なんか青春の予感
昨日の母のメールが気にかかる。用事があればそれこそ電話やメールを使えばいいのに口頭で、だなんて。事件発生?いやいや。非現実すぎる。
は、まさか妹!俺に義妹ができるとか……んなわけないか。だとすると、戸籍上存在するはずのない妹…とか……。こっちの方が現実味がないな。
いや、しかし…………。
「っしゃいあせー」
なんなんだ一体。
「あの……柏桐さん?おーい柏桐さん。おーいって言ってるじゃないですかッ!」
「グッフゥ!?」
なんか腹のあたりに重たい何かが刺さったような気がした。
意識が眼前の光景に戻る。
財布に手を突っ込んでいる自分の手。その奥には菓子パンとおにぎりが一つずつ。
「!ッハ……すいません。えーと……」
けだるそうに対応するコンビニのアルバイトに視線を移す。
「三百五十二円になりやーす」
小銭、小銭……あと一円……。
ヒッ!後ろからものすごい威圧感が。
首をあの時の壊れた人形のように百八十度回……そうとしたが、スーツを身に纏い時計を凝視する人生の先輩の顔を俺は見れなかった。だって怖いんだもの。
「ありがとーっざいあしたー」
気の抜けた声が自動ドア越しに聞こえる。
「お昼はそれだけでいいんですか?」
首を傾けて管理人さんが聞いてくる。
弁当を作るなんて面倒くさいことはする俺ではないので、昼食は最寄りのコンビニか購買で買うことにした。毎日自炊する管理人さんからしたら、質素なのだろう。
「いいですよ、別に。朝から作る時間もないので」
「そして食生活が傾いてぶくぶくと太っていくんですよ?しっかりしてください」
「はあ、なんかすいません」
「いえいえでは行きましょうか」
「はい」
歩道を歩いているとホントに驚かされる。共学とはいえ一年目。当たり前なのだろうが同じ制服を着ている人の比率がすごい。女子対男子で、八対二くらいだ。今まで考えられなかったな。しかも制服がすごい。なんだよ女子の制服!スカート、スカートがみんな膝上なんだけど………………!
感激だあ。
前の学校は頭が固いのかバカなのか知らないが、校則での膝下着用。そんなもん、文学少女の特権だろうが。しかも、制服の校則とかあんま意味なくね?どーせ守らないんだし。ま、決まり事って破るためにあるって言ってたよなあ。
「どうしたんですか、初めてファ○コン買ってもらった子供みたいに」
「例えがわかりずらいですよ。俺、D○より前のゲーム機、スー○ーファミ○ンでマリオワールドやったくらいですよ!」
「まあ、私も持ってないのですけど」
「持ってないんかい!」
「いや、あったんだけど壊しちゃって」
「壊れたんじゃなくて!?」
「まあ、牛乳飲んでる時に吹いちゃってぶっかけちゃいました」
「へ、へえ。そんなことが……」
なんだろう、可愛い子がぶっかけるとか言うと、なぜだか卑猥にしか聞こえないんだが……。
「あ、そういえば今日って何があるんですか?時間割りにはレクリエーションって書いてあったんですけど。毎年のことなんですか?」
「さあ、毎年かどうかは知りませんが、去年あった覚えはありませんね」
「何するんですかね、一日中なんて」
「楽しみですね。頭を使うのか体を使うのか。どちらにせよ自身はあまりないですね……」
「だったら俺は体を使うのがいいですね。俺も勉強はちょっと」
決して体力に自信があったり、身体能力がずば抜けているわけではない。だったら運動部のエースとして高校生活を充実して過ごしていただろう。そしてまあ、勉強は中の中ぐらいだ全国的に見て。多分。
「でも以外ですね。見た目からして管理人さん頭よさそうなのに」
「いえいえ、そんなことはないですよ。一番近いのだと、三学期の期末なんて十二位だったんですから。まだまだですかね私も。一桁行きたかったのですが」
唖然する俺をよそに彼女は話しを続ける。
「だから、塾にでも行こうかなあ。って考えているところなんですよー。どう思います?」
「…………」
いけないな。到底俺の成績なんていったら……。
冷たい何かが背筋を走る。
「あ、あはは。や、やる気の問題じゃないですか?塾なんて金かかるし、やる気がないと意味なんてないですよ」
俺的には帰ってくれなくなるのは嫌だから、あまり行かないでほしい。
「そうですよね。やる気ですか………。もう少し考えてみます」
「はい、そうしてください」
やる気。俺とかけ離れた存在。勉強も頑張ったのは受験勉強くらいだし、中学の時に入っていた部活もダラダラと体を動かしただけ。やる気なんて微塵もおきなかった。寝たまんまとかどうかしてるぜ。
中学の時のどうでもいいようなことを思い出していると、突然――
フワッと柔らかい香りが漂ってきた。
俺が管理人さんとの会話に花を咲かせているかどうかは置いといて、コスモス一輪でも咲いていてくれと願っている中、その人は俺の横を颯爽と歩いて行った。
一目惚れとかじゃなく、ただ見入ってしまっていた。
正に雲の上の人。
草原に咲く一輪の白い薔薇。
とにかく綺麗だった。
雪のように白い肌。
風になびく腰にまで届く長い髪は艶やかな黒色。
俺と同じかそれ以上、百七十センチぐらいある身長は余計に大人っぽく見える。
短い(←ここ重要)スカートから除く二本の金棒⁉じゃなくて太ももは何をも凌駕する代物。
芸術だ…………。
ただそこにいるだけで絵になる少女……………。
しかし、俺の美少女観察時間はそう長くは続かず、信号に阻まれ車が通りすぎたかと思うともうそこにはいなかった。見失ってしまった。
わなわなと震える手で指を指し、
「あ、あの………管理人さん。……今の方は……」
「ああ、あれは王女様ですよ。この高校の」
「王女様?どこかの令嬢か何かなんですか?」
「いいや、そうではなくて、ほらよくいるじゃない?学校には一人くらい。学校のアイドルみたいな子」
「あ、はい」
俺の前の学校にもいた。周りに何人もの男を侍らせてたヤツ。好感はもてなかったが。
「そういうのよ。でも、家は普通のお金持ちらしくてなんでも、男には興味がないとか。だからこの女子高に入ったって噂があるわ。ま、あくまで噂だから私はあまり信じてないですけど」
「へー。ホントにそんな人がいるとはねえ……」
「なに?一目惚れとかしちゃった系?」
ウフフと口元を抑えながら笑っている。色恋沙汰には敏感なお年なのだろう。俺もだが。
「いえ、違いますね。ただ綺麗だなあって思っただけですよ。管理人さんもテレビで見た俳優さんが物凄いイケメンでもそう簡単に一目惚れとかしませんよね?」
「まあ、そうですね……」
「それと一緒です」
「なるほど……そういうものですか」
「そうですよ」
はあ、と何やらため息をついていられる。
「お疲れのようですね、お荷物お持ちしましょうか?」
そっと両手を横に歩いている彼女に突き出す。
ふざけた調子で言った俺の言葉に返事が返って来たのは、九十度右からだった。
「――――へぇアンタそういう性格なの?」
「!え、えと……君は?」
そこに立っていたのは
「ああ、自己紹介、教室ではまだだったっけ。
―――名前は吾壌菜生よ。このヘンタイ」
ゴミくずを見る目をした少女は俺をあろうことかヘンタイ覗きクソ野郎(←被害妄想のため幻聴が聞こえている)と呼びやがった。しかもこの公衆の面前で!
怒りを抑えよ、柏桐弘幸!誤解かもしれん。ここは深重にいけ。
「へ?えーと何のことでせうか?」
「とぼけるな!」
彼女はビシ!と指を拳銃のように鼻先ギリギリまで突き付けてきて、
「アンタ私の着替え覗いたでしょーーーーーーがあああああぁぁぁぁぁ」
そんな声は山奥で修行中の僧侶まで聞こえたらしい。
教室に入るなり第一体育館へ行くよう先生に言われた。
話を聞くと、どうやら今日のレクリエーションの件についてだという。
教室まで一緒にきた管理人さんと吾壌さんと俺の三人でいくことにした。
「………けどさっきの話ホントなのー?作り話っぽさがすごいんだけど。しかも、私のこと覚えてないってどういうことよ。まったく」
「だからすまんって何回いやぁいいんだよ!このアホ。阿呆の都にでも帰れ」
あの絶叫後、何回も弁解したのだが信じてもらえず………しまいには管理人さんからもシロクマのように白く牙のように鋭い視線を貰った。
そんなこんなでこの状況……………。
あとで、先生に助けを求めよう。
そうだな、嫌に言いふらされても困るな。どうしたもんかね。
「阿呆の都っていったいどこにあるのよ!アンタこそ変態集う、キモイ宗教にでも入れば?少しでも自分のキモさに気づくとおもうわよ!」
「え!?そんなに俺キモい?ねえ、管理人さん俺ってそんなキモい!?」
「大丈夫ですよ。柏桐さんは相も変わらず普通ですよ」
「え、フォローになってないですよ!でも、なんか嬉しい」
なんか顔が緩んでしまう。
「…………キモッ」
「なんなんだお前!キモイしか言えねーのか!ボキャブラリー少なすぎるだろ。本をもっと読め!本を」
「なにっ―――――」
吾壌がなにか叫ぼうとした瞬間、管理人さんが口に人差し指をその柔らかそうな唇にあて、
「お二人とも………お静かに。皆さんがこちらを凝視しておられます」
ハッと気づいて二人同時に、左右に首を向ける。
ジトーっとした視線が送られてきている。それは男子生徒が珍しいのか、男子生徒と女子生徒が喧嘩しているのが珍しいのか、それとも痴話げんかか何かだと思われているらしい。心外だ。
しかし、
「「ご、ごめんなさい」」
とりあえず謝っておくことにした。
「おはよう!全校生徒諸君、私がこの学校の生徒会長だ。朝早くからすまない。時間割りにも書いてあった通り今日は、生徒会と執行委員主催のレクリエーションをとり行う。レクリエーションっと言っても小学校でした、フルーツバスケットやいす取りゲームのようなクラス会の域ではない。………………題して
―――――――お宝さがしゲえええええええええム!!!
ふん、まんま小学生のお遊戯だって?侮るなかれ!これはただのお宝さがしゲームではない。説明は執行委員委員長の小鳥遊さんから」
なんか以上なテンションの生徒会長がなんか以上な声の大きさでなんかすごいことを叫んでいた。
そんな会長は左に手を向ける。
「おはようございます。執行委員委員長の小鳥遊です。突然ですが、ルールの説明です。まず、三人一組でチームを作って下さい。学年、性別等は問いません。チームが決まり次第、リーダーを一人決めてこちらに言いに来てください。全生徒の完了次第、次に七センチの正方形の紙を配ります。この紙はどう使おうと自由です。その際貰ったら必ず内容を確認してください。その内容がお宝獲得の条件となっております。まあ、ぶっちゃけますと、その中にはどこかのチームのリーダーの名前が書いてあり、その人を捕まえて生徒会室もしくは執行委員室に連行する、というものです。手段は問いません。しかし明らかに限度が超えていると我々がみなした場合、有無を言わさず失格とさせていただきます」
体育館内がざわつきだしてもたんたんと説明を行う委員長。
そのざわめきを制するかのように会長が続ける。
「ハイハーイ。説明も終わったことだし、ではチーム分けスタート!」
時刻は八時四十五分。
一斉に体育館が大きな波になった。
ざわざわした雰囲気の中、まずは管理人さんに声をかける。
「管理人さん、組みませんか?こういうのって男手が必要でしょう?組みましょうよ!ね!」
「はい、いいですよ。任せました」
以外………ではないな。友達いないって言ってたし。
「ありがとうございます!あと一人探してきます」
あと、一人か……。って近くにいたじゃん。やはりコイツだな。
「おい!吾壌、組まないか?守り切ってやるぜ!」
俺の誤解話を!!!
手を握って俺が迫る。
「はあ!?」
そりゃあ、たじろぎもするわな。さっきまで口喧嘩してたんだし。だけど、俺にもひけない時くらいあるんだよ!
「頼むよ!お前じゃなきゃダメなんだ!絶対だ、絶対守り切ってみせる」
尻すぼみになる声、最後の方は聞こえないでいてくれ。ぶっ殺される。
「え、あの……ちょっと。………でもまあ、梨江はみあたらないし、晴海は休みだし……、べ、別にいいけど……」
人の熱気にあてられているのか、ほのかに頬が紅潮している。
吾壌の声も俺と同じく尻すぼみになっていて上手く聞きとれない。
「なんだって!?」
「だから、いいって言ってるでしょ!このバカ」
なんだとこの野郎!
と、本来なら言っているのだが……だめだ折角チームに入ってくれたのに、落ち着け。
不安要素が逃げてくぞ!
気持ちを落ち着け管理人さんに手招きをする。
「な、なら良かった。サンキュー。管理人さん、はい。二人目です」
「まあ、吾壌さん。よろしくお願いします」
「え、う、うん」
なぜ睨む。
そらした顔を元に戻して話を進める。
「で、リーダーの話なんだが、どうする?危険を伴うが、何なら俺がやってもいい。俺が誘ったんだし」
「そんなの私に決まってるでしょ!」
不思議も不思議。なぜか、吾壌が言い出した。
「?…………決まってるのか?」
「え!?だってアンタ守り切ってみせるって言ったじゃない!何?違うの?」
は!そういうことね。お前にはそう聞こえてたのね。ごめんなさい。言ったら殺されると思って…………でも、ホントのことを言うわけにはいかないよなあ………。反感かって、言いふらされそうだし………ハア………。
「そ、そうだよ!守ってやるさ!」
「じゃ、決まりですね。さ、エントリーに行きましょう」
「そうですね」
そのまま俺達はエントリーにむかい、他のチームが完成するのを待った。
その際俺は、同学年のイケメン野郎が女子に囲まれているところを見た。ムカツクナー、クソー。いいなーハーレム。
以外にも早くみんなチーム決めが終わったみたいだ。
知らせの放送が体育館を包む。
時刻は八時十分過ぎ。
「ハーイでは今から紙、配るぞー」
会長の言葉を合図とし、一斉に生徒会役員と執行委員が動きだす。
手際よくこなしていき、やっと俺達に紙が配られた。
受け取った俺は二人が見えるように、その紙を開く。中には、
――――――櫻樹神人を探せ―――――
と書いてある。見たことも聞いたこともない名前。管理人さん……は知らなさそうだな。吾壌にでも訊いてみるか。
「なあ、吾壌。知ってる?コイツ」
「うん、まあ。あのイケメンよ。アンタと一緒の時期に転入してきた、同級生の」
「マジ!?」
「まじ」
確認終了!顔の次は名前もイケメンとか反則だろ。
………………絶対潰してやる……………!
「アンタなんて顔してんのよ」
「怖いですよ。柏桐さん」
「!す、すみません。じゃ、二人とも頑張りましょう!」
と、そのところで、会長がまたしても叫んだ。アンタ、ガキ○にでたあの人かよ。
「ハーイみんな紙はいきわたったか?それではっとその前に、みんなのやる気を出させるための物。今回の戦利品、お宝の一部公開しまーす」
同時にモニターに今回の商品が映し出される。
一年間、学食無料券や欲しい漫画全巻セット、お金二十万円等の豪華特典が投影される。
それをみたハンター達は拳を上げ絶叫する。男子は大胆に。女子はおしとやかに。
きたきたきたきた!こういうのを待ってたんだよ。ただの親睦会かと思っていたが………すごいなオイ!感動モンだぜ。
またも、腕をモニターにむけ会長は喋る。
「なお、この戦利品は早いもの順だあ!もちろん、戦利品はチーム内で山分けとかじゃなくて、三人全員に贈呈される。行動範囲はこの学校の敷地ないならどこでもオーケー!制限時間は五時の放送が終わるまでだ!さあ、ちれちれ!開始は今から二十分後だ。あ、お昼はちゃんとあるから心配しないでね?」
会長の言葉が火種となり、大勢の弾丸は校内、外へと放たれる。
よし、ぜってー商品ゲットしてやるぜ。
俺は管理人さんと吾壌を先導するかのように右足を一歩前に突き出した。
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