第4話 2120/3/31
春めいた陽気を感じる日曜日だった。
「あぁ。もう年度末か。早いなぁ。」朝のコーヒーを飲みながら考え事をしていた。明日から始まる新年度も異動する事はなく、紫陽花高校の事務をすることに引き続きなっている。何も変化の無い一年になると思っている。
「一人だと寂しいなぁ。何年やっても慣れる事はないよ。彼女が欲しいなぁ。でも、彼女を作るなんておかしいよ。プログラミングするようでさ。彼女なんて作らないで、良縁を作るべきなんだよね。」独り言を言いながら、コーヒーを飲み、ガパオライスを食べる。
何気なくテレビをつける。相変わらず政治疑惑や、ゴシップネタなどがテレビでは放送されている。なんで、人を貶めるのだろうかと常々思っているが、暇つぶし程度にそれを問題視する人はあまりいないのだろう。
ご飯を食べて、少し横になった。そのままうとうとと眠ってしまった。
ピンポーン…ピンポーン…
ベルの音で目が覚めた。誰か来たのだ。
「はーい。今行きます!」急いでドアを開ける。そこには、児童福祉司を名乗るものがいた。
「どうも、私、児童福祉司をしております。蔵岩と申します。」
「一体、何の御用ですか?私には子どもはありませんが。」
「良い質問ですね。実は、あなたのお母さんはつい先日、意識を回復しました。」
「本当ですか。それで、今は母は何処に居るんですか?」
「言語能力とか身体能力は回復しましたが、記憶の方は16歳くらいで止まっています。唯一の縁者である貴方に保護してもらいたいのです。」
「そういうことならお受けしましょう。良いですよ。」
すると1人の少女が連れて来られた。
「神城茉帆です。宜しくお願いします。」母は、既に忘れてしまっている。浅尾家に嫁いだことを。しかし、顔の若さもまるっきり16歳の少女であった。可愛い美少女だ。
「僕は浅尾進。なんて言えば良いのかな。遠い親戚だよ。宜しくね。」こうして、記憶を失い若返りの手術を受けた母を養育することになった。
「あの、なんてお呼びすればいいですか?私のことは、茉帆って呼んで下さい。」
「茉帆、畏まらなくていいよ。僕は、君の保護者で最も分かり合える存在になろうと思ってる。お父さんにはなれないから、おじさんって呼んでほしい。」
「うん。分かり…わかった。宜しくね!進おじさん。」
彼女はそういうと笑顔で微笑む。なんだか嬉しいんだけど、同時に寂しくもある。今まで見ることが出来ていた母の顔が、そこにはなかったから。母は身近にいるようで、もうどこにもいないのかも知れない。
「さっきまで、寝ていたんだ。今何時か分かるかい?」
「ちょうど、12時になったところだよ。」
「では、これにて失礼します。茉帆ちゃん、おじさんと二人で暮らせるかな?」
「うん。大丈夫だよ。」
「そっか。大変だろうけど、僕も茉帆ちゃんのことを助けたいと思っているから、また何かあったら児童相談所に来てね。浅尾さん、宜しくお願いします。」
「ありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい。」
「茉帆ちゃん、何か食べたいものある?」
「おじさんに任せるよ。」
「参ったなぁ。寿司でも行くかい?回転寿司。」
「茉帆、寿司大好きだよ。なんていうか少し高級で、でも身に余るほどの贅沢ではないからね。」
「でも今は漁獲高も良くなってきたから、遠慮することはないよ。」
「うん。おじさん、ありがとう。」
彼女は高校生くらいだという話だったけど、どこかまだ幼い気がする。
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