私達は後一年同じ部屋に帰る

@piyo_ollo

第1話

「秋?」


聞き返されたその言葉は、赤い季節の色をはらんでいた。私は首を横に振って、もう一度アキと呼んで空で指を動かす。


熱にうなされた子供のように書いた名前をようやく認識したのか、無味無色な声で正しくアキと呟く声が聞こえた。もう一度その名前を呼ぶ。アキは嬉しそうに眼を細める。その茶色い瞳に映り込んだ青色の私がまぶたに押し殺される錯覚に陥った。


「今日でこの制服も最後ね」

「ゆうちゃんは最後まで似合ってたよ」

「ありがとう」


二年間みつめてきたその曖昧な色の目をじっとみつめ返しお礼を言った。ふと、アキに初めて会った時の感情が蘇る。


この閉塞的な女子学院の中で、アキは最後まで馴染むことない異端児だった。


真っ白い大きな画用紙に一つ落とされた黒いシミ。厳しい学案内に置いて、シスターすらが見て見ぬ振りをした黒で、そして陰口を叩いた可憐な乙女たちが密かに恋心を抱いた黒だ。


この年、女学院には一人の少年がいた。短く乱雑に切られた髪とどこか夜の街を思わせる反抗を含んだ目。少女しかいないこの学院で少年は少女と同じ青色の野暮ったいセーラー服に身を包んで生活をしていた。




生徒の約八割が寮に入り生活をしているこの学院は昔からの掟やしきたりが多く存在していた。女子特有の小さく無意味な約束事は、決して明るみに伝えられることなく、それでもどこかから情報を仕入れてきた友人が教えてくれる。例えば一年生は髪の毛を全員二つに結わえる、だとか。三年生は青色のセーラー服の胸元に揺れるスカーフを白以外に変えて良いとか。


掟を破って二年生や三年生のお姉様方に怒られたと言う話は聞かない。少女とは、こう言った秘めた約束事が好きで、そして周りと違うことをする勇気がないか弱い存在である。


だからこそ、向かいの棟にいると言う王子の噂はよく耳にしていた。青色のセーラー服に黄色いスカーフをなびかせる髪の短い少女は、小学校から一貫したこの学院に飛び込んできたまさに少年だった。

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