ツンとデレの狭間で君は

秋本カナタ

ビバ・ツンデレ

「もう、バッカじゃないのあんた! まったく、私がいないと何にも出来ないんだから」


 ――僕は知っている。


 彼女がツンデレであるということを。


「べ、別にアンタのためを思って言ってるんじゃないわよ! その辺、勝手に勘違いしてもらっちゃ困るんだからね!」


 ――僕は知っている。


 彼女がツンデレを維持するために、とても苦労しているということを。


 ツンデレとは、『いつもはツンツンしていて冷たい態度を取ったり、好意とは程遠い言動をしてきていた人が、極たまに、あからさまな好意を見せる行動を示したり、言葉では否定していても態度や表情が好意を隠しきれていない言動を見せる』人のことを言う。


 つまり、「アンタなんか興味ない」と言いながら、その心の奥には対象に対する多大な興味を抱いており、稀にそれが表面に出て来た時、いつもとのギャップにより、それは何倍もの効果をもたらすことになるのである。


 しかし、じゃあ普段は適当に対象をあしらっておけばいいのかと言えば、それだけでは決してツンデレは成り立たない。


 一般的に、ツンデレの黄金比率は『ツン8:デレ2』の割合とされる。八割のツンを見せたあとは、二割のデレを見せなければならない、というわけである。この比率を間違えれば、瞬く間にツンデレは瓦解してしまう。


 例えば、「アンタなんか興味ない」といった言動を九割見せてしまうと、対象は「自分は嫌われているんだ」という感情を大きく抱いてしまう。この後にデレを見せたところで、対象が好意を抱くことは限りなく少なくなる。


 逆に、ツンを七割未満に押さえてしまえば、デレの効果はその分薄くなる。これでは、わざわざツンデレである意味がない。


 8:2の黄金比率……これを守るために、彼女は日比苦労していることを、僕は知っている。


 一日が終われば彼女はその日の言動を思い返し、ツンが多すぎなかったか、デレが少なすぎなかったかを計算し、次に生かすために反省を重ねているのだ。


 ああ、なんて健気な姿だろうか。


 彼女こそ正に、ツンデレのあるべき姿。


 ツンデレはかくあるべき、ツンデレの歩く教科書、ツンデレの伝道師!


 ビバ、ツンデレ!


 ツンデレ、万歳!


 ヒャッホオオオー!


「……一人で何してんのアンタ。素直に気持ち悪いわよ」


 おっと、うっかり彼女に僕のツンデレ愛を見られてしまった。


 だが、僕は知っている。


 その「気持ち悪い」という言葉の裏に隠れている、僕への愛情を! その好意を!


 さあ、今こそデレる時だ!


「あ、そういえば私彼氏出来たから。これからはあんまり学校で話しかけてこないでね。じゃあね」


 ……。


 ……なるほど。


 僕には分かるぞ。





 これはまだ、八割のツンの時期だな!

 

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