第二話 転生・恩恵はサイコロで
朦朧とした意識が回復し始める。霞んだ視界が徐々に晴れ、目の前にあるものの輪郭がハッキリとしてくる。
「俺は・・・・・・」
思わず漏れた言葉に——
「あなたは死んだわ」
返事が返ってきた。そうか、俺は死んだのか・・・・・・。へ?死んだ?
「覚えていない? あなたはパチ屋の帰りにトラックに轢かれて死んだの。あれはあれは哀れなものだったわ」
そうだ、俺は死んだんだ。覚えている。クソ犬に有り金を持って行かれ自暴自棄になって帰っている最中、居眠り運転をしていたトラックに轢かれたんだ。
意識が回復すると、徐々に回りの情況が見えてくる。俺は木製の椅子に座らされていて、眼下には綺麗な光沢を放つ木製の机。周りは深い闇に包まれていて、俺の周りだけはスポットライトが当てられているかのように明るい。そして、目の前には少女が座っていた。
金色のロングヘア。サラサラとした髪質は、スポットライトのような光と合わさってキラキラと光っている。吸い込まれそうな碧眼。少しだけつり目だ。整った顔立ち。身長は150cmくらいだろうか。相手も椅子に座っているからハッキリとした体格はわからないが、まだ顔つき、体つきは少女とも言える。
「何?、私のことをまじまじと眺めて」
「いや、この情況がよくわからなくて。えっと、君は誰?」
「そういう時はまずは自分から名乗るものじゃない?」
明らかに自分よりも年下であろう相手に、悪態をつかれるのはなんだが、確かに無礼だったなと思い。名を名乗る。
「そう、はじめからそうしていればいいの。私は賭博の神、リーリアと言うは。あなたよりは数万倍偉い存在なんだからね」
俺からすると少女にしか見えない存在が、胸を張っている。いや、あまり胸はないのだが。
しかし「神様」と来たか。今まで無神論者を貫いてきた俺からすると、そもそもこの情況が、その反証とも言えるのだが、神様といわれるような存在がこんなちまっこい、言うならば女神っぽくない存在だというのはいささかいただけない。俺の知る、髪の毛がピンク色な「勝利の女神」はもう少し胸も大きいぞ。
「あなた、何か失礼なことを考えてない?」
凄い表情で睨まれた。神々しさというよりは、今まで多くの死線をかいくぐってきた、殺人鬼のような。
「いやいや、滅相もございません」
なんというか、そのまま椅子に座っていればお人形さんのように可愛い造形なのだが、節々でその性格に起因する残念な所が目についてしまう。せっかくしわの無いスカートをはいてるのに、足を組むとしわができちゃいますよ。というか、男のロマンが見えちゃいますよー。
——っといかんいかん、ここは平静を装ってこの情況をもう一度理解しなければいけない。
「それで、俺はどうすれば良いんだ?」
死んだと言うことは、俺はここで裁きを受けるのか? でも、相手は賭博の神とか言ってたな。
「あなたは、賭博の神から見てとても惨めな死を遂げたの。いや、惨め惨め。低設定の台を掴まされて、数万を突っ込んだあげく、やけになって天井を狙うなんて愚策中の愚策。ましてや、残ったお金すらも低設定のノーマル機に突っ込むなんて・・・・・・。期待値って言葉をご存じ? いや、あなたの世界のギャンブルをする人間はそんな言葉すらもしらないかもしれないけど」
カチン
「うるせえ、余計なお世話だ。良いじゃないか、俺がやりたくてやったんだ。後悔は無い・・・・・・と言えば嘘になるが、それでも楽しかった。適度に遊べてたんだ」
「食費を使い込んでも?」
うっ
「会社の飲み会のためのお金が無くなっても?」
ううっ
「本当にそれが適度な遊びなの? 完全にのめりこんでるんじゃないの?」
はい。
「あなたはそんなギャンブルが好きなの?」
ぐうの音も出ない。
こんなにも、俺のギャンブル癖について兎角言われたのは初めてだ。幸い、収入だけでなんとかやれていたが、今回の負けが大きかったのは間違いない。
少女はこちらを見て、ため息をして諭すように、こういった。
「あなたのような人がいるから、賭博は悪く見られるの。余ったお金で賭博をするのは問題ないの。適度に楽しめば。ただ、特にあなたの住んでいた世界、住んでいた国は町中に賭博場が溢れ、それに依存している人が多かったじゃない。それが私の社会的、いや神様だから社会ではなくて神界なんでけれど、その地位を低くしているのよ」
少女の熱弁は続く。
「いやね、私も賭博は好きなの。賭博の神様ですから。ただ、射幸性が高すぎるのは問題で、何よりあなたの国の賭博場の主な客は貧者じゃない。貧者からお金を巻き上げる行為というのは、それはもう賭博じゃなくてただの搾取でしかないの。一流企業の社長がパチンコをするって話し聞いたことある?あんまりないでしょ? つまり、そういうことなの・・・・・・。」
最終的には哀れみの瞳を向けられてしまった。
「えっと、少し質問しても良いか」
「『質問してもいいですか』でしょ。何よ」
「賭博の神様って言ってたけど、神様も賭博、まあギャンブルってしていいのか?」
この質問を聞くやいなや、彼女は顔を伏せ、肩をプルプルと震わせ始めた。
「えっと・・・・・・」
「あんたたちのせいで、できなくなったのよバカーーー!!」
凄い剣幕でののしられた。
「いい!! 私はね賭博の神様なの。今まで数多のギャンブルの場に立ち会い、ギャンブルに挑戦し、その様子を眺め、高揚感、脳汁、金銭を手にしてきたの。それが、賭博は神々や天使を堕落させるとか、現に人を堕落させているとか。そんなの自己管理ができない人間によって引き起こされる些末なものでしかないじゃない。それなのに、なんで天界でのギャンブルが規制されなきゃいけないわけ?」
「えっと、つまり、最近はご無沙汰と」
「そうよ、もう何十年もギャンブルに近い行為はできていないの。せいぜいできてもあみだくじとか、ジャンケンとかそのレベルよ。ギャンブル特有のあの頭の中にビビビと電流が走るような感覚。胸躍る高揚感。そんなのご無沙汰よ!! 」
どうやら、彼女も相当にジャンキーのご様子だ・・・・・・。
「あーもう思い出すだけでイライラする。ちょっとトイレ」
彼女は暗闇の中に消えていった。
しばらくすると、平静を取り戻した彼女が帰ってきた。仕切り直しである。
「えっと、それでさっき裁くとかいってたけど」
「『言われてましたけど』でしょ?」
「はい、先ほど裁くと言われてましたけど。」
「ええ、裁く。裁き方は簡単。私が管轄になった人の裁き方は極めた簡単」
そう言って、目の前に出されたのは2つのサイコロだった。
「これから、サイコロを、それぞれ5回ずつふる。私よりも大きい数字が出せたら、裁きにおいて何らかの優遇措置をとるわ」
「一度も勝てなかったら?」
「あなたの来世はミジンコ」
「なるほど、じゃあ5回とも勝った場合は?」
「二度目の勝利で人としての転生する権利。三度目の勝利でイレギュラーな形での転生が認められる。四度目の勝利で一定の資産を持った転生。これは神からの贈与という形になるわね。五度目の勝利で、あなたが欲しいものをひとつだけ持っていけるわ」
「なるほど・・・・・・だけどいいのか? そんな大盤振る舞いをして。もしも、俺が勝ってしまったら、それこそ大変じゃ?」
「細かい話をすると面倒くさいんだけど、最初、あなたはギャンブル依存からの自殺と見なされて私の管轄になったの。その後、天使が調査をしたところ『どうやらそうではない』ということがわかって、今回は特別。特例に近いと言ってもいいかもね。ギャンブル癖があること以外はまじめに仕事もしてたみたいだし」
「じゃあ、もしも俺が自殺をしていたら」
「来世は・・・・・・。そうね、アメーバだったんじゃないかしら」
畜生道より酷いじゃねえか!!
「ああ、ただ欲しいものを一つというので、願い事を100個とかそういうのは無しね。その時点で来世はクマムシにしてやるから」
クマムシなら長生きできそうだ。
「正直なことを言うと、本来であれば、あなたの管轄は私じゃ無いから、もう一度管轄の配置換えを申請して、別の神様の元で裁きを受ければこんなことをしなくても、人間としての転生は保証されるわよ」
「そこでも、ここみたいに来世の保証とかはあるのか?」
「それは無いわね。ここでの特例みたいなもの。神界も縦割り社会だし、私は比較的上位の存在で、やり方に文句を言う人はいないから、こういうことをやってるわけ。だって、面倒くさいじゃ無い。その人の過去の行いを洗いざらい調べるなんて」
少女は続ける
「ましてや、ろくでもない死に方の人が大多数をしめちゃってるわけで、過去の行いを洗いざらい調べたら、みんなアメーバかミジンコ、良くて犬になっちゃうの。そんなんだったら、一発逆転を狙う人生をしてきた人たちに、同じようなチャンスを与える方がおもしろいんじゃかなと思って」
悲しそうな微笑みだった。きっと彼女は賭博が本当に好きなのだろう。しかし自分の所に来る魂(でいいのか?)は皆、ろくでもないものばかり。多分、最初はまじめに過去を調べていたのだろうが、あまりにもその内容が悲惨すぎて、結局今のような形になってしまったのかもしれない。そう、彼女は賭博で幸せになって欲しいのだ。
そう、彼女は今の仕事がもう嫌になっていて、かつここにきた人間に一握りのチャンスを与えるために、こんな方法をとっているのだ。来世までギャンブルで決まるなんて、きっとここに割り当てられた魂もさぞ救われたことだろう。
「その話、のった。いいぜ、勝負しよう」
「『勝負してください』でしょ?」
「はい、俺と勝負してください」
「決定ね。それじゃあ準備を始めましょうか」
「いや、ちょっと待ってくれ」
準備に取りかかろうとする彼女を言葉で制止する。
「えーっと、神様、リーリア様だったかな。その仕事、楽しい?」
少女はポカンとした顔をして、こちらを見る。
「楽しいか楽しくないかと言えば、全く楽しくないわね。私も貴方たちみたいに、外の世界で賭博にふけりたいわよ。もういったい何十年とお預けをくらってるのかしら」
「ああ、それすらも規則でできないと・・・・・・」
「こんなんだったら、私も人間として生まれてこれば良かった。まあ、私ももう何百年と生きてるけど、こんなに退屈な時期は初めてよ」
「何百年・・・・・・。ちなみにおいくつで?」
「レディーに年齢は聞かない」
凄い剣幕で睨まれた。
「なるほど、じゃあ交渉しないか?」
「交渉?」
「ああ、交渉だ」
不思議そうな顔でこちらを眺めてくる少女に私は続ける。
「俺を5回サイコロのゲームで勝たせてくれ。そうすればあなたのギャンブルをしたいという願いをかなえてみせる。本当は嫌なんじゃ無いか? 神様の仕事なんて」
「そ、そんなわけないじゃない。私は生まれたときからこの地位に就くことが決められていて、そのための教育を受けてきたの。嫌とかそういう問題じゃ無い。これは使命なの」
使命・・・・・・ね・・・・・・。
「勝負もせずに勝ち得た立場なんて、面白くないんじゃないか? 本当はもっと外の世界で勝負したいんだろ?」
少女はうつむき、震えている。
「ええ、そうよ。本当はそうに決まっているじゃない。曲がりなりにも賭博の神なのよ。それなのに、こんな刺激の無い、脳汁が一滴も出ないような生活。やることはひたすら、暗い過去の記憶をあさるだけ。そんなのクソ食らえよっ!!」
ハーハーと息を荒げながら、本音を語ってくれた。
「神様って以外と人間と変わらないんだな」
「当たり前じゃ無い。本質的にあなたと私たちは同じ。全は一、一は全というでしょう。貴方たちを見守り、時には審判を下す神だって結局は人間と似たようなものなの。悪かったわね」
むくれた顔でそっぽを向かれてしまった。その容姿でその仕草はずるいぞ。
「で、のるのか?」
「わ、悪いようにはしないんでしょうね」
「もちろん」
「わ、わかったは。私がどうなろうと後任はいることだし・・・・・・」
交渉成立だ。さて、ここからが重要になってくる。いかにして俺が5連勝するかだ。
「もう一度サイコロのゲームのルールを説明してくれないか?」
「『ください』でしょ。もう・・・・・・いいけど。それじゃあ、ルールを説明するわ」
一呼吸置いて。
「まず、私が最初にサイコロを振る。その次にあなたがサイコロを振る。もしも、サイコロの目の和が同じの場合はドローとして、そのゲームはやり直しになる。」
「使うサイコロは決まっているのか?」
「ええ、決まっているわ。これは公平なゲームを成立させるため、決まったサイコロを使ってるの。もちろん、イカサマはできないわ」
「出目の判定・・・・・・えっと、どちらの数字が大きいか小さいかを決めるのは誰だ?」
「決まってるじゃ無い。私よ」
なら、話は早い
「うん、決まった。これにはイカサマも何も必要無い。えっと、リーリア様がたまたま、勘違いをすれば良い」
「たまたま勘違い?」
「ああ、仕事に疲れていたら眼精疲労とか判断ミスとかがあるだろ。だから、自分よりも大きい目が出ていようが小さい目が出ていようが『自分より大きい目を出されたと勘違いした』ことにすればいいだけだ」
「そんな、ふざけた話が・・・・・・」
「出目は記録されるのか?」
「さ、されないわ・・・・・・」
「じゃあ、問題ないな」
一呼吸置いて
「さて、ゲームと行こうか」
机を挟んでリーリアと向かい合う。目の前には綺麗な装飾が施されたお椀。その中にはサイコロが2つ。
「それじゃあ、やるか」
「ええ、良いわ・・・・・・。だけど・・・・・・」
彼女はどこか迷っている様子が見えた。まあ、大丈夫。俺の読みが正しければ。
一投目
彼女がサイコロを投げる。出目は2と3、つまり5。これを超える数字を出せばいい。緊張しながら、サイコロを振る。4と3。第一投目は俺の勝利のようだ。
「あなたの勝ちね。一投目は特に景品はないから。次からが勝負よ」
二投目(人としての転生をかけた戦い)
「ねえ・・・・・・本当に・・・・・・こんなこと許されるのかしら・・・・・・」
「何を今更」
「というか、私にどういう利益があるか、まだ説明してもらえてないじゃない。そこを説明されないと、私も判断できないわよ」
サイコロを手で揉みながら、こちらを睨む。
「ああ、説明したいんだが、なんというかこれは、最後のカードにしておきたくてね。大丈夫、リーリア様を不幸にするようなことは絶対にしない」
「後、言っておくけど、天界を破壊するボタンとかはないからね」
誰がそんなおっかないことを頼むか
彼女がサイコロを投げる。出目は1と2だ。これはほとんど俺の勝利が確定したと言ってもいい。サイコロを投げると、出目は1と6だった。
とりあえず、人間に生き返られることは確定のようだ。
「あなたの勝ちね、とりあえず人として生まれてこられることが決まって良かったじゃない」
三投目(イレギュラーな形での転生をかけた戦い)
「別にイカサマを使わなくても、あなたが全部勝ちそうじゃ無い?」
「馬鹿をいうな、たまたま運がいいだけだ。お前が言っていたように期待値で考えてみろ。あんたがさっきは薄いところを引いてくれたおかげだよ」
「『あんた』っていうな〜」
「はいはい、ごめんごめん」
頭をぽかぽか叩かれてしまった。
サイコロの和の確立は説明するまでもなく、4〜9に偏りやすい。だから、確率で言えば十分に余裕を持って勝利できる領域だったのだ。
「それじゃあ、投げるわよ」
賽は投げられた。お椀の中でサイコロがクルクルと回る。2と3の目が止まる。とはいえ。あくまでもこれは運の勝負でしかないのだから。仕方が無い。俺もサイコロを振る。3と3が止まる。3回目も俺の勝利だ。
「あなたの勝ちね。イレギュラーな形での転生が認められたけど、どういうのがお望み?」
「今のこの肉体と、知識をもったまま転生したい。だから、どちらかと言えばワープに近いのか?」
「ま、召還するって言い方が正しいかもね。それなら大丈夫。可能よ・・・・・・ただ・・・・・・」
「ただ?」
「そうなると、必然的に人類がある程度の文明を築いている世界に限られるわ。今のあなたの状態で、皆がまだ火の使い方すらわからない世界に飛ばされても困るでしょ?」
「ああ、願ったり叶ったりだ。あ、ただ、肉体の年齢は今よりも7歳ほど若くしておいてくれ。最近元気が無くて」
少女は羽ペンでサラサラと書類に俺の希望事項を記入している。
「ちなみに、希望する文明レベルとかある?おそらく、今の魂密度量的にエルトナという星で転生しそうだけど」
ここらへんの仕事はちゃんとやるタイプのようだ。
「そこはどういう国なんだ」
「あなたがいた世界でたとえると、18世紀ヨーロッパぐらいの文明レベルかしら。人型と亜人が乱れていて、あなたには馴染みがないかもしれないけど、えーっとあなたの世界でいう魔法みたいなものがあるわ。超能力って言った方が良いのかもしれないけど」
魔法だと!? ちょっとドキドキしてくるじゃないか。
「魔法が発達している代わりに科学、とりわけ電気工学に関する分野は発達が遅いわね。まあ、魔法で同じことができてしまうんだから発達しなくて当然なんだけれど」
「俺も、その魔法は使えるようになるのか」
「ええ、使えるようになると思うわ」
魔法が使えるようになるだと?たしかにこのまま行けば地球(日本)基準で魔法使いにはなりそうだったが、確固たる魔法が使えるなんて、まさに夢物語だ。
「雑談はここまでにして、四投目をしましょう」
「ああ」
四投目(一定の資産を持った転生をかけた戦い)
彼女の投げたサイコロは4と4を出した。可能ならドローかこれ以上の値を出したい。賽を振る。3と5。ドローだ。
「もう一回ね」
「ああ」
彼女の瞳はどこか燃えていて、それは勝負事に挑むギャンブラーそのものだった。もちろん、彼女は何かをかけているわけではないが、1対1の勝負。つまり、誰にも迷惑をかけず、そして敗北の原因はすべて自分にある勝負。それこそが俺たちを駆り立てるのだ。
彼女の投げたサイコロは5と2を出した。大丈夫、これならまだ大丈夫な数字だ。今度は俺がサイコロを投げる。4と4。再び俺の勝利だ。
「あなたの勝ちね。これであなたは、ある程度の資産をもった状態で転生ができるわ。遊んで暮らせる量ではないけれど、それを元手に働いていけば十分な富は築けるはずよ」
「ああ、それは素直に嬉しいな」
五投目(欲しいものをひとつだけ持って行ける権利をかけた戦い)
彼女はのぞき込むような、上目遣いのような瞳で問う
「結果的にあたなは実力でここまで買ってきたけど、結局、この勝負でかった時の願いはなんなの?」
「うーん、それはまだ秘密だなー」
「いっとくけど、神様が誰かに贔屓をするのって、結構ばれたときに責任問題になるのよ」
「大丈夫大丈夫、ばれなきゃ問題ない。そしてここで俺が勝てば、その問題を追及されることも無い」
「よくわからないけど・・・・・・でも、私もギャンブルができるようになるんでしょうね。」
「ま、願い事は勝ったときに言うよ。ただ、リーリア様がギャンブルができるようになることは保証する。やりたい放題し放題だ」
「わ、わかったわ」
彼女の瞳は少し蕩けているように見えた。
この勝負に勝てば、俺は「欲しいものをひとつだけ」持って行くことができる。彼女がサイコロを投げる。5と6。この数字が出た時点で6と6か、あるいはイカサマでの勝利しか道は残されていない。賽は投げられた。カラカラと乾いた音を立てながら徐々にサイコロの動きが止まる。出目は・・・・・・・・・・・・1と1。
「ああ、俺の欲しいもの」
「俺の欲しいものは——リーリア様、貴方だ。一緒に転生して、人間界で賭博を楽しもうじゃないか」
「ええっ!?」
予想外の要求に彼女は赤面していた。
瞳は上下、左右に動き、顔には汗が浮かんでいる。さあ、ここでイカサマをして、俺が勝利したことにしてくれれば、君も自由になるんだぞ。
「えっと・・・・・・」
「どうした?」
「大切にしてくれる?」
何をだ?そりゃあ、人生は大切だが。
「もちろんだ」
「私はあなたのものになるってことよ?」
「ああ」
ただの方便なのに、やけにここに固執するな。
「わかったわ」
彼女は決心した顔をしてこういった。
「6と6・・・・・・ね。最後も私の負け。しかも欲しいものは私だってさ。はー困っちゃうわ〜〜」
そう言って立ち上がると、さりげなくサイコロを回収する。証拠の隠滅だ。
彼女は壁際に設置されている受話器を取り、会話を始めた。なにやらもめている様子だが、そりゃあ神様を一人連れて行くんだ。騒動にはなるだろう。しばらく押し問答が続いていたようだが、彼女は電話を切った。
「手続きは滞りなく終わったは。これで晴れて、あなたは次の世界で新しい人生を謳歌できるってわけ」
「そして、それに私もついて行けるってわけ」
調子良さそうに俺に腕を絡めてくる。なんで突然こんなにフレンドリーになったんだこいつは。
「それじゃ、いきましょうか」
そういって、再び電話機で相手に向かって指示を出した。
「3分後に処理が行われるから。これから転生する世界について簡単に説明するわ」
「ああ、それは嬉しい」
「さっき、魂密度量って言葉で、この世界というか星を選んだの覚えてる?」
「ああ、覚えてる」
「この世界はつい最近まで、酷い戦争が起きていたの。血で血を洗う。悲惨なものだったわ。つい1年ほど前、その戦争も終わり、各地には傷跡が残っているものの、平和な世界が実現されてきているわ」
「ああ、だから人を増やそうと」
「そういうこと。魂の数は有限だけど、その分配がどうしてもうまくいかないのよねえ。ま、そんな話からは私も卒業だけどね。あなたについて行く以上、神としての力は残しているけど、ほとんど人間みたいになっちゃうし」
「それはちょっと残念だな」
「で、でも、これから一緒に幸せに生きていくんでしょ?」
「そ、そりゃあ初めての世界だからな。最初は力を合わせていろいろと開拓していこうじゃないか」
「うふふ、やっぱりそうじゃないとね・・・・・・。あ、そろそろ時間よ。目を閉じて」
「ああ」
目を閉じて10秒ぐらいたつと、体中の皮膚、肉、皮膚が綺麗にばらばらになっていく感覚に襲われた。目の前は青白い世界が広がっていて、神秘的だ。これが臨死体験なのだろうかって、俺はすでに死んでいたわ。徐々に視界が真っ白になっていく。体の感覚もなくなっていく。
ああ、俺は転生するんだな。
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