第3話「蒼き鉄騎は闇夜を越えて」Cパート

 さて。かくして雪路は謎の男マンチキンと、彼の率いるアンドロイド軍団から西田教授を助け出し、忠与を救うための戦いにドロシーという新たな仲間を得た。

 これから描かれる短章は、「蛇甲鉄拳ヴァイパー」の物語に直接影響を及ぼさない。しかし、その先の物語には関わっていくため特別に記す。


 時は、雪路がマンチキンを殴り倒し西田教授を解放したあたりに遡る。気づくとマンチキンの姿は倉庫から消えていたが、あの後彼はどうなったのだろうか?

 神奈川県内某所の路地裏……ビルとビルの隙間を、何者かが跳んでいる。暗い中詳しい姿は見えないが、大きな顎と鱗状の肌からヴァイパーと同じ爬虫類系統のジオボーグであることは推測できる。

 ジオボーグはひときわ静かな路地裏に降り立つと、抱えていた何かを地面に投げ捨てた。

「ぐえっ!」

 落下したそれは、うめき声をあげるとよろよろと立ち上がった。

「な、何を、する……」

 レンズが割れフレームのゆがんだ眼鏡をかけた、薄汚れた白衣の男……倉庫から姿を消したマンチキンその人であった。

「何するってよぉ、独断専行でヘタこいた機械技術主任様を助けてやったんだよ」

 ジオボーグの身体が赤い光に包まれたかと思うと、中からは浅黒い肌をした筋骨隆々の男が現れた。

 ジオボーグの時に比べれば一回り小さいが、それでも身長は二メートル以上ありマンチキンを三人抱きしめてベアハッグで全身骨折させられるくらいの体躯はある。

「り、リアルマン……」

 大男を前に、マンチキンは嫌悪と恐怖の入り混じったような表情を浮かべる。

「あ、そうだ。あいつから言われてたんだったな」

「ぎゅぶっ!」

 そう言うと、突然リアルマンはマンチキンの顔面を殴りつけた。前歯がさらに何本か抜け落ち、白衣は鼻血で赤く染まる。

「ボスからの言いつけだ。ゲームの参加者に手ェ出した上に無様にやられた負け犬クンにお仕置きしてやれってな」

「く、くそっ、次こそは奪ってやる! 私のアーマードがジオボーグごときに……!」

「お前のじゃねえだろ」

 リアルマンは、マンチキンの襟首をつかんで正面を向かせた。

「ヨロイもロボットも、ありゃ全部『先代様』のお下がりじゃねえか。お前さんが自分で作ったのはお粗末な計画と電気椅子くらいだろ」

 さらにリアルマンは、掴んだマンチキンを吊り上げる。

「あと忘れちゃいねえだろうが、俺もその『ジオボーグごとき』なんだぜ? 歯医者以外の世話になりたくなけりゃ、口の利き方に気を付けるんだな」

 リアルマンの目の下に、赤い傷跡のようなラインが輝く。その姿を見て、マンチキンは顔面蒼白になった。

「……っといけねえ、怖がらせちまったな。ションベンでも漏らされちゃあ困る、このぐらいにしとくか」

 そう言って、リアルマンはマンチキンを下ろしてやる。

「表にお前さんとこの部下が車用意してくれてるぜ。今度はあまりヤンチャすんなよ?」

「……ッ!!」

 リアルマンを振り切るように、マンチキンは駆けだした。途中路上のゴミに足を取られて転ぶものの、再び立ち上がって駆けだす。

「あーらら、カッカしちゃって。大丈夫かねぇ」

 そう興味なさげに言うと、リアルマンはどこかへ消えていった。

(畜生、畜生ッ……! ジオボーグがなんだ、頂点に立つのは、私だ……!)

 涙と血にまみれた顔で、マンチキンは心の底に暗い情熱を燃やしていた。

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