花見と弁当


「着いた~!」


今日は、

以前から計画を立てていた花見の日だ。


桜の下に大きなシートを広げ、

それぞれが持っていた荷物を下ろしながら、

辺りの桜を見渡す。


「良い天気だ。」


「ここには人がいないから、静かに見られるな。」


綺麗きれいに咲いてるね~。」


口々に桜の感想を言っていると、

伸びをしていたつるぎさんがお腹をさすりながら

不満そうな声を出した。


「早く飯にしようぜ!

俺、腹減ってんだけど。」


「予想通りの反応は止めろ。」


こおりさんが冷たい視線で、

彼をにらみ付ける。


折角の花見に喧嘩けんかされては気まずい。


そう思った私は2人の間に入り、

止める事にした。


「ここまでくるのに

時間かかりましたし、仕方ないですよ。

私もお腹空いてるんで、もう昼食にしましょう。」


「そうだな。

他にも、腹を空かせている奴がいるようだ。」


そう言って笑ういかずちさんの言葉に、

こおりさんは他の仲間を見回す。


・・シートの上に座っていた仲間の半分以上は、

すでに弁当箱を手にし、黙ってこっちを見つめていた。


「・・わかった。」


溜息を吐いたこおりさんが折れた事で、

全員でにぎやかな昼食の時間に入る。


いつもと違って、今日は各自で

弁当を持って来る事になっていた。


個性的な仲間達が、

どんな弁当を持って来るのか

私はひそかに楽しみにしている。


早速さっそく

隣に座ったいかずちさんの弁当をのぞき込んだ。


「美味しそうですね。」


「そうか?いつも通りなのだが。」


いかずちさんの弁当は和食そのもので、

物凄ものすごく美味しそう。


げ物や煮物、

え物に焼き物と、

色合いや栄養もバランス良く

考えられているようだ。


「食事は体作りの基本だからな。

鍛錬たんれんの為にも、バランス良く食べる事は

常に心掛けている。」


いかずちさんには食事も鍛錬たんれん一環いっかんらしい。


離れてはいるが、

ここから見えるせきさんの弁当も、

栄養バランスが良さそうだ。


うん。

流石さすが、師弟。


今度は正面に座っている、

こおりさんの弁当をのぞき込む。


「・・なんだ?」


「そういえば、

こおりさんも結構食べる方でしたっけ。」


こおりさんの弁当は、

意外な事に肉主体のガッツリ系だった。


それに、量も結構多い。


(この体のどこにこの量が・・。)


どこにそのカロリーがいくのか疑問になり、

思わず彼を凝視ぎょうししてしまった。


すると、彼は私に向かって鼻で笑う。


「そんなに見ても背は伸びんぞ。」


「離して下さい、いかずちさん。」


「落ち着け。」


今なら、一矢報いっしむくいる事ができそうです。


気のせいだから止めておきなさい。


どうしても離してくれない

いかずちさんの手をほどき、

立ち上がった私は2人の側から離れた。


私の背は断じて低くはない。


190を超えているこおりさんには、

低く感じるだけなのだ。


そのまま歩いた私は、

つるぎさんのグループに入る事にして、

その輪に加わった。


「お?」


「どうした?

ゾウアザラシみたいな顔して。」


「どんな顔ですか。」


そう言って私は、思わず笑ってしまう。


「また兄貴に揶揄からかわれたんだろ?」


「気にすんなって!」


「さ!飯は楽しい気分で食おうぜ!」


つるぎさんを筆頭ひっとうにここに居るメンバーは、

いつも騒ぎを起こす張本人ちょうほんにん達である。


しかし、

他の仲間の心境の変化に、

いち早く気が付くのもこのヒト達だ。


落ち込んでいる時


悲しんでいる時


機嫌きげんが悪い時


そういう時にこのメンバーは

こうやってさり無く元気づけてくれる。


だからつい、

多少の騒ぎは見逃みのがしてしまうのだ。


「いただきまーす。」


機嫌きげんの直った私が

自分の分の弁当を開けた時、

視界のはしつるぎさんの弁当が映る。


この光景は見慣れてはいるのだが・・。


「・・相変わらず大きいですね。」


「そうか?」


つるぎさんの弁当だけは、何度か見た事があった。


だから、

この『巨大5段重箱を10個』持って来るのは

予想がついていたので、驚かない。


気になるのは、

『何に入れて持って来たのか』くらいだ。


それともう一つ。


「奥さん、作るの大変じゃないですか?」


「ん?」


夢中で食べていたつるぎさんに訊くと、

口の中の物を飲み込み、お茶を1口飲んで言う。


「『子供達の分と一緒に作ってるから、

気になさらないで下さいな。』って言ってたぞ。

それに、俺も手伝ってるしな。」


つるぎさん、料理できますもんね。」


「おう。」


「まぁ、料理はできるにした事は無いしな。」


そう言ってうなづく彼に向かって、

全員が突っ込んだ。


お前のは料理じゃねぇ。


お前が料理を語るな。


それは、料理のカウントに入りません。


この場の全員から否定され、

話を聞いていた彼は不思議そうな顔をする。


「え?この弁当、俺が作って来たぞ?」


「そこじゃねぇよ。」


溜息をつかれ、

頭に疑問符ぎもんふを飛ばしているヒトは、

そらさんという。


つるぎさんの昔からの友人で、

ノリが良く、気さくで陽気な、

基本的には優しいお兄さんだ。


しかし、

このヒトも悪戯いたずら悪乗わるのりが大好きで、

つるぎさんと組んでは騒ぎを悪化させる

問題児である。


それと、彼には問題がもう1つ。


「なんで菓子を弁当箱に入れてんだよ。」


「美味いぞ。」


そう言い、

美味しそうに弁当箱の中のを食べた。


つるぎさん並みによく食べる彼が、

持ってきている弁当は5段重箱8つ。


その全てが、

彼手作りのお菓子でまっているのだ。


「相変わらずですね。」


「少し食うか?」


ほい。


弁当箱から1個クッキーを出し、

それを私にくれる。


クッキーは綺麗きれいな黄色に焼けていて、

甘くて香ばしい匂いがただよってきた。


「いただきます。」


匂いに釣られた私が、かじろうとした時。


「ダメだ!!」


慌てたつるぎさんに取り上げられてしまった。


「あ!・・なにするんですか。」


折角せっかくのクッキーを取り上げられ、

不貞腐ふてくされる私に、別の仲間が耳打ちする。


「あいつの菓子は止めとけ。

・・物凄ものすごくカロリー高いから。」


「え?」


驚く私に、別の仲間が続けた。


「高いなんてもんじゃないんだ。

あいつの作った菓子食ったら、

1週間は何も食わなくても生きていけるからな。」


「え?え?」


混乱する私に、つるぎさんがとどめを刺す。


偶然ぐうぜんあいつの家に遊びに言った時、

窓から鳥が入ってきてな。

落ちてたクッキーの欠片かけら食った瞬間、

まん丸になった。

・・あいつの菓子を食って無事だったのは、

同類のオジキだけなんだよ。」


それでも食うか?


静かにそう聞かれた私は、

そっと目をらして桜を見たのだった。

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