クローズドゲーム

@kuma10281028

第1話 初心者と覚めない夢

賑やかな街。


大きな噴水があるその場所に、僕は立っていた。


さっきまで自分の部屋でパソコンをいじっていたのに、なぜか今ここにいる。


正直、これは夢だと思っている。


だって、こんなことはありえないのだから。


夢なら夢で、大いに楽しんでやろうと僕は思った。


どうせ夢から覚めても、良いことなんかないのだ。


街には兵士の他にも、冒険者らしき人が多数いる。


剣とか槍を背負って歩いているんだ、きっと彼らは冒険者なのだろう。


街を歩く人たちを眺めながら、ボーッと立っていると僕は話しかけられた。


「はじめまして、初心者の方ですか?」


そう話しかけてきたのは、ピンク色の髪をした、杖を持った綺麗な女性だ。


何を持って初心者なのかはわからないが、確かに今の僕はこの世界の初心者だ。


「は、はい…。」と答えてみた。


するとその女性は、「私も初心者なんです。よかったら一緒に冒険しませんか?」と言ってきた。


初心者…?

ということはこの人もここに迷い込んだ人なのか…?


夢だと思っている僕は、大胆にもこの申し出を了承した。


「わぁ、ありがとうございます!じゃあ早速パーティ申請しますね!」


そう話すその女性の名前はミウというようだった。


すると、いきなり僕の目の前に「パーティ申請を承認しますか?」というウインドウが表示された。


戸惑っていると、「あ、パーティ申請きましたか?カーソルを「はい」に合わせてください」とミウに言われた。


カーソル…?


カーソルなんかない。


いや、そもそもこれはゲームではないのだ。


ミウの言う、カーソルの合わせ方がわからない僕は、なんとなく手をウインドウに添えてみた。


ポーン。


何か効果音がした。


どうやらこの効果音は僕がミウのパーティ申請を承認した音のようだった。


手を合わせれば承認したことになるのか、これは良いことを知った。


…ん?


なんだかおかしな夢だ。


まるでオンラインゲームの世界に入り込んだみたいだ。


そもそも、ミウは僕を初心者だと言った。


ミウ自身も初心者だと言っていた。


「あの、この世界って…?」と僕が聞くと、ミウは「え?クローズドゲームの世界のことですか?」と答えた。


「クローズドゲーム…?」


僕がそう聞くとミウは答えた。


「え?このゲームの名前ですよ!知ってて買ったんじゃ…?」


突然の僕の質問に、ミウも訳がわからないようだった。


変な奴に出会ってしまったと思ったことだろう。


クローズドゲーム、その名前を僕は知らない。


僕はゲームが好きだ。


最新のゲーム機もバッチリ揃えているほどに。


そんな僕がゲームの名前を知らない…?


これは夢だから…だから知らないゲームの名前なのかな、そういうものなのかな…。


「あのー、大丈夫ですか…?」


僕に尋ねるミウ。


その言葉でハッとさせられた。


「あ、はい。とりあえず、大丈夫です。」と答える僕。


思えば、この夢はなかなか覚めない。


大体夢というのは、こんなに意識がハッキリしているものなのだろうかと思う。


そもそも、『覚めない夢』だったらそれはもはや現実なんじゃないだろうか…?


そう思うと、背筋がゾッとした。


あんなにつまらなかった日常に戻れないかもしれないと考えたら、途端にあの日々が恋しくなった。


「ご、ごめんなさい!!」とミウに言った僕は、その場から走って逃げた。


なんだか、急に走りたくなったのだ。


ミウに会う前から、彼女の名前はミウだと知っていた。


なぜかというと、頭の上のところに名前とレベルが表示されていたからだ。


「ミウ Lv1」…と。


確認してみると、僕のレベルも1だった。


頭の中で、意識してみると…。


メニューウインドウが表示された。


そこにはパーティ申請という項目や、ステータス画面などもあった。


すると、「あ、あのー!大丈夫ですか?!」と声が聞こえる。


ミウだった。


どうやらまだパーティを組んでいたようだった。


駆け寄って来たミウに、

「実は僕、現実世界から来たんです!」と言ってみた。


「え、えーっと(・・?)」というミウ。


「だから、現実世界から来て、気づいたらここにいて。」と早口で話す僕。


しばしの沈黙の後、ミウがログアウトしました、と表示された。


パーティは解散され、ミウは僕の目の前からいなくなってしまった。

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