LIAR LOVE GAME

神木 ひとき

LIAR LOVE GAME

誰かが幸せになるということは、誰かが不幸になるということなんだ‥



ある日の放課後、同じクラスの男子に話があるって呼び出された。


一体何の話なんだ?

まさか告白とか‥

わたし好きな人がいるし‥困るよ。


裏庭に立っている彼の表情は至って冷静で、これから恋の告白をするようには見えなかった。


「それで、話って何?」


彼に質問をすると、


「そんなに焦らないでよ、ようやく決心して話すことにしたんだから」


表情ひとつ変えずに冷静に答えた。


ようやく決心って、やっぱり告白なの?


彼は一呼吸おくと、わたしの顔をマジマジと見つめて言った。


「君は松下のことが好きなんだろう?」


何でそれを知ってるの!?

意表を突かれ、訝しげに彼を見て言葉を返した。


「な、何言い出すの‥いきなり?」


慌てて彼に食ってかかった。


「その顔はどうやら図星みたいだね?」


彼に気持ちを見透かされたことが恥ずかしくて思わず下を向いてしまった。


「別に恥ずかしがることはない‥人を好きになるのは悪いことじゃない」


彼は相変わらず表情を変えず冷静な口調で言った。


「それ‥誰から聞いたの?」


「誰からも聞いてなんかいないよ」


「じゃあどうして?」


「話は二日前に遡る、君の好きな松下祐介まつしたゆうすけ森野理美もりのさとみに告白したんだ」


えっ、松下君が理美に告白?

そんなこと理美から聞いてないよ!


「そんな筈は無い‥」


だって、理美はわたしが松下君を好きなの知ってるんだから‥


「知らなかったのは無理も無い、当の森野もかなり困惑していたみたいだからね」


彼は腕組みをしながら全てお見通しだと言わんばかりに頷きながら言った。


「どうしてそんなこと知ってるの?」


「話は昨日へ進む、森野が僕の所へ話があるってやって来たんだ‥」


「理美が話?」


「そう‥」


「どんな話だったの?」


「僕のことが好きだって、僕と付き合って欲しいって」


「はぁ〜?」


わたしは驚きを通り越して言葉が出て来なかった。


理美はクラス、いや学校でも超可愛くて1、2を争う程人気があるんだぞ、その理美から告白された男子なら嬉しくない筈ないだろう、なのに彼は表情を崩さず冷静な顔をしてわたしを見つめている。


彼は初めて視線を外して空を見上げると、深呼吸をして、再びわたしを見つめて言った。


「そんなに難しい方程式じゃないよ、つまり君が好きな松下祐介は君の親友の森野理美が好きで、その森野理美は僕、東野綾斗とうのあやとのことが好き、でも僕は君、芹田加奈美せりたかなみのことが好き‥それだけのことだよ」


わたしは訳がわからず彼の言葉を頭の中で繰り返した。


松下君は理美が好き、理美は目の前にいる東野君が好きで、その東野君はわたしを好き‥


「えっ!わたしを好き!?」


彼は今、サラッとわたしに告白したんだよね?

なのにどうしてそんなに冷静な態度でいられるんだ?


「あのさ‥何が言いたいの?」


彼の意図が理解できず質問した。


「それも簡単なことだよ、君が松下に告白すれば答えが出るよ」


「答えが出る?」


何それ‥意味がわからないよ。

松下君は理美に告白したんだよね?

告白したって無理に決まってるじゃない!


「意味がわからない、無理に決まってると思ってるんだろ?」


彼がわたしの心を見透かしたように言った。


「そんなの当たり前でしょ!」


「でも君は松下に告白しないといけないんだよ」


「どうして!?」


「さっきも言ったけど、それで答えが出るんだ」


「さっきから答え答えって、一体何の答えなの?」


「森野は松下に他に好きな人がいるから、つまり僕に告白して振られたら松下と付き合ってもいいって答えたんだ」


「‥」


「僕も森野から告白されて、僕にも好きな人がいるから彼女、要は君に振られたら付き合ってもいいって答えた」


???‥!

何の話をしてるんだ、頭の中がまったく整理出来ない‥


「つまり君の返事や行動で全ての答えが出るってことだよ」


どう考えても、彼の言葉の意味が理解出来なかった。


「君がもし僕と付き合えば、僕は森野を振ることになって、森野は松下と付き合うことになる」


「なるほど‥」


わたしは頷いた。


「君が僕を振れば、僕は森野と付き合うことになる」


それも理解できる。

わたしは再び頷いた。


「君は松下に告白して振られたら、僕と付き合う気があるかい?」


「何でそうなるの?」


「もし僕が君に振られて、森野と付き合わず森野を振ればどうなる?」


どうなるって‥


あっ!


「理美と松下君は付き合うことになる!」


「そういうこと」


彼は少し微笑んで言った。


「だから君にも平等にチャンスをあげたいんだ」


「チャンス?」


「松下に告白して、振られたら僕と付き合って欲しいんだ」


「はあ?何でわたしが東野君と付き合わないといけないの?」


「まだ決まった訳じゃない、君が松下と付き合うことになるかも知れないよ」


「そんなの無理だよ、松下君は理美が好きなんでしょ!?」


「やってみないとわからないよね」


「そうだけど‥」


「だから、松下に告白して同じように言って欲しいんだ、もしわたしが振られたら僕、東野と付き合うって、それで‥」


彼の話を冷静に整理していくと、あることに気がついてしまった。


「松下君は理美と付き合いたいんだから、わたしを振るよ、そしてわたしはあなたと付き合う、そうなれば理美は振られたことになるから‥結局、松下君と付き合うことになるじゃない!そんな子供だましの手に引っ掛るわたしじゃないわよ!」


彼の言葉を遮って勝ち誇ったように言った。


「‥はぁ〜っ」


彼は手を額にあてると深いため息をついた。


「それは余りにも単純すぎる、話は最後まで聞いて欲しいな、だから更にこう言うんだ、でもわたしを振って、もし僕、東野を振ったらどうなるってね‥松下はどうするかな?」


彼は相変わらず冷静な口調を崩さず言った。


「‥」


もし、わたしが振られても東野君を振れば、東野君と理美は付き合うって思うだろうな‥

そうなったら松下君はどうするかな‥


心の中で不思議な気持ちが湧いてくるのがわかった。

これは面白いかも‥


でも、これじゃ堂々巡りのような‥

東野君は何でこんなことを考えたんだろう?

いや待てよ‥


もしこれが東野君の考えじゃなかったら‥

まさか‥


「東野君、もしかしてこれって理美が言い出したんじゃないの?そう言えって‥」


「‥」


初めて彼が表情を崩してバツが悪そうな顔をした。


やっぱりそうなんだ‥


理美は多分、東野君がわたしを好きなのを知っていたに違いない。


更にわたしが松下君を好きなことも知っていたからこんなことを考えついたんだ‥


理美はどういうつもりなんだ?


「どうするんだい?」


彼がわたしに質問をした。


しばらく考えて返事をした。


「やるよ、やってみる!」


理美の企みの意図はわからない。

けど、面白い!

このゲーム乗った!


「そっか‥」


彼は再び冷静な表情をして答えた。


「ひとつだけ教えて?」


「何だい?」


「東野君は何で理美の企みに乗ったの?」


「どうしてかな?芹田のことが好きだから‥告白なんてとても出来ないと思ったけど、このまま芹田を松下に取られたくないって思ったから‥かな」


彼が少しだけ恥ずかしそうな表情を浮かべて言った。


「東野君‥」


よく見ると彼は素敵な容姿をしている‥

バスケ部で背も高く、成績も優秀で女子から人気がある。


わたしは松下君が好きだから、今までそういう目で見たことが無かったけど、こんな風に面と向かって好きだなんて言われたら悪い気はしない。


でも、わたしは松下君を理美に取られたくない!


だから悪いけど、このゲーム、勝ち抜けさせてもらうからね!


次の日、わたしは理美にこの件を触れず松下君を呼び出した。


「どうしたの芹田?」


「うん‥」


意を決して自分の気持ちを告白した。


「松下君のこと、今までずっと好きだったの‥よかったら付き合ってくれないかな?」


「えっ?」


松下君の表情は驚きと共にかなり困惑しているようだった。

そりゃそうだ、つい三日前に理美に告白して、その親友から告白されたんだから‥


「芹田、あのさ‥俺は好きな子がいるんだ」


予想通りの答えが返ってきた。


「知ってるよ、理美のことが好きなんでしょ?」


「知ってたの?じゃあ何で?」


「三日前に理美に告白したんでしょ?理美には他に好きな人がいるから、理美が告白して振られたら付き合えるんだよね?」


彼は驚いた顔をしていた。


「何で知ってるの?森野が話したのかい?」


「違うよ、理美とは話してないよ」


「じゃあ何で‥」


「理美が告白した相手、誰だか知ってるの?」


「いや‥知らないよ」


「東野君だよ」


「東野だったのか‥あいつ優しいし、頭いいし、カッコいいからな‥」


「でも東野君、わたしのことが好きなんだって‥昨日、彼から告白された」


「えっ?」


松下君は更に驚いた顔をした。


「東野君、わたしに振られたら理美と付き合うんだって」


「‥」


「理美は東野君に振られたら松下君と付き合うんだって」


「何だい、それ!?」


「わたしは松下君に振られたら東野君と付き合おうと思ってる」


「‥」


「わたしを振れば松下君は理美と付き合えるよ‥でも、わたしの気が変わって東野君を振ったらどうなるかな?」


「‥東野は森野と付き合うのか‥」


「そう言うこと‥どうする松下君?」


「芹田‥何でそんなことを?」


「さあね、このゲームの主催者に聞いてみないとわからないな‥」


「ゲームの主催者?」


「そう、森野理美に聞いてみないとね、これは全て彼女が仕組んだゲーム」


「森野が仕組んだゲーム?」


「松下君から告白されて思いついたんだと思うよ、多分‥理美は知ってたんだ、理美の好きな東野君がわたしを好き、わたしは松下君が好き、松下君は理美が好き‥この一見ゴチャゴチャした複雑な片想いの関係を一気に清算できるゲームをね‥決して両想いじゃない二人が付き合うことが出来る唯一の方法」


「‥どういう意味?」


「誰かが妥協、いや、思いやりを持って諦めないと決して解決しない究極のゲーム、自分の愛しい人が他の人と付き合うことを許せるかどうかのね」


「‥そんなことって」


「このゲームから逃れる方法はあるよ」


「どんな方法だい?」


「誰とも付き合わないで終わるってこと‥全員が好きな人を諦める」


「そんなこと、出来るのかい?」


「さあね、みんな自分の事しか考えていないから難しいかな‥松下君は理美と東野君が付き合うのを見るの耐えられるかな?」


「‥無理だな」


「じゃあどうする?」


「少し考えさせてよ」


「もちろん」


そう言ってわたしは松下君と別れた。



教室の前の廊下に東野君が立っていた。

どうやらわたしを待っていたようだ。


「今、松下君に告白してきたよ」


「彼は何て?」


「少し考えさせてって」


「そうか‥」


「東野君、理美は何でこんなことするのかな?」


「さあね?芹田はどう思う?」


「究極の人間の優しさを試しているのかも‥」


「なるほど‥でも僕は森野に感謝してるんだ、お陰で芹田にちゃんと自分の想いを伝えることが出来たからね、芹田が松下を好きなの、わかってたけどね‥」


「そうなんだ‥」


「だから、僕はこのゲームから降りるよ」


「誰とも付き合わないってこと?」


「いいや違うよ‥森野と付き合うよ」


「えっ?東野君はそれでいいの?本当にいいの?」


「いいのって‥芹田は僕のこと好きでもないのに、何でそんなこと言うんだい?」


彼は苦笑しながら言った。


「いや‥そうだけど」


「誰かが幸せになるということは、誰かが不幸になるということなんだ‥芹田が幸せになれるならそれでいいよ」


「どうして?」


「僕は芹田が悲しむ姿を見るのは耐えられない、芹田が笑っている方が嬉しいから‥」


「‥東野君」


「それを伝えるために待ってたんだ。松下と仲良く!それじゃ、バスケ部行くから‥」


そう言って彼はわたしの前から去っていった。


誰かが幸せになるということは誰かが不幸になるということなんだ‥


彼の言葉が心に響いた。



教室に入ると、帰る支度をする理美に声を掛けて校舎の裏に連れ出した。


「こんな所で何の話?」


「理美‥松下君に告白されたんだよね?」


「何でそれ知ってるの?」


「そして東野君に告白したんだよね?」


「どうしてわたしが東野君を好きなの知ってるの?誰にも話したことないのに‥」


「東野君がわたしに告白したから‥」


「東野君の好きな人って加奈美だったの?」


「知らなかったの!?それを知っててこのゲームを仕掛けたんじゃないの?」


「仕掛ける?わたしは東野君から僕が振られたら付き合ってもいいから、松下君にもわたしが振られたら付き合ってもいいよって言ってくれって頼まれただけだよ」


このゲームの主催者は‥

理美じゃないんだ‥


東野君なんだ!


「ちょっと加奈美、黙ってたらわかんないよ、ちゃんと説明してよ?」


「理美ごめん、今度ちゃんと話すから!」


わたしは慌ててその足で体育館に向かった。


体育館に入ると彼はバスケの練習の真っ最中だった。

部活中にも係わらず、大きな声で彼を呼んだ。


「東野君、ちょっと!」


彼は一瞬驚いた顔をしていたけど、直ぐに冷静な表情に戻ってわたしの方へやって来た。


「どうしたの?」


「少し時間を頂戴よ」


「今?」


「そう、今すぐ」


「わかった‥」


彼はバスケ部の他のメンバーに声を掛けると、わたしの後に付いて体育館を出た。


「何だい?随分と慌てているみたいだね?」


「まさか‥東野君がこのゲームの主催者だったなんて‥何でなの?」


「何のこと?」


「しらばっくれてもだめだよ!東野君が理美に指示したんじゃない!」


「そうか‥もうバレちゃったのか」


「どういうつもりなの?」


「どうもこうもないよ、話した通りだよ、三日前に松下が森野に告白するのを偶然見てしまった。森野が松下に押し切られそうだったから‥君が悲しむと思って何とかしたかったんだ」


「わたしが悲しむ‥?」


「そうだよ、君は松下のことが好きなんだからね‥だから松下と森野が付き合わないようにする方法を考えた。森野が僕に好意があるのを気づいていたから、森野にもし僕が好きな人から振られたら付き合ってもいいって言ったんだ。そして僕は多分振られるから森野と付き合うことになるってね」


「意味がわからない」


「君が僕の言った通りに松下に告白してくれたから大丈夫だよ、今朝、松下に森野に振られたら君と付き合うことを確認したから安心してよ」


「何でそんなことするの?」


「何でか?‥それは僕が君を好きで、でも君は僕を好きじゃない。だから僕は君とは付き合うことが出来ないけど、せめて君には好きな人と付き合って欲しいと思った」


「‥」


「この四角関係は不幸だよ、誰も幸せにはなれない‥だからせめて芹田、君には幸せになって欲しかったんだよ、まあ、森野が僕と付き合って幸せだと思ってくれたらそれもいいよね‥」


「‥東野君」


「これでゲームオーバー、いや、ゲームセットだ、明日、僕から森野にはちゃんと説明するから‥もう話は済んだかな?部活に戻るよ」


彼はそう言うとわたしに背を向けて体育館へ向かって歩き出した。


「まだゲームは終わってないよ!」


わたしの張り上げた大きな声に彼は振り返って驚いた顔をした。


「わたし、気が変わった!東野君の告白を受け入れて東野君と付き合う!」


「芹田‥」


「わたしは理美と東野君が付き合うのなんて耐えられない!」


「耐えられない?」


「そんなの嫌だから‥わたしをこんなにも好きでいてくれる、そんな東野君を理美に見す見す取られたくないから!」


「芹田‥何言ってるの?」


「東野君のこと今までよく知らなかった‥けどもっと知りたい。わたしの彼氏に東野君はとっても相応しいと思う、わたしは東野君の彼女に相応しいと思ってくれるかな?」


「芹田‥相応しすぎるけど‥同情なら要らないよ」


「同情?自分だってそうでしょ?わたしの為にこんなことして‥」


「それは‥」


「ここまでわたしを想ってくれる東野君の気持ち‥心に響かない筈ないよ!」


「芹田‥本気で言ってるの?」


「本気だよ‥こんなこと冗談で言えないよ」


「松下はどうするの?」


「さあね?理美と付き合うのかどうか‥わたしの知ったことじゃ無いよ。バスケ部が終わるまで待っててもいいかな?一緒に帰ろうよ」


「もちろん‥」


わたしはこのゲームを勝ち上がった。

素敵な彼氏と一緒に‥


−完−

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LIAR LOVE GAME 神木 ひとき @kamiki_hitoki

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