私と言い伝え


今日は朝から酷い天気だった。


起きた時にはすでに雨が降っていたのだが、

今はそれに雷まで加わっている。


「あ、光った。」


1,2,3,4,5・・。


「11、12、13」


ゴロゴロ・・。


「まだ遠いみたいですね。」



この方法は、

我が家に伝わる雷の距離のはかり方だ。


やり方は簡単で、

外が光ったら普通の早さで10を数える。


10を過ぎて音が聞こえたら遠く、

10を数える前に音が鳴れば近い。


単純だがとても分かりやすく、

我が家では、外で雷が光れば誰かが必ず数えている。


「今日は止まないな。」


カードゲームをしながら外を見て、

つるぎさんが言った。


「あ、また光ったぞ。」


1,2,3,4,5・・。


「6、7、8」


ゴロゴロゴロ。


「近くなりましたね。

・・雷苦手だから、困ります。」


「そうだったな。」


カードを選びながら、せきさんが答える。


「早くカード出せよ。」


若干苛々いらいらしながらつるぎさんがかすと、

せきさんは困った顔をした。


「・・その、出せる手札がなくて。」


アイテムと魔法ばかりで、モンスターが。


またか!!


カードの入った箱をせきさんの顔面に投げた後、

つるぎさんがいかずちさんを指差す。


「雷怖いんだろ?

取り敢えず、いかずち殴って気晴らししろよ。」


「なんでですか。」


手伝ってやるから!


気持ちだけで十分なんで。


2人でそうり取りをしていると、

本を読み終えたらしいこおりさんが

話しかけてきた。


「光った時に数を数えるのは、

いつ頃からやっているんだ?」


「覚えてないですね。

母から教わって、それからですから。

結構、小さい時からだとは思いますけど。」


「ふむ。」


そう言って、

また別の本を読もうとするこおりさんに

今度は私が質問する。


「どうしたんですか?

何か気になった事でも?」


本を読もうとした手を止め、

彼は再びこちらを見た。


「ただの興味だ。

お前は時々、俺達が知らない言い伝えを

知っているからな。」


「そうですか?

私より、みんなの方がよく知ってると

思いますけど。」



私は、

こういう言い伝えや迷信と

呼ばれるものが好きだ。


『嘘だ』


「科学的根拠こんきょが無い』


そう言って馬鹿にする人がいるが、

それは間違いだと思う。


そもそも言い伝えや迷信は、

何も無ければ生まれないのだ。


日々の暮らしの経験や、

何か事件が起きた時に生まれるのであって。


だから、

頭ごなしに否定しすぎる事は

危険な事だと私は思っている。



「そうだ。


今、安全な食い物が食えるのは、

昔の人間が食べられる物と、

食べられない物を言い伝えで教えたからだぞ。」


手に持ったお菓子を見せながら、

つるぎさんが言う。


「農業をする者にとっては、

天候を知る事は命をつなぐ技術だった。


みずからの経験と

祖先から伝えられた経験を合わせ、

天候を知る方法をみ出し、

定期的に決まった量の作物が採れるように

努力したんだ。」


キッチンに居たいかずちさんが、

手にしたねぎを切りながら続けた。


「言い伝えや迷信には、

いにしえの人間の経験が隠されている。

それを現代の技術と合わせれば、

更に便利になるだろう。」


これも、いにしえの人間の知恵の結晶だ。


そう言って、

こおりさんは手にした本を見せる。


「本は、

口伝くでんで伝えていた事を正しく記録し、

後世こうせいに残すための手法として考え出された物だ。


それを、娯楽ごらくや勉学にも使用した事で、

今の世の中がある。」


「そうですね。

本が娯楽ごらくの読み物になった事で、

物語が生まれたんですよね。」


物語が生まれた事で、

芝居や映画、アニメやゲームが生まれた。


そう考えると、

やっぱり昔から伝わる物は

馬鹿にしてはいけないと思う。


「昔から伝わる物には、

それなりの理由があるから、

それを考えるべきなんですね。」


「そうだな。」


こおりさんが、珍しく微笑んでくれた。


(おぉ!レアだ!)


その事に少し感動を覚えたが、

キッチンから今日の夕飯で喧嘩けんかをする

いかずちさんとつるぎさんの声が聞こえた瞬間、

彼は鬼の形相で走り去ってしまう。


少しして、

雷の音も吹き飛ばす大音量で、

こおりさんの怒鳴り声が家中に響く。


あれは、10数えなくてもけられないな。


せきさんがそう言って、苦笑した。

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