私と謎の物体


「ふあぁ~・・。」


起床した私が欠伸あくびをしながら、

リビングのカーテンを開けると


「・・え。」


日差しをさえぎように、

謎の物体が置かれていた。


(な、何だ?)


頭が現実に追い付かず、

目の前を凝視ぎょうししていると、

それは微妙びみょうにユラユラと左右に動く。


(え?あれ?動いて・・。)


そこで、

ようやく完全に頭が働きだしたようで。


・・そこにたたずんでいたのが、

1階の高さとほぼ同じ大きさの、

大岩のような巨大マリモである事に

今気が付いた。


ごろん!


「うわっ!!」


マリモは何かをうったえるように、

左右にれる動きを段々早くし始めるが。


流石さすがにマリモと意思の疎通そつうはかった経験は、

私には無い。


早くなる動きと意味のわからなさに、

私は静かにパニックにおちいった。


「・・・・!!」


私が腰を抜かし、

静かにマリモを見て狼狽うろたえていると、


「今日は早いな?」


と、せきさんが側にやって来る。


「せ、せき、せきさ・・!」


出ない声で必死に呼びかけ庭を指差すと、

彼はそこで庭の巨大マリモの存在に、

気が付いたようだ。


「ああ、ミドリムシか。」


これがミドリムシ!?


ゴロンゴロンとれる

巨大マリモ・・ミドリムシを見ても、

彼は全く動揺どうようをみせず、

冷静に観察している。


「どうやら、

誰かについて来てしまったらしい。」


わかるんですか!?


彼は少し眉間みけんしわを寄せ、

あごに指を当てながら


「ふむ。」


うなづいた。


「このままだと、

分裂して輪唱りんしょうを始めてしまうな。


・・他の植物がられる前に、

俺が元の場所に戻してこよう。」


分裂!?輪唱りんしょう?!

られるって何!?


聞きたい事は沢山たくさんあるのだが、

驚きぎて口からは言葉がまだ出てこない。


そんな状態の私の目の前で、

せきさんは迷いなく庭へと降りる。


そして、

ふところから1枚の普通サイズの赤い風呂敷ふろしきを取り出し


「それっ!」


と、巨大ミドリムシに掛けてしまった。


「えぇ?!」


更に驚く私の目の前で、

風呂敷ふろしきは巨大ミドリムシをひとりでに動いてつつみ込み、

ぎゅっと結び目を作る。


完全に収納しゅうのうされた瞬間、

それはただの荷物ぐらいの大きさへとちぢんだ。


「・・。」


驚きのあまほうける私に向かい、

せきさんは巨大マリモが入っているはず

風呂敷ふろしきを片手に話しかけてくる。


此奴こいつを、

住処すみかの岩山に返したら戻ってくる。」


そう言って、

スタスタと通常の足取りで出かけて行った。


「・・・・。」


すっかりつかれてしまった私は、

ぼんやりとしたまま、

早い朝食の支度したくを始めたのである。



その後、

せきさんは5分も経たずに帰ってきた。


めずらしく混乱しきっていた私を、

そのまま放っておいた事を気にしていたらしい。


「大丈夫だろうか。」


と心配し、

急いで帰って来たそうだ。


ぐに説明をしようとしてくれた彼に、

私が言った第一声は


「あの風呂敷ふろしきは、

何処どこで売ってるんですか?!」


だった。



・・溜息と共に、

強めのデコピンをもらいました。

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