#2 神さまの気まぐれ。そして、異世界へ

 先ほどまで教室だった場所は、色を無くす。

 無機質な白と生徒たちだけが残った。


「何がどうなってるんやこれ……」


 ぽつりと呟かれた美弥の声を皮切りに、生徒たちの声にならない声や怒号がが飛び交う。泣き崩れる者、発狂する者、茫然とする者、可笑しな笑いをあげる者。


 そんな俺も例に漏れず、状況に困惑し頭が可笑しくなりそうだった。

 しかし、視線に映るある少女を見て幾分か冷静になれた。

 いつも通りに、何も変わらないかのように、本を読んでいる彩の姿。光学と書かれた訳の分からない本に視線を落とすその姿を見て、何か不思議と謎の安心感が心に芽生えた。


 そんな状況下、謎の声が響く。


『君たちを異世界へと転移させる』


 頭の中に、その声が響く。


『異論は認めないよ』


 謎の声は他の生徒たちにも聞こえているらしく、騒然とした先ほどの状況は嘘のように消える。唯一の道しるべであるその声の次の言葉を全員が待っているらしかった。


『基本的に君たちはそこで何をしても自由だ。ゲームみたいなもんさ、好きに生きるといい』


『ただその異世界ではね、所狭しと戦争が行われている。といっても、君たちが想像するような兵器同士の戦争じゃないくて、主に魔物たちとの戦争だけどね』


『だから君たちにはその戦争を止めてもらえるとうれしいなぁ』


 何とも適当な声色で、勝手なことを言ってくれるやつだと思った。他の生徒たちもそう思っているらしく、再び怒号が飛び交うようになってきた。


「彰、どう思う?」


 そんな喧噪の中で聞こえた、声。

 振り向くと、彩。さすがに本を読むのはやめたらしい。


「どうって言っても、よく分からないというか。実感がないというか」


 それが本音だった。

 それを受けて、彩は思考のポーズを取っていた。


「私はね、彰――」


 声の途中がかき消されるかのように、頭の中に声が響いた。


『それじゃ準備はいいかな? さっさと異世界に行ってもらうよ。異世界のどこに転送されるかは全て、ランダム。君たちはもしかしたらもう会えないかもしれないかもね』


 その声のせいで、彩の声は聞こえない。

 口が動いているのは分かるが、理解には届かない。


『君たちは異世界から転移してきたものとして、そこそこの能力を与えてあげる。君たちの性格や趣味、部活、持ち物などから関連した能力、スキル、兵種、職業を適当に選んで与えてあげる』


 て……な……も。

 必死に理解しようとするが。


『まあ難しいことはとりあえず異世界に行ってから考えよう。君たちもゲームをやる前にそこまで熱心に説明書は読まないよね? 説明書が無くても、ゲームをやっていけば操作方法を覚えるのと一緒さ』


 た……て…。

 それは届かない。


『それじゃ。楽しい異世界ライフを』


 彩の姿は、白く染まる。

 視界の全てがホワイトアウトした。

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