第三章 栄光の英雄魔術師_1
第三章 栄光の英雄魔術師
マグネス王国の機関やグルタフ州警察等との調整の
グルタフの町を地区ごとに区切って分担で捜索活動をしているらしい。捜索を終えた場所には妖精
「勝手に魔術を使ったらいけないの?」
「それが見つかれば
「えっ!?」
私はルクレーシャスと箱馬車に乗り、未捜索で妖精避けの魔術がかけられていない地区へ向かっていた。
私の
私はルビーちゃんを
「自分で知らない内に使っちゃったら? それでも捕まる?」
「魔術に関してそういうことはない。……人間の使う魔術と妖精の魔術はまったく別物だ。俺たちは理論に
「そう……よかった、のかしら?」
「少なくとも警察署の
「でも最近、檻の中に入るのも慣れてきたわよ、私」
いつもと気分が
ルクレーシャスは
「慣れるようなことではないだろうに……着いたぞ」
「チーム分けするぞー」
アーロンが
けれど、私を見てアーロンは「ああ」と
「えっ、何これ?」
「リンジーさんにはお
「
「あんた、勘違いでリンジーさんを殺しかけといてまだ謝罪も済んでないんだろ? いいのかなー? この人を好きな妖精が、果たしてどう思うかな?」
宙に浮いていたルビーちゃんがちらりとナリサスを見やった。話を聞いていたらしい。
ルビーちゃんの視線を受けて、ナリサスは
「私を……今回の
「この捜索に加わったからって、見つけられた妖精があんたに恩を感じるわけでもないだろう。魔術を使えない方々はすっこんでいてくれた方が足手まといにならなくていい」
「貴様……!」
魔術を使えない?
私はナリサスを見た。彼は黒いローブ姿で、
けれど彼は魔術を使うことができないらしい。そういえば、庭にいた時も、私をバルコニーから落とす魔法を使ったのは、ナリサスに命じられたアドニスさんだった。
ルビーちゃんの視線を受けて引き下がったナリサスとアドニスさんと一緒に、私はお金の入った
「私も一緒に
「魔術の知識のない人間にいられるのは
「ナリサス……にも知識がないの?」
「知識はある程度ある。だが、本当の知識は
じろりと
年はルクレーシャスより私と近そうだし、この間はバルコニーから落とされかけてもいる。
なんとなく
それにしても、命令をされると、
「どうして魔術協会にいるの?」
「……魔術師を目指しているからだ。私はいわゆる、見習いの状態だ」
「へえ、そういう人もいるのね」
「買い物へ行くのだろう? マキン。さっさと終わらせろ」
ナリサスは早口で言う。
「この間は……その。……私が付き合ってやるのだから、ありがたく思え!」
それだけ言うと、ナリサスは私に背を向けて歩いていった。
続く謝罪の言葉はない。もしかして──。
「今のがごめんなさいの代わりなの!?
「
「そんなものないわよ。買い物だなんてさっき言われたばかりなんだから!」
堂々たる足取りで
ナリサスは意外と不満を言わず、私の買い物に付き合ってくれていた。
今後、あの
「そういえば、アドニスさんは魔術師よね?」
私を風の魔術か何かで落としたのだから、彼は魔術師に違いない。
「捜索に参加しなくていいの?」
「え、ええと……私は」
「マキン、この男はまだ仮登録の身分だから、基本的に魔術を使ってはいけないのだ」
「仮?」
「私が
「ナリサス様、私は時間がかかっても構いませんので」
「この私の推薦だぞ? それが、推薦理由が不確かだと、書類を中々通さない! あのアーロンという成り上がりの男が」
ナリサスとアーロンは仲が悪いらしい。二人の育ちをはっきりと聞いたわけではないけれど、ナリサスは
「ナリサスは魔術師見習いで、アドニスさんは仮登録の魔術師で……二人とも、魔術師になって何かやりたいことがあるの? えーと、過去や、未来を変えたりしたいの?」
「変えられるものなら変えたい過去なら、ある」
ナリサスは強い口調で言った。
その口調があまりに
「オークランド王国に生きる多くの者が、過去を変えたいと思っているはずだ。もしできるのであれば……その時代は十年前に集中するだろう。あの戦争で起きた出来事の多くを、みながどうにかしたいと思っているに違いない。私も、もしできるのであれば、兄君を──」
ぎゅっと目を強く
「過去や未来に
「聞いている?」
「つまり、発見されていないということだ。もしそんな魔術について書かれた書があれば、それは大魔術師の書として
大魔術師というのは具体的に目指せるような目標ではないらしい。
だとしたらやっぱり、大量の魔石を得るのは人間にとってリスクでしかないということだ。
「そんな魔術があれば、妖精が知らないはずがない。妖精の想像力こそ、あらゆる魔術の源なのだから──だが、聞いたことがないし、そのような大魔術は使えなくとも、魔術には様々な可能性がある。私は、ルクレーシャス様を見てそう感じた。あの方は
アドニスさんは同意するように頷いてみせた。
二人とも、何か強い目的を持って、魔術を求めているらしい。魔術師はみんなそうなのかもしれない。
「マキン──妖精との関係をとりなしてはくれないか? 私はこの国での魔術師の地位の向上の為、
魔石を得ることにはリスクがあるけれど、目的の為に彼はそれを
ナリサスのような貴族が魔術師になり、妖精の為に活動してくれたら、この国はルビーちゃんたちにとってもっと安全になるかもしれない。
「あの、よかったら今度ルビーちゃんとお話ししてみる? 私の
「無理やりはやめろ。これ以上
「ですが、ある程度無理を通してでも、一度話をしませんと……」
「アドニス、おまえがそう言うから先日は
ナリサスがちらりと私を見たから、それは私と初めて出会った時の事かもしれない。彼は頭痛をこらえるような顔をして、首を振った。
「私が魔術師になりたいと願うのはルクレーシャス様の
アーロン。魔術師で、ルクレーシャスと共に魔術協会の運営に
ナリサスの話を聞いていると、アーロンのこともそうだけれど、まったくタイプの
「ルクレーシャス様の蔵書には、様々な魔術書があるという。アドニスが登録できたらすぐにでも調べさせたい」
「魔術書なんてものまで持っているのね。売ってるところを見たことがないわ」
「貴重なものだから
アドニスさんが
私にはよくわからないけれど、何やらすごい魔術書なのかもしれない。
「色々あるのね、魔術の世界って」
「とても不思議で
目を
本当に魔術が好きで、魔術師であるルクレーシャスに
それに比べ、アーロンはルクレーシャス思いだとしても、行き過ぎている気がした。
(ルクレーシャスだって、
ナリサスには
丁度正午ぐらい。屋台の食事に
特にナリサスが
「人が多い場所をこれほど歩き回ったことなどない……」
「
「熱い茶がいい。身体が冷え切っている」
広場の反対側に並ぶ飲み物の屋台に向かうと、くいと
「え?」
今度は
そういう事が何度か続いて、広場に面した細い路地に誘導していることがわかったから、私は
──そして、路地の中に見知った顔を見つけて心から驚いた。
「トピ! 今、あなたのことを
十代前半ほどの少年ぐらいの姿にまで縮んでしまった妖精、トピ。
彼は
「……みんなで楽しくリンジーのマグカップを選んでいたように見えたけど」
「それはそれとしてよ。やっぱり
よかった、と
「……きみに魔石を返して欲しくて来たんだよ」
「ホントに? ああよかった! 私も魔石を返したくて仕方がなかったの!」
「じゃあ、返して」
と言って、トピが小さな
そういえば、トピは私が魔石を取り込んでしまった事を知らないのだ。
「それが、
「……なんのこと?」
「手に持ったら、溶けて私の中に入っちゃったの。だけど、こんな風になっても魔石の持ち主のトピなら引っ張り出すことができるって聞いたわ。お願いだから取って!」
トピは銀色の目を丸くした。
「まさか。あの量の魔石を受け入れたら人間は死ぬよ」
「死んでないけど危ないかもしれないから、すぐに取って欲しいの!」
「意味がよくわからないけど、わかったよ。ぼくらの利害が一致しているってことはね」
そう言って、トピは白く細い指で私の手を取った。
「それじゃ、ぼくの命を返してもらうよ」
トピの手が光り、私の掌に熱が伝わる。
「え!? 何? リンジー、今何をしたの?」
「な、なにもしてないわよ?」
「したよ! ぼくの
トピに
「それじゃ、
ぴしゃりと
大したことはしていない。気持ち悪いなあと思って首の筋を
だけど、それさえダメだというのなら、今度は
そう思って私はぎゅっと身体を
「どうして!? ぼくの魔力が届かない! リンジー、ぼくの魔石を返して!」
「か、返したいわ。私だって、ずっと
「取り出せない。取り
トピが声を
トピは
「どうして……返して……」
「わ、私は一体どうしたらいいの? 何がいけないの?」
「まさか、ぼくよりリンジーの方が、ぼくの魔石と
トピは
「そんなバカなことが……意味がわからないよ……」
「それじゃ、どうしたらいいの?」
トピは
「……ぼくにとれる手段はそれほど多くない」
「手段? どういうこと?」
「──ああ、でも、時間切れみたいだ」
トピは遠い目で私を見た。そして私の後ろから近づいてくる人たちを。
「マキン! と、そこにいるのは妖精トピ!? おまえたち、何をしている!」
ナリサスとアドニスさんが走り寄ってくる。
彼らを見ながら、トピは言った。
「……逃げるわけにはいかないよ。リンジーに魔石を返してもらわなくちゃ」
「返す方法はまだあるのね? よかった」
ほっとして胸を
ナリサスが叫ぶ。
「マキン!」
「お願いだから近づかないで!──これは誤解なんだ!」
トピが私を
「何が誤解だ! 彼女から剣を
「う、うん」
「マキンを放せ! 人質に取るのであれば、私にしろ!」
まさかナリサスがそんなことを言ってくれるとは思わなくて、私は目を見開いた。
ナリサスは私の視線を受けてばつが悪そうな顔をした。
トピはナリサスの言葉に答えず、私の首筋に剣を突きつけながら叫んだ。
「
私から魔石を取り戻すために、だろう。
ルクレーシャスによると
「ぼくは帰るよ。追っ手をまいたら、必ず帰るから」
それなら、私はそれまで魔石を大事に預かっていよう。
自分では取り出せないけれど、トピにもこの場ではできないけれど、あてはあるみたいだ。
「……またね、リンジー」
私の耳元で
突きつけられた剣も消えた。その瞬間、身体から力が
「大丈夫か、マキン」
ナリサスが支えてくれたから、その場にへたりこまずに済んだ。
「だ、大丈夫だけど……
「無理もない。……私が運ぼう。ぐぅ、重い」
「重いとか言わないで!」
降りたかったけれど、腰が抜けてたぶん動けない。仕方なく大人しくしている私を背負うナリサスに、私が「ありがとう」と言うと、彼は「……悪かった」と小さく呟いた。
それは、
魔術師たちや警察がトピを引き続き
「リンジー、トピはお前になんと言っていた?」
「……さあ、なんだったかしら」
色々言ってはいたけれど、ルクレーシャスの後ろからやってきた人たちを見たら、何一つ言う気がなくなってしまった。
白衣の男たち。──
「──追っ手をまいたら帰ってくると言っていた。追っ手から逃げられたらという意味だろう」
ナリサスの言葉に、アドニスさんも
「確かに、そのようなことを言っていました」
「だが、その前にマキンと何やら話しているようだったが」
ナリサスが余計なことを言うから、私は適当に
「剣を突きつけられて
「怖がっている顔には見えないぞ」
研究者たちがヒソヒソと囁く。彼らがいるからトピはさっさと
「そもそも、その女はなんなんだ? 魔術師か?」
「……妖精に好かれる性質を持った女で、俺の研究対象者だ」
ルクレーシャスが言葉を
だって、私が取り込んだのは彼らが捜しているトピの魔石なのだ。
「今回妖精ルビーが協力者となったのも彼女の助力のおかげだ」
「だけど、もうリンジーに頼まれてもわたし、捜さない」
「なんだと?」
ルビーちゃんの言葉に、ルクレーシャスだけでなく研究者の男たちも
「だって、トピは人間に
研究者たちがざわつくのを横目に、ルクレーシャスが
「……洗脳されているかもしれないぞ」
「それでも、それはトピが選んだ道」
ルクレーシャスたちの手の届かない上空に
「リンジー、
トピに剣を突きつけられたのは
ルビーちゃんは私の鉄のチョーカーに触れないように
「首のところ、ちょっと切れてる」
不満そうに
「はい、治ったわ」
ルビーちゃんがにっこりする。見ていたマグネスの研究者たちが目の色を変えて私たちに視線を向けてくるけれど、ルビーちゃんは気にする様子がない。
「ええと、ありがと、ルビーちゃん」
「うん。もう帰りましょうよリンジー。トピを捜す必要はなくなったんだから!」
トピは追っ手をまいた後、私のところに戻ってきて、私から
だから確かに、私が捜す必要はないのかもしれない。
ルビーちゃんの言葉に頷いて、力の戻ってきた足で
「──すみません、
若い男で、
私たちは
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