Essence:2120 Ich pflege Meine Mutter!
恋住花乃
第1話 2120/3/15
暫く実家には帰っていなかった。僕の母はシングルマザーで、大学まで行かせてくれて、良くここまで育ててくれたと思う。今度は、僕が恩返しをする番だと、慣れない都会に出て仕事に汗水を流している。仕事は、公立高等学校の事務をやっている。公務員だから安定はしているといえば、安定しているが。
「さて、年度末も近いな。気合い入れて頑張ろうかな。」僕、浅尾進は職場の紫陽花高校に向かった。
「初めまして。新しくこちらに勤務する予定の鈴村です。よろしくお願いします。」異動で来る人達が、挨拶しに来る時期になった。僕は採用されて、まだ転勤したことはないけど。
そんな慌しい時期に、電話は掛かってきた。
「もしもし。こちら塚山市消防本部です。浅尾進さんですか?」嫌な予感がした。母に何かあったのだと。
「はい。浅尾です。何かありましたか?」
「実はあなたの母である茉帆さんが、交通事故で救急搬送されました。急を要するのでお越しいただけませんでしょうか。」心臓を抉られるような不安がよぎった。母との別れがこんなに早く訪れるなんて思いもしなかった。
「事務局長。私の母が救急搬送されたようなので2、3日休暇を頂きます。こんな忙しい時期にすみません。」
「いってらっしゃい。浅尾君。問題は無いよ。」事務局長は心配そうな顔を浮かべてそのように言っていた。
新幹線で急いで塚山市に向かった。塚山高度医療センターは、超高層の建物である。あまり裕福ではなかったが、高校まで過ごした思い出の土地だ。
駅からは少々離れている。バスを見つけて、塚山高度医療センターに向かう。
「次は、塚山高度医療センター前。塚山高度医療センターにお越しの方は此処でお降りください。」バスのアナウンスを聞き、降車する。赤煉瓦の色をした超高層ビルが目の前にあった。それは、どこか懐かしいようで近未来を感じさせる建物であった。
受付に向かった。「あの、入院している浅尾茉帆の息子の進というものですが、どちらの病室に居りますか?」そう尋ねると、地下にあるICUに案内された。
「浅尾進さんですね。お待ちしておりました。私、脳神経外科の杉内と申します。早速ご案内します。」言われるままに、集中治療室に足を運んだ。
多くの人が居る中で、母の元に足を運んだ。
「こちらです。」そこには眠っているように見える僕の母が居た。
「これは一体何があったんですか?こないだまで元気にしていた母に何があったんですか?」医者に思わず、声を荒らげてしまった。
「実は、多分くも膜下出血だと思いまして。一命は取り留めたものの、昏睡状態に陥っています。車を運転していて急にガードレールにぶつかったところ、付近の住民から救急要請があり、搬送されました。」
「それで、母は元に戻るんですか?」
「残念ですが。最早難しいでしょう。言語障害やその他、記憶障害も出てきますし。」
「そうですか。では、可能な限り手を尽くして下さい。宜しくお願いします。」
「早速、入院届と治療同意書を書いて頂きたいと思いますので、受付に提出をお願いします。」
「分かりました。」杉内先生に渡された封筒から中身を取り出した。
『患者を意識ある状態に戻す場合に限り一切の治療を医者に一任する(はい・いいえ)』と書かれていた。
如何にも変な項目であったが、そこに丸をつけた。それが全ての始まりであったのだ。
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