。


「話すのも、書類の文章も普通なのに、

どうして手紙だとああなるんでしょうか?」


未だ溜息をついているいかずちさんにたずねると、

理由を教えてくれた。



それによると


せきさんのお父様は、

マメに手紙を書くヒトらしい。

(お母様てにだけだが。)


その手紙を幼い頃から、

嬉しそうにお母様から見せてもらっていたらしいが、

それを見て育ったせきさんは


『こんな手紙を書く大人にはならない。』


と思ったらしい。


どんな手紙か気になった私が、

彼に内容を尋ねると


「・・聞きたいのか?本当に?」


そう、

優しい声と笑顔で確認されたので、

これ以上くのはめておく事にした。

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