第2話「見えない狙撃魔は危険な香り」Bパート

 雪路は学校を出て横浜駅から電車に乗ると、馬場が見せてくれた『狙撃魔』の出没地点のひとつ……隣駅の駅前に向かった。

 横浜駅ほどではないが駅ビルがあり、他校の生徒たちや近隣住民でちょっとした賑わいを見せている。

(来い、とはとても言えないわ)

 おそらくジオボーグであろう狙撃魔を待ち伏せて倒し、一面ダイスを手に入れるという計画ではあるが、それではここにいる人々の不幸を期待しているのと変わらない。

 さっきまで狙撃魔が来ることを期待していた自分に、胸がきしむ。

「きゃああああああ!!」

 思考は、破裂音と悲鳴で打ち切られた。バスを待っていたサラリーマンの右腕から血煙が上がり、崩れ落ちた。

 すぐそばで悲鳴を上げていた女性も足を抑えて倒れる。

(狙撃魔かッ……!)

 何も気付かぬ者も、怯えて逃げる者もかまわず見えない何者かは餌食にしていく。

 その時ふと、近くにいた女性に目が行った。女性の周りの人々が、次々に倒れていく。

 そして彼女の胸には……生まれて間もないと思しき乳児が抱かれている。

(まさか!)

 そう思うより早く、雪路は駆けだすと女性と乳児の前に覆いかぶさるように立った。

「ッ……!」

 背中に突き刺すような痛みが次々と走る。リオックに殴り殺されそうになった時よりはマシだが、当たり所が悪ければ常人なら後遺症は避けられないだろう。

 背中に異物がめり込んでいる感覚があるあたり、本当に馬場の言う通り改造エアガンで無差別射撃を行っているらしい。

「ッ、グゥッ!」

 背中にさらに痛みが走る。どうやら狙撃魔は、撃ったにもかかわらず倒れない者がいることがよほど不満らしい。

 目の前にいる女性は自分の身に降りかかった災厄に怯えているのか、それとも歯を食いしばりながら銃弾を受ける自分に怯えているのか。

 抱かれた赤子が訳も分からずニコニコ笑っているところからして、守ることができたのは確からしい。

「~~ッ!」

 銃撃は、なおも雪路の背中に突き刺さる。倒れない奴がいることがよっぽど癪らしい。

 一方で、無差別銃撃が止んだことを察してか、駅前にいる人々は順次怪我人の介抱や避難を始めた。雪路が庇っていた乳児連れの女性も、パニックになりかけながらなんとか軽く一礼すると必死に駆け出していく。

(……よし!)

 雪路は、痛みに耐えながら確信する。「狙撃魔」の目的は、もはや無辜の一般市民から自分へ移っている。

 突如、雪路は制服の上衣を脱ぎ捨てた。千切れかけた胸当ての白い紐と、弾丸を打ち込まれ赤黒く染まった広い背中があらわになる。

「ふんッ!」

 雪路は、背中に力を込めた。たちまち背筋が隆起しボトリ、ボトリとエアガンの銃弾が体内から押し出されて落ちる。

 そして、少しすると背中の傷は何事もなかったかのようにふさがった。これこそヴァイパー・ジオボーグの能力、「超回復」と言うべき強力な自己治癒力である。

 このパフォーマンスこそが、雪路流の挑発であった。

 どうだ、私はお前が狩りごっこの標的にしてきた無抵抗の人間たちとは違う。お前と同類の怪物だ! どうだ、狩れるかやってみろ!

 そういった無言の挑発を、雪路は弾丸を受け切り外科処置なしで傷を治すことでやってのけたのである。

 そして、雪路は上衣を着なおすとその場から駆け出した。銃撃はそのまま雪路を標的にやってくる。

(……やった!)

 第一段階は成功ね、と脚への銃撃をかわしながら独りごちる。完全に狙撃魔はこちらの誘いに乗った。あとは尻尾を出すまで逃げ切るのみ!

 そして、雪路は逃げ続けた。走っていくうちに周囲は繁華街、住宅街、街はずれとどんどん移っていく。

「憎たらしいくらい……見えない……わねっと!」

 脚を狙った銃弾を軽く跳んで避け、頭を狙った弾丸を首を軽く動かし避け、背中を狙った弾丸を上体をそらして避けながら雪路は毒づく。

 逃げながら狙撃魔の姿を探すものの、影も形もない。銃声から居場所を割り出そうとしても、かすかにしか聞こえず場所がつかめない。

 そうこうしていると、道の向こうに古びた建物が見える。

(廃工場ね)

 錆の浮いたトタンの外壁と開きっぱなしの門からして、もう10年ほどは使われていないものと思われる。

 ここで勝負を決めようと雪路は門をくぐり、銃撃もそれに追随した。

 工場の中に入る。

「ねえ、『狙撃魔』さん? ちょっとお話ししないかしら」

 雪路は声のボリュームを上げ、どこかに潜んでいるであろう狙撃魔に呼びかける。

 そしてその直後!

「ぐ、あああああああッ!!」

 雪路が雄叫びをあげヴァイパーに変身するのとほぼ同時に、周囲に炎が上がった。

「ずいぶんなご挨拶じゃない?」

 くすぶる炎の中でヴァイパーが言う。黒い装甲は多少すすけるくらいで傷は見られない。

「くっく……滑稽だよ、ヴァイパー・ジオボーグ」

 キャットウォークのあたりの空間がゆがむ。そこには、暗い緑色の甲殻を身にまとったジオボーグが立っていた。

「おおかた『狭い場所に追い詰めて倒そう』と思っていたんだろうが、あまりに浅い。ここは俺の拠点……お前を始末できるものはいくらでもある」

 深緑のジオボーグは、手りゅう弾を野球ボールのように掌でバウンドさせる。

「紹介が遅れたな。俺はカメレオン・ジオボーグ……謙虚で穏やかで常識的でごく普通のジオボーグさ」

なるほど、見れば頭の甲殻は三角に尖り、額の両脇にはカメレオンの目元を思わせる半円型の隆起が見える。

スコーピオン・ジオボーグがサソリのように毒を扱ったことを思えば、何もないところから現れた……いや、姿を自在に消したり現れたりできるのがカメレオン・ジオボーグの能力なのだろう。つまり、姿を消し見えないところから無関係の人々を……!

「ん、怒っているのかヴァイパー? 落伍者を『ロスト』させて空いた枠に収まったと聞いていたからどんな猛者かと思っていたが、駅前での振る舞いといい今の様子といい、どうも『人間』感覚が抜けていないらしい」

 無意識のうちに牙を鳴らすヴァイパーを見て、カメレオンは腹を抱え笑う真似をする。

「俺は逆だ。笑いが止まらない。『やりたい事』を『やりたいだけ』できる、それが楽しくないわけがない!」

 カメレオンは見せつけるように腰のホルスターから拳銃を取り出し、天井に向かって撃つ。一瞬遅れて銃声が響き、重い音はそれが今までの改造エアガンなどではない実銃であることを物語っていた。

「逃げてみせろ、ヴァイパー……活きのいい獲物を狩るのはハンティングの醍醐味だッ!」

 そう言うとカメレオンの周囲の空間が歪み、その姿を隠した。ほどなくして銃撃がヴァイパーに襲い掛かる。

(銃声が二重に聞こえる……二丁拳銃ね)

 銃撃をかわしながら、ヴァイパーはカメレオンの攻め手を予測する。

(……いや、三重、四重……?)

 少しずつ攻勢が激しくなっているように見える。銃弾が同時に四方八方から飛び、かわし切れずに装甲に傷を作っていく。

 ヴァイパーは攻撃の正体をつかまんと、銃弾をかわしながら周囲を見回していく。

 (あれは……!)

 壁に、天井に自動式の銃座が取り付けられ、火を吹いていた。廃工場らしからぬ設備だが、なるほどここはカメレオン・ジオボーグの拠点……獲物を追い詰め始末するために最適化されているらしい。

「ふんッ!」

 ヴァイパーは手首から鞭状触手を射出し、天井にある銃座の一つを砕いた。

 しかし、残りの銃座とカメレオンの銃撃がヴァイパーを襲う。

「おっ、気付いたかァ! だがそんな悠長でいいのかな?」

「ッ……!」

 銃弾が装甲や皮膚、その下の肉をえぐるも、元通りになっていく。しかしその中で、ヴァイパーは体がわずかに重くなっていくのを感じていた。

「ゲームマスターから聞いたが、ジオボーグの治癒能力ってのはRPGの魔法みたいに都合のいいもんじゃないらしいな。治るたびにどんどん体は疲労していく……それこそヒットポイントの上限がどんどん減っていくってわけだ。お前は特に回復力が強そうだが、いつまでもつかな?」

 銃弾をかわしながら、ヴァイパーはギリリと牙を鳴らした。不本意だが、カメレオンの言うとおりである。だんだんと体は重くなり、回避にも精彩を欠き始めている。

 このままかわしているだけでは消耗の果てに死が待っている。銃座を一個一個破壊していては力尽き倒れるのみ。

 隠れているカメレオンを探そうにも姿は見えず、四方八方から鳴り響く銃撃音が壁に反響して耳から探ることもできない。せめて銃座を何とかしなければ、哀れヴァイパーはズタボロの肉片となって廃工場に眠ることとなる。

「さあ、さあ、どうするヴァイパー!? 轢かれた長虫のあがきを見せてくれよッ!!」

 ケタケタと笑いながら、カメレオンは銃撃の雨を降らせる。一方のヴァイパーは何か決心したかのようにはたと足を止め、近くにある銃座に向かって触手鞭を射出した。

「ほう、残りの体力に賭けたか」

 だが、ヴァイパーは触手で銃座を砕くのではなく、支柱に巻き付けてベキリとへし折った。そして、もう片手からも触手を伸ばして銃座を折り取ったかと思うと、銃座は掴んだまま両手の触手をさらに伸ばし、大きく振り回した!

「なッ!!」

 カメレオンが面食らったのも無理はない。触手と銃座でできた即席のフレイルは、四方八方に飛んで各所の銃座を砕いていく。壁に仕込まれていたウエポン・ラックは中の銃器ごと粉砕され、砕けた破片が別の銃座をハチの巣にする。

「ぐがっッ!」

 引き倒された銃座の一つが鈍い音を立てて虚空にぶつかる。カメレオンの悲鳴が聞こえてきたかと思うと、周囲の空間が歪み頭を押さえて呻く姿が現れた。

「く、くそったれ……」

銃撃で妨害しようにもうなりをあげて飛び回る鉄塊と触手が廃工場内を飛び回り、今度はカメレオンの方が攻めあぐねていた。

 ヴァイパーは、鉄くずと化した銃座の成れの果てを投げ捨て、触手鞭をするすると手首に格納した。砂埃舞う廃工場は、ヴァイパーの破壊行為により余計に荒れ果てている。

「ごめんなさいね? あなたの部屋荒らしてしまって……どうせ不法占拠でしょうけど」

「最悪だ」

 カメレオンは、それまでの上機嫌な態度とは打って変わってボソリと吐き捨てた。

「基地も、銃も全部ぶっ壊しやがって、人の苦労を何だと思ってやがる……!」

「基地? 銃? そんなものにこだわっている場合なのかしら」

 ヴァイパーは、カメレオンの呪詛を切り捨てる。

「次は貴方自身よ、カメレオン。その腕輪を破壊して、ダイスもいただくわ……狩りごっこもお終いね」

「最悪だ……」

 カメレオンは、両腕をだらりと伸ばしながらうつむく。

「何度撃っても死なない、俺の予想を全部越えてくる、そんな、そんなの……」

 がばりとカメレオンは体を起こす。

「興奮するじゃないかぁ……」

 カメレオンは鈍く目を光らせながら、舐るように舌を出した。生理的嫌悪感からヴァイパーは一瞬体をこわばらせる。

 ……だが、その一瞬が命取りとなった!

「あぁーッ!!」

 カメレオンの姿が消えたかと思うと、『何か』が十重二十重にヴァイパーの体を切り裂いた。再生が追い付かず、血があちこちから噴き出す!

「ぐっ……!」

 ヴァイパーの脳裏に、学校での馬場との会話がよぎる。カメレオンの被害者には、改造エアガンによる銃創だけではなく切り傷を負った者もおり、その傷口は濡れていた、と。

 この不可視の斬撃こそがカメレオンの奥の手ということになる。

(やつを、見つけなきゃ、このままではッ……!)

 ヴァイパーは痛みをこらえながら走り出し、カメレオンの姿を探そうとする。だがそのたびにカメレオンの斬撃が執拗にヴァイパーの首筋を、腿を、足を狙う。

 それは先ほどの逃避行の再現ではあるが……唯一違うのは、雪路に、ヴァイパーにそれをかわすだけの力が奪われていることだった。

(考えるのよ……この事態を打破する『何か』を!)

 音からカメレオンの位置を割り出すか? 否。斬撃は銃撃に比べあまりに静かで、あてにならない。当たるを幸い触手鞭を振り回すか? これも否。体力においてはこちらが圧倒的に不利である。

 カメレオンの正確な位置を把握し、強力な一撃を叩き込まねばこの戦いに勝ち目はない!

(ならば、どうする!? 不可視のカメレオン、どうその姿を捉える……!?)

 ヴァイパーは逃げながら頭脳をフル回転させ、記憶の棚を洗い出してカギとなるものを探る。

(やつを探す方法、やつを見る方法……!)

 その時、ヴァイパーの脳裏に今朝の一シーンが浮かんできた。ヴァイパー・ジオボーグの『性能テスト』の際、自分は朝もやの中にゲンさんがいるのを発見した。

 あの時自分はなぜ気づけたのか? 目視確認できるほどではなかったはず……

 つまり、知らず知らずのうちに、自分はヴァイパー・ジオボーグの能力を使用していたことになる。

 その力とは何か? 蠍の毒や、姿を周囲に溶け込ませるカメレオンのようなマムシの能力とは?

 柔軟な体か? 高い生命力か? いや、それだけではないはずだ。それは……!

(……そうか、ヴァイパー・ジオボーグの能力とは!)

 脳内に浮かぶ情報が、一つにつながった。ヴァイパーは意識を集中させ、手刀を構える。額の宝玉の赤い輝きが、一層強まっていく。そして……

「ふんっ!!」

  ぶちり、と切断音がすると、何かがボトリと落ちた。細長い肉片……カメレオンの舌であった。

「はぁーっ!」

 間髪入れずヴァイパーは飛び上がり、上空から空間の一点に向けて飛び蹴りを放つ!

「ぐぁーっ!!」

 いや、そこに現れたのは吹っ飛び、頭を押さえて転げまわるカメレオンであった。頭部甲殻の上部にある、カメレオンの眼を思わせる装飾はぐしゃりと潰れていた。そしてそこからは青緑色の体液を垂らしている。

「な、なぜ俺の姿がわかった……! カメレオン・ジオボーグの能力があれば、目視は不可能のはず!」

 よろよろと立ち上がり、舌を一部切断されたためかややおぼつかない声でカメレオンは叫ぶ。

「私も使ったのよ……ヴァイパー・ジオボーグの能力をね」

 カメレオンの方に歩み寄りながら、底冷えのする声でヴァイパーが告げる。

「ヘビの視力は低い……でもその代わり、周囲の赤外線を読み取る『ピット器官』を持っているわ。さしずめ生きた赤外線カメラね」

 ヴァイパーの額にある宝玉がきらめいた。

「ジオボーグはモチーフとなった生物の能力を持っている……そう思って使ってみたら、あんたがみっともなく舌を伸ばす様子が見えたわ」

 ツカ、ツカとヴァイパーは歩み寄る。

「ま、待ってくれ! お、お前ダイスが欲しいんだろ! やるよ、やるから、見逃してくれよ!」

 ヴァイパーの歩みが止まる。

「正直俺はダイスなんかどうでもいいんだ……へへぇ、狩りができりゃいいんだ狩りが、あんただって叶えたいことがあるからダイスを集めてんだろ? だったら争う必要ないじゃないか」

 グリーン・クリアのダイスを手の上に乗せ、差し出しながらヘラヘラと愛想笑いをする。

「……」

 ヴァイパーはカメレオンを見据える。そこにかつてのハンターの面影はない。もはや、彼は『狩られる側』、今まで自身が傷つけてきた人々の立場にあった。

 ツカ、ツカ、ツカ。ヴァイパーは再び歩き出す。

「ま、まて、待てよッ!」

 ツカ、ツカ、ツカ。ヴァイパーは止まらない。

「止まれっつってんだよッ! ヒーローごっこするのは勝手だがな! 暴力の味を知ったジオボーグは俺だけじゃねえ、腐るほどいるぜ! そいつら全員に喧嘩売る気か!? あァ!?」

 ツカ、ツカ、ツカ。破れかぶれで凄むカメレオンをよそにヴァイパーは進む。

「や、やめて、やめてくれ、やめてくださいィ!! 嫌だ、痛いのは嫌だァ!!」

 懇願するカメレオンをよそに、ヴァイパーはカメレオンの襟首をつかんで無理やり立たせる。コトリと音を立ててダイスが床に落ちる。

「あなたが撃った人たちも、同じことを思ったでしょうね」

 そう言って、ヴァイパーはもう片方の拳を振りかぶった。黒紫の光が拳に走りバチバチとスパークする。

「セイッ、ヤァー!!」

「ぎゃあああああああああ!!」

 ヴァイパーのストレートパンチが、カメレオンの横面にめり込んだ。カメレオンはそのまま勢いよく横っ飛びし、廃工場の壁に激突してずるりと倒れこむ。

「毒龍拳奥義……『直突』」

 ヴァイパーが呟くと同時に、カメレオンの全身に光るヒビが走り、鏡が割れるかのような音が響く。変身者の生命維持の代償として起きるジオブレスの破壊……『ロスト』である。

 ヴァイパーは変身を解くと、足元に落ちたダイスを拾う。『四』の目のみが彫られたダイス、二つ目の『一面ダイス』だ。

 そしてそのまま雪路は、カメレオン……いや、『カメレオン・ジオボーグだった男』の元に歩み寄る。20代後半と思しき、鍛えられた体の男だ。胸が上下しているところからして息はあり、目立った外傷もない。

 だが、青白い顔と悪夢でも見ているかのようにうなされる様子は、戦いの代償を現わしていた。

 この男は何を思いジオボーグになり、何を思ってその力をふるったのだろうか。思考を巡らせるが、それは本人も今となっては理解できないのだろう。

 雪路は思考を打ち切り、スマートフォンを取り出すと「119」の番号をプッシュした……



その日の夕方、梶山家の居間では梶山夫妻と従業員たちが夕食のため一堂に会していた。

「あっ、社長! あの『狙撃魔』捕まったんですってよ! 隠れ家に倒れてて、犯行に使ったエアガンが何丁か見つかったんですって!」

 ヤスがテレビを指さし声を上げる。

「そうかい。しっかし分からんな。人様を鳥か猪みてぇに撃っちまうなんて」

「分かんないといえば、お嬢さんってどうしたんですかね?」

 サクがお代わりのご飯をよそいながら問いかける。

「おかしいわねえ、まだ授業も長くないはずなのに」

「寄り道でもしてんだろうか」

 音々が首をかしげ、世四郎が腕を組む。そんな中……

(コレは……何て言い訳したものかしら)

 ずたずたになったセーラー服をまとった雪路が、ふすまの前で立ちすくんでいた。

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