第七章

何時間たったろう?


森の中は、いっそう薄暗くなっていった。


すると、不思議なことに、木々が、キラキラと光だした。


少年たちは、びっくりして、恐る恐る立ち上がり、木を触りに行った。


すると、光っているのは、木の花だということが、わかった。


「花だよ!花だよ!さっきまでなかったのに!」と、弟は、声が弾んだ。


「本当、花が咲いている。しかも、光ってる!」


皆は、びっくりと同時に喜んだ。


「この花、どこまで咲いているのかな?」と、兄が言うと、「みんな迷わないようにかたまって、少し見て回ろうよ」と、少年が言うと、「うん!うん!」と、言い合い、歩き始めた。


光の花の森は、それまでの森と別の世界のように見えた。


触るのは、怖くて触れなかった。でも、真っ白な花の色は、とても美しく、少年たちは、見るだけで、満足だった。


どのくらい、歩いたろうか、兄が「そろそろ戻ろう。日が暮れたわけじゃないけど、もう、結構遅い時間になってるんじゃないか?」と言うと、

「そうだね、足も疲れてきたし、戻って休もう」と、少年も言った。


四人は、戻ると、バッタリ倒れてしまった。


「なんか、すんごく疲れたー。」と、妹がか細い声で、訴えた。

他の三人も、声がかすれて、小声で、「そうだね、今日は、はしゃぎ過ぎたよ」と、ばったんキュー状態で、応えた。


そのまま、四人はいつの間にか、寝入ってしまった。



目が覚めると、空はあいかわらず、青く、森の中は、薄暗く。そして、川には、魚が泳いでいた。


川に、水を汲みに行った少年は、呆気にとられた。



「、、、魚⁇」


確かに、川に魚が泳いでいる。色とりどりの魚たちが、川の中を、気持ち良さそうに泳いでいた。


少年は、みんなを呼びに戻った。


「早く来て!本当にいるんだよ!」と、言うと、他の三人を連れて、水汲み場まで、戻った。


「本当だ。魚がいる。いっぱいいる!」兄弟たちは、驚いてはしゃいだ。


「この魚たち、食べれるかな?」弟が言うと、「食べちゃうの?かわいそうだよ。見てるだけで、お腹いっぱいになっちゃう!」と、妹が言った。


「いったいこの川の先には、何があるのかな?街があるかも。」と、兄が言うと、少年は「僕は、ここで別れるよ」と、言い出した。


兄は、びっくりして「なんで?やっとここまで来たじゃん。これからだろ?」


「いや、いいよ。僕行きたくない。草原に帰るよ」


「きっと、この先には、街があるよ。そしたら、君たちも安心するだろ?僕、短かったけど、とても楽しかった。ありがとう」と、言うと、逆に向き、歩き出した。


「なんで?なんで?一緒にいたじゃん。これからも一緒にいようよ!一緒に、暮らして行こうよ!」兄が、言っても、少年は、振り返らず、来た道を反対に歩いて行った。


泣きながら。


兄は、引き返えさせようと、後を追うと、そこに、少年はいなかった。


「どこに行ったんだよー、一緒に探そうと言ったじゃん!あと少しかもしれないのに、帰って来て!帰って来て!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」


その声は、大きく叫んでいた。


森の中に、少年は、すでにいなかった。


守れなかった弟に、これ以上一緒にいるのは、苦し過ぎた。


いつからだろう?少年は、彼が自分の弟だと、気づいたのは。


一緒に、暮らし始め、旅をして来て、「僕が、もう少し大きかったら、あの子は、殺されずに済んだかもしれない。僕だけ、あの子より長く生きてしまった。」


そう過去を思い出しながら、泣きながら、彼は、水色の青空の下にある草原に、座り、後悔をしていた。


「僕の身体も、もうないだろう。あいつらは、僕が階段から落ちたように、僕を殺したから。」


少年は、「死ぬ」と、言うことを思い出した。


「君は、どこに生きたい?」


少年は、思い出していた、彼の最初の言葉。

あの子は、ここでも、決して幸せとは言えない暮らしをしていたんだろうか?


「生きたい」なぜ、「行きたい」ではなく、「生きたい」と、言ったと思ったんだろう?


なぜ、この草原に入れたんだろう?

「あいつらは、バレずに、保険金を、もらったんだろうか?」


「あの子の保険金は、もらってた。今度も、うまくやったろう。」


水色の空は、ずっと続く。だって、僕が望んだんだもの。

雲もいらない。人もいらない。果てしない草原があればいい。


太陽なんかない。だってこの世界は、僕が生きた世界じゃないもの。


でも、少年は、幻の太陽を見に、西の海に出かけた。



海に着くと、オレンジ色の光に海は包まれ、夕日が沈んでいく姿を見せていた。


浜辺で座り込み、沈む夕日を見続けた。


日が沈むと、レストランに入った。

いつものウェイターが、来て、「やあ、かなり久しぶりだなー。街は見つかったかい?兄弟たちは、無事に家に帰ったのかな?」


「同じ街には、帰れなかったかもしれないけど、他の街には行けたと思います。」と、応えた。


「君は、残らなかったの?一人で寂しくない?」と、ウェイターが聴くと、「

僕は、あの草原が大好きなんです。心が温まります。あの兄弟が、温かさを分けてくれたから、僕は、寂しくないです。」


すると「実は、僕は、君は元の場所に帰ると思ってたんだ。何と無く。君は、君の傷が癒えるまで、留まっていると、思ってた。」


少年は、「なぜ、そう思うんですか?」と、聞き返すと、ウェイターは、「僕は、もうかなり長くここにいるんだよ。本当の姿になったら、ガイコツになっちゃう。」と、少し苦笑いした。


「そんなに?」と言うと、「君は、大きな空を作っちゃうくらい、悲しいことが、あったんだね。」と、ウェイターは言った。


「この海は、昔は太陽が、あったんだ。光輝く青い海を嫌った人が、太陽を隠しちゃったんだよ。その隠した人は、俺の父さん。父さんは、おじいさんに、海に沈められた。きれいな透き通った水に、白い浜辺。太陽は、熱意良く光輝いていて。


海に閉じこめられた、父さんは、せめて太陽がなければって。

強い願いが、この世界を、歪め、夕日だけ残った。」


ウェイターが、いい終わると、少年は、驚いたまま、しばらく喋れなかった。そして、涙だけが、彼の悲しさを証言していた。

ウェイターは、しばらくだまると、また、口を開いた。

「前に来たときに、言ったと思うけど、この海で泊まったらいけないと、言ったよね?

なぜかと言うと、この海がまた、夕日になってからも、いると、ここから、出られなくなるんだよ。だから、俺も出られない。」


「夜空の星は、綺麗だろう?あの星々に、僕たちの世界はあるんだよ。父さんは、夜空を、選んだんだ。」


「僕が、青空を望んだように?」と、少年が、言うと、「ああ、そうだ。」と、応えた。


「僕は、酷いやつなんだろうか?」少年が、ポツリと言うと、「いやー、俺も夜しか見れない暮らしをしていると、自分の人生に腹が立つこともあるけど、君は酷いやつじゃないよ」


「空は、君を守ってくれるだろう?」と、ウェイターが言うと、「うん。なんでわかるの?」と言うと、「君が望んだことを、叶えてくれたろう?」と、返事が返ってきた。


その言葉で、少年は、ハッとした。

実の弟に会えたんだ。心残りで、引きずっていた弟に会えたんだ。と、

「ぼ、僕助けられなかった。お、弟を助けられなかった。」と、言いながら、少年は、声を出して泣き出した。


ウェイターは、黙って少年が、泣く姿を見守った。

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