#38 無垢な寝顔

 空に朱色と金色が混じると、景色は夕焼けに染まる。

 真っ赤な太陽を見ながら、俺たちは帰路に着く。


「はい、確かに30個いただきました。これが依頼達成の報酬になります」


 何とか無事だったオレンジベリー30個をギルドに届けた後、俺たちは宿へと戻る。

 そして宿に着くなり始まる、ミヤの〇神講座。


「2017年の開幕戦は10-6で完勝やったんやで! ここ〇神検定に出るで!」


 ミヤの熱の入った言葉に反比例するかのように、ナナがうとうとし始めると。

 そこからは昨日と同じような流れだった。


 解散ということで俺がミヤの部屋を後にすると、ナナもまた、瞼を擦りながら後へ着いてくる。

 そして、俺の部屋へと入ると、ゆらりゆらりと身体を揺らしながらナナはベッドへと向かった。


 ナナがベッドに乗るのを確認し、俺もまた昨日と同じように俺が床で寝る準備を整える。

 が、そこで昨日と異なる点が一つ生まれた。


「……」


 昨日ほどの強い眠気ではないらしいナナは、ベッドの上に座るも横にはならず、こちらをぼんやりと見ていた。

  何度も瞼を擦りながらも、俺の様子を不思議そうに見ていたナナは――唐突に、ポンポンとベッドを軽く叩き始めた。


「……ん?」


 最初はその行動の意味が分からなかった。

 が、何回もその行動が繰り返されると、何となくその行動の意図するところが分かってしまう。


 つまりそれは、"ここで寝よ"という意味だ。


「……ええ」


 それはまずいんじゃないでしょうか。

 仮にもね、幼いとはいえ、女の子と寝るなんて、いかんでしょ。


 何故か最後はミヤのような関西弁思考になってしまった俺は、

 見て見ぬふり聞こえないふりを決め込む。


 が、ポンポンという音は、絶え間なく聞こえる。

 そして、じぃーと凝視するその視線もまた、何十秒、何分と続く。


「……(ポンポンポンポンポンポン!)」


 何ともいえない膠着状態。

 終わりの見えないナナのその行動を見かねて、最終的に俺は折れた。


「……妹だ。妹と寝る時みたいに寝ればいいんだ」


 そう自分自身に暗示をかけ、俺はベッドへと向かう。


 が、俺は気付いてしまう。

 俺に妹なんていなかったという事実に。


「……ま、なんとかなるでしょ、うん」


 ベッドへと身体を移動させると、少しばかり軋む音が聞こえた。

 ナナが小さいとはいえ、二人分で寝るには少し窮屈な空間だ。


 俺は出来るだけ体を端に寄せるが、不可抗力というかやはり体は触れる。

 これじゃナナが寝にくいだろうと思った俺が、ナナへ声をかけようと視線を移動させると。


 そこにはもう、健やかに眠るナナがいた。


 規則正しい寝音と共に、年相応の寝顔がある。

 その寝顔からは、彼女が背負っている因果も、運命さだめも、何も感じられない。


 可愛らしい少女が、ただ、眠っている。

 そんな普通で、当たり前の光景が広がっていた。


「……おやすみ、ナナ」


 その言葉をかけると、俺にも眠気が襲ってくる。

 疲れが心地よく体が包んでいくと、瞼が段々重くなっていく。


 薄れ行く意識の中。


 ――ふと何か忘れているような気がした。

 が、眠気には勝てずに意識は閉じていく。


 そのままゆっくりと視界が狭まっていくと。

 何故かベッドが揺れ、視界の片隅に何かが映り、それが俺の下半身へと向かっていくのが見えた。


 ――ん?


 ナニかが、俺のナニへと当たると。

 ギャラクシーが、ビックバンした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る