第5章その4 第一段階恋愛イベ!?
メトゥスの襲撃もなく、平和に迎えた週末。朝食を終えた私は、休日をどう過ごそうかと考えていた。
(密かに魔法の訓練をする育成コマンドを選ぶか。雪梅やディヴィカを誘って外出する友情度UPコマンドを選ぶか、あとは部屋でごろごろする休息コマンドか……)
え? 導魂士の誰かを誘ってデートに行くコマンド? あぁ、ゲームにはありますね。HAHAHA、あなたは休日だからと言って何の約束もしていない顔見知り程度の三次元イケメンの部屋へ押しかけて、いきなりデートに誘う度胸がありますか? 私にはありません。
などと、脳内の自分と語り合っていた時だった。扉をノックする音が聞こえてきた。
「は、はい?」
「オレだけど」
(ライリー!?)
最近、エンカウント率高くありません!? 最近だけでイベント2つこなした気がしますよ?
「な、何?」
「良かったら、今日はオレと街に出かけようよ!」
「は!?」
こ……、これって……!!
(ライリーの第一段階ラブラブイベント『休日のデートの誘い』発生か!?)
ネットでも話題になっていた。ライリーは最も好感度の上がりやすいキャラで、自由行動時のエンカウント率も高い。この『休日のデートの誘い』イべは、ライリー狙いであれば第2章で、狙っていなくても悪印象さえ与えていなければ第5,6章辺りで発生することが多いと。ちなみに私はまだゲームでは発生させていない。
(でもなんで? 私、ライリーの好感度が上がるような真似をし……あ!)
した。
先日の戦闘中、ライリーの曲撃ちがあまりにも鮮やかだったもんで、何度も「すごい! すごい!」とはしゃいだ気がする。
(戦闘中の『応援』コマンドは、好感度を上げる効果が……。やっちまったー!!)
忘れがちになってるが、一応私の本命キャラはベルケルだ。あまりライリーの好感度を上げて、恋人フラグが立ってしまっては困る。
(どうしよう、断るべき? でも、生身の人間が今、扉の向こうで誘いをかけて来てるのよ!? こ……、断りづれぇ!! Noと言える日本人になりたい!)
「睦実~?」
(一旦『Yes』コマンドを選択して、イベントを見た後ロードして今日の早朝まで時間を戻して、誘いが来る前に部屋を脱出できたら……!)
無意識のうちに手がゲーム機を持つ形になり、〇ボタンと×ボタンのどちらを押すべきか、高速で親指を動かしていた時だった。
「ひょっとして今日は、忙しい、かな?」
「っ!?」
扉の向こうから落胆した声が聞こえてきた。
(やめて! かなたみたまボイスでそんな寂しそうな言い方するのやめて!!)
罪悪感で、リアルに胸がキリキリと痛くなる。
「気が進まないなら、無理にとは言わないよ」
(あ、あうぅうう……)
「それじゃ……」
「……!」
どうやらコマンド入力することなく、時間切れでお断りになってしまった模様だ。
(これでいい、よね……)
元々ライリーは本命キャラじゃない。無駄にあちこち愛想を振りまくビッチ主人公を目指す必要はない。いや、『銀オラ』はそう言う遊び方も出来るのだけど。キャラ全股プレイも可能なのだけど。
『心配だったんだよ! 睦実のことが!』
(ぐっ!)
胸がキリキリと痛む。
(う……ぅううう……!)
思わずドアノブに飛びつき、勢いよく扉を開け放った。
「睦実?」
少し離れた場所で、ライリーがこちらを振り返っている。
(あぁっ、スチル回収目的以外で好感度を下げたくない乙女ゲーマーの性が!! それに加えて切なげなかなたみたまボイスがっ!!)
「あのっ……」
廊下に飛び出したものの、何と言っていいか分からない。
(こっちから、連れて行ってくださいって言うべき? すぐにOKしなかったのに、今更何を?って感じだよね。システム的にアリ? うぅう……)
「…………」
ライリーはしばらく無言で私を見ていた。やがて向きを変えると、私の方へと戻って来る。
「ひっ、あの……」
「行こっか!」
「!」
向日葵のように屈託のないライリーの笑顔に、私は知らず頷いていた。
§§§
「どこへ行くつもりだ、ライリー」
「ぅえっ、エルメンリッヒ!」
離れから出たところで、私たちはエルメンリッヒに出くわした。
「先日もお前は訓練から抜け出し、学園内に侵入していただろう」
「うっ……」
「メトゥスの襲撃に備え、少しでも力や技を鍛えておくのが我らの責務。それを怠り遊びに出歩くなど、言語道断」
「や、ほら、オレは天才だから。地道な練習とか必要ないし」
「ライリー。お前が射撃の天才であることは誰もが知っている。だが、今後に向けて能力を向上させることも必要だろう」
「うぅ~……」
「睦実、そう言うわけだ。ライリーにはこれから夜まで、みっちりと訓練をさせる。出かけるのなら、1人で行ってくれまいか」
「え……」
(まさかの、第一段階恋愛イベント途中終了!?)
そう思った時だった。
「睦実、走るよ!」
「っ?」
私の手を取る、ライリーの手のぬくもり。強引に前方へと引っ張られる。
「と、わ!? ちょっと!?」
「走れ、全力だ! エルメンリッヒを振り切るよ!」
(エルメンリッヒを!? 無茶言うな!!)
メンバー随一の身軽さを誇るライリーが、私の手を引き、地を駆ける。
「ら、ライリー!」
「ん? 何?」
「訓練、しなくていいの?」
「いいよ」
「良くないって! だって、これからの戦闘……」
「大丈夫! オレ、天才だって言ったじゃん!」
「……っ」
「スピード上げるよ!」
(ぎゃ、ぎゃあああ!!)
ライリーに手を引かれ、私はこれまで出したことのないスピードで足を動かした。頭の中では、馬に繋がれ地面を引きずられる、西部劇のあのワンシーンが浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます