パンサーカメレオン「拙者は忍者のたまご…にんたまでござる!」
こんぶ煮たらこ
パンサーカメレオン「拙者は忍者のたまご…にんたまでござる!」
「分かりました」
「あなたは………」
「パンサーカメレオンです!」
パンサーカメレオン…
それが…私の名前…?
私は生まれた時記憶がありませんでした。
自分が何者で、何故ここにいるのか、そしてどうしてこんな姿になったのか…何も分からなかった。
そんな時私はとしょかんである一冊の本に出会ったのです。
「パンサーカメレオンは有鱗目カメレオン科フサエカメレオン目の爬虫類で、主に木の上で生活をしています。特徴は何といっても身体の色を変化させて周りの景色に擬態する事です」
「音も無く姿を消し獲物を狩る…さながら忍者のような生き物なのです」
「にんじゃ…?って何ですか?」
「これです」
そう言って博士が見せてくれた本には“にんじゃ”と呼ばれているらしい者の姿が描かれていました。
黒い衣装に身を包み、にんじゅつという武器を駆使して敵を翻弄させ一網打尽にする…その妖美な姿に私はたちまち心を奪われてしまったのです。
「あの…!この忍者って方に会うにはどうすればいいですか!?」
暗闇に突如として差した一筋の光…この方に会えれば私の何かが変わるかも。
そう思っていたけれど博士達から返ってきた答えは残酷で…。
「忍者はもういないのです」
「忍者はもう絶滅したのです」
「ぜつ、めつ………?」
そ、そんな……。
絶滅……という事はもう二度と会えない………?
「(…博士。カメレオンの目のハイライトが消えかかっているのです)」
「(そう言われても忍者はそもそも本当に存在していたかどうかすら定かではないのです…)」
うぅ…せっかくこんな運命的な出会いを果たしたというのに会うことすら叶わないなんて…。
やっぱりこの姿ならではの事をしようなんて考えた私が愚かだったのでしょうか…。
「ま、まぁそう落ち込むでないのです。いないのだったらお前が忍者になればいいのです」
「私が…忍者になる……?」
「(博士…あまり勝手な事を言わない方が…)」
「(そうは言ってもこのまま奴のハイライトが戻らないとパンサーカメレオンが絶滅種だと思われてしまうのです…)」
「じゃあ私を忍者にして下さい!」
「え!?」
「駄目……でしょうか……?」
「(あっ…またハイライトが…)」
「わ、分かりました!我々がお前を立派な忍者にしてやるのです」
「(え!?私もですか…)」
「(まぁそう心配せずとも大丈夫なのです。何故なら我々は森の“忍”者なので)」
「(…それを言うなら森の“賢”者では…?)」
こうして私の忍者になるための修行が始まりました。
これから先辛い事や大変な事も沢山あるだろうけどたとえ何ヶ月…いや何年かかったとしても絶対にマスターして立派な忍者になってみせます!
~次の日~
「ではこれよりパンサーカメレオンの忍者修行を始めるのです」
「よろしくお願いします、お師匠!」
「…コホン、良いですか。そもそも忍者というのもは一筋縄でなれるようなものではありません」
「心技体…これら全てが揃って初めて一人前の忍者になれるのです」
「しんぎたい…」
「まずは心技体の心、心構えや立ち振舞いについてです」
「忍びに生きる者はその秘匿性から共通の言語を使っていたとされます。具体的な例としては一人称が拙者、語尾にござるをつける等です」
「せっしゃ…ござる…なるほど!分かったでござる!」
とは言ったもののやっぱり慣れない言葉を使うのは難しいですね…でござるね。
でもお師匠も使っていればそのうち慣れるのです、と言っていたのでわた……拙者も頑張ります…でござる。
「そしてかつて忍者が存在していたとされる日の本の国では謙遜し互いを称え合う文化があったそうです」
「けんそん…?たたえあう……??」
またまたよく分からない言葉が出てきたでござる…。
「はぁ…。仕方ないですね。ではちょっとお手本を見せるのです」
「博士、今日も賢いですね」
「いえいえ。助手の方こそ賢いですね」
「いえいえいえ。博士の方が…」
「いえいえいえいえ。助手の方が…」
「いえいえいえいえいえ…」
「いえいえいえいえいえいえ………」
「…といった具合なのです」
な、なるほど…。
正直よく分からなかったでござるがとりあえずイェイイェイ言っておけばいいのでござるな。
「これで心技体のうち心はマスターしたのです」
「え!?もうマスターしたのでござるか!?」
何か思った以上にあっさりとマスターしちゃって正直ちょっと拍子抜けでござる…。
でもこれは逆に幸先良いスタートでござるな。
もしかして拙者実は忍者の才能あるんじゃ…。
よし、この調子で次もサクッとマスターするでござるよ!
「次は心技体の技、つまり忍術です」
「おぉっ…!来たでござる!!」
やはり忍者といえば忍術…あの本に描かれていた忍者も色んな格好良い術を使っていたでござるな。
水の上を歩いたり、おっきなカエルを召喚したり…この忍術さえマスターしてしまえばほぼ忍者になったといっても過言ではないはずでござる。
「この本によると忍術には様々な種類があり、具体的なものだとこの火を扱う火遁の術が…」
「火ぃ!?それは無理でござる!!」
確かに火を自在に扱えたらカッコいいかもしれないでござるがどうしても本能が拒絶反応を起こしてしまうでござる…。
というかいきなりレベルが高過ぎるでござるよ…。
もうちょっと簡単な…それこそ拙者向きの忍術は無いのでござるか?
「他には水遁の術、土遁の術、分身の術などがあるようですが…」
「う~ん…どれも少々難しそうなのです」
「あ、これなんかどうでござるか?」
「これは…隠れ身の術?」
そう、先程のカメレオンの説明を聞いて拙者はピンときたのでござる。
もしまだ拙者に動物だった頃の特性が残っていて使えるのだとしたら…。
「いくでござるよ……隠れ身の術!!」ドロン
「なっ…!?」
「消えた!?」
「えっえっ?成功したでござるか!?」
「じ、自分の身体をよく見るのです…」
見ろと言われても拙者の姿なんてどこにも…ってえええええええええぇぇぇぇ!!?!?
ほ、本当に消えているでござる!!凄いでござる!!!!
「これは予想以上なのです…」
「…それに博士、奴は所持している物まで消してしまったのです…」
まさか本当に成功してしまうとは…。
これはもう拙者忍者の申し子に違いないでござる!
「では最後、心技体の体ですがこれは主に体力を表します」
「常日頃から鍛錬を怠らず、どんな困難にも負けない強靭な肉体こそが…」
「まったぁ!拙者、体力には少々自信があるのでそんな事やっても時間の無駄でござるよ!」
「ほう…」
ちょ、ちょっと盛ってしまったでござる…。
拙者本当は体力にはあまり…というかすご~く自信が無いのでござるが…まぁでも心技と二つもマスターしてれば十分でござろう、うん。
それに体力なんて無くてもいざとなれば拙者にはこの隠れ身の術があるでござる。大丈夫でござるよ。
「…まぁお前がそこまで言うのならこれまでの成績に免じて許してやるのです」
「という事は拙者もう忍者マスターでござるか!?もう免許皆伝していいのでござるか!?」
「待つのです。まだお前には最後の試練が残っているのです」
「最後の試練?」
そう…拙者が忍者マスターになるにはあと一つどうしても乗り越えなければならない壁があったのでござる。
それは隣のへいげんちほーにそびえ立つライオン城にあるとされる“伝説の忍者の巻物”を入手する事…つまりこれまでの修行で得た事を活かした実技試験という訳でござる。
ふふ…潜入なんぞ拙者にかかればちょいちょいだというのに…ちゃちゃっと行ってぱぱっと解決してくるでござるよ。
「では行ってくるでござる!」
「待つのです。これは我々からの餞別です」
「…これは?」
「菱の実です。追手に迫られている時や遠くの敵を攻撃する時はこれを使うといいのです」
「いわゆるまきびしの術なのです」
「まきびし…おぉ!!かたじけないでござる!」
「へいげんちほーは近頃よくライオンとヘラジカがなわばり争いをしているそうなのでくれぐれも注意するのです」
「お前は調子が良いと少々周りが見えなくなる悪い癖があるのです。この事をよく肝に銘じておくのですよ」
「大丈夫でござるよ~!なんてったって拙者忍者の申し子なので!では失敬!」ドヒューン
~そしてへいげんちほー ライオン城~
「…で、お前は何しにここに来た?」
「あわわわわわわ……」
抜かったでござるうううううぅぅぅぅ!!
城の中に潜入したところまでは良かったのでござるがまさか隠れ身の術が臭いでバレてしまうとは……うかつだったでござる…。
「おい…答えろ」
ひいいいいいいいいぃぃぃぃ!!
これが百獣の王と呼ばれるライオンの迫力…!!
一言話す度に周りの空気がピリピリと拙者の肌を刺激し…って今はそんな実況してる場合じゃないでござるぅ!!
「さてはお前…ヘラジカのスパイだな?」
「ち、違うでござる…!拙者はただこの城にあるという伝説の忍者の巻物を盗みに…」
「…あ?」
「あ…」
あぁ終わった。
拙者はここでライオンに処分されてその辺の壁の材料にでもされてしまうのでござる。
カメレオン 一生の不覚 死亡フラグ(字余り)
拙者これにて一巻の終わ…
「たのもー!!」ガラッ
「!?」
な、何でござるかこの見るからに強そうなフレンズは!?
手にはヘラ状の武器、そして頭にはヘラ状の癖っ毛とこれでもかと言わんばかりのヘラ推し…間違いないこの方がライオンと争っているというヘラジカでござる…。
「…ついに会えたなライオン」
「おう、よく来たなヘラジカ」
「挑み続けて15回…ついにここまで来られたぞ。初めてへいげんでお前を見た時からずっと全力で戦ってみたかった。ずっとこの時のために云々…」
「(それこの前来た時も言ってたけど毎回言わないと気が済まないのかな~)」
な、何かヘラジカが急にひとりで長々と語り始めたでござる…。
しかしこれは逆に逃げ出すチャンスなのでは?
ライオンの注意がヘラジカに向いてる今、万が一失敗しても向こうは拙者ではなくヘラジカの相手をするはず…。
幸いヘラジカの方も拙者の存在には目もくれていないようでござるし…。
となればチャンスは次の勝負に出るタイミング…!
「いざ……勝負だ!!」
「(…今でござる!)」
「…の前にこいつは誰だ?」
えええええええええぇぇぇぇ!?
このタイミングでようやく拙者の存在に気付いたのでござるか!?
と言うか突っ込むのが遅いでござる!!
「ライオンの知り合いか?」
「…さぁな。ただのこそ泥だ。姿を消してこの城に潜り込んで来たんだ」
「何!?お前姿を消せるのか!?」
「い、いや…その……」
まずいでござる…退路も絶たれた上にこれではどうやっても逃げられないでござる…。
かくなる上はこのまきびしの術で…。
「…よし!お前ちょっと来い!!」
「え!?」
「ライオン!今回の勝負はお預けだ!また会おう!!」
「お、おう…(えぇ~…)」
「…ふぅ。ここまで来ればもう大丈夫だろう」
「ぜぇ…ぜぇ……。た、助かったでござる…か?」
「いやぁすまなかったな。急に連れ出したりして」
「と、とんでもないでござる!お陰で助かったでござるよ…。でもどうして拙者を助けたのでござるか…?」
「ん?誰かを救うのに理由が必要なのか?」
カ、カッコイイでござる…。
拙者もこんなカッコいい台詞をさらっと言えるようなナイスなけものになりたかったでござる…。
「…というのはまぁ建前で、実のところお前に興味があったんだ」
「拙者に、でござるか?」
「そうだ。さっきライオンが言っていた姿を消せるというのがどうにも気になってな。それにその珍妙な話し方に独特の佇まい、只者ではないと見た。どうだ、私の仲間にならないか」
「仲間…」
話を聞くとこのヘラジカ殿の軍勢は今もなお劣勢に立たされており、これまで一度もライオンとの勝負に勝てた事が無いのだとか。
そんな中仲間のひとりが斥候に向いた仲間がひとりいればもっと作戦の幅も広がるのではないか、と言っていたらしい。
確かにそういう事なら拙者の能力も存分に活かせそうでござるが…。
「し、しかし拙者のような日陰者にそんな…」
拙者の命の恩人でもあるヘラジカ殿に必要とされるのはとても喜ばしい事でござる。光栄な事でござる。
拙者も出来る事ならその恩義に報いたいとは思うのでござるが…。
実際は正直なところ不安の方が大きかった。
ただでさえ拙者は戦闘も苦手で体力も無いのに、そんな状態で仲間として迎え入れられても果たして期待に応えられるかどうか…。
でもヘラジカ殿から返ってきた言葉はそんな拙者の不安を吹き飛ばすようなものだった。
「そんな事は無い!お前は私の仲間ですら成し遂げられなかった事をいとも容易くやってのけたんだ!もっと自信を持て!」
あぁ…この方は本当に凄い方でござる。
このへいげんのように広い心を持ち、あの百獣の王ライオンすらも認める強い技を持ち、それら全てが全身から自信となって滝のように溢れ出ている…まさに心技体、全てを兼ね備えた本物の武人…。
…そうでござる。
たかが一回失敗したくらいで何弱気になっているでござるか。
拙者は忍者の申し子、今はまだ忍者のたまごかもしれないでござるがいつかはこの方みたいな本物の心技体を身につけた最強の忍者になるのでござるよ!
そしていつかは免許皆伝してパンサーカメレオン流忍術の開祖に…ふふふふ…。
「分かったでござる!拙者のパンサーカメレオン流忍術、ヘラジカ殿に預けるでござるよ!」
「よせ、その呼び方はくすぐったいぞ」
「ではヘラジカ様、これからよろしくでござる!」
「あぁ!期待しているぞ!一緒にライオンを倒そう!」
「ちょっと待つのです。何勝手にいい話風にまとめようとしてるですか」
「…まったく…。心配になってあとをつけてみれば何ですかこれは」
「し、お師匠!?」
「…博士、今こいつは慌てて我々師匠におを付け足したのです」
「しっかり聞いていたのですよ、助手」
「ま、待つでござる!へ、ヘラジカ様助けて欲しいでござるぅ!!ってあれ!?」
「先に行ってるぞーカメレオン」
「あわわわわわわ…今度こそ絶体絶命のピンチでござる…」
「…さて、実技試験をほっぽり出し免許皆伝も受けていないにも関わらずちゃっかり我流の術派を騙る不届き者にはキツ~~~~いお仕置きが待っているのですよ…」
「フクロウ流忍術の怖さを思い知るのです……」
「お、お助けえええええええええぇぇぇぇ!!!!!」
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