初恋をのせて

榎本みふね

プロローグ

私は桜並木の下を歩いている。


この春から神奈川県内の女子大学に合格し、進学することになっていた私こと橋本ミツキは、これから訪れる新たな暮らしに思いを馳せる。


大学は中学や高校時代のように制服に装う必要もなく、興味のある勉強だけをして、二十歳になったらお酒だって飲める。学割だって効くし…。ああ、大学生ってなんて素晴らしいんだろう。


一週間前までは友達ができるかどうか悩んでいた私だが、今はそんなことはどうだっていい。目の前に広がる自由な生活に、思わず胸が高鳴った。私は、そのまま桜並木の道を小走りした。



私が大学を選ぶ条件として、たった一つ譲れないものがあった。それは女子大学であるということだ。


そして私が女子大学を選んだ理由はたった一つ。男性が苦手だったから。小学校時代に男子にいじめられた経験を持つ私は、それが半ばトラウマとなっていたのだ。そのトラウマが原因で中学から高校まで女子校に進学し、大学も女子大学を選んだ。徹底的に、同年代の男性との交流を絶ってきたのだ。


だけど、私の十九年という記憶の中で、たった一人だけ心の中に忘れられない男の子がいる。


小学校の頃、一年間だけ同じクラスになったアキラくんは、どれだけ時間が経っても私の中で色褪せない、私の初恋だ。


小学校時代の初恋を十九年も引きずるなんて、我ながらおかしな話だとは思うが、私が他の男性に興味を持てない理由の一つに、彼の存在の大きさがあるのだと思う。


だけどそれは決して甘酸っぱい思い出ではなく、

私にとっては少しだけほろ苦い記憶だ。

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