第128話 決意の夜

 ヨハネは寝台に横になったが、興奮と緊張で眠れなかった。彼はその人生で初めて、主体的に自らの行動を決めた。餓えによってやむを得ず身を売ったわけでもなく、その契約によって持ち主の命令に従うわけでもない。この先、どんな災いが彼に降りかかろうと、どんな幸福が彼にもたらされようと、すべて彼自身がその結果を負う。その恐ろしい事実に彼の心はおびえ、同時に高揚こうようした。


 彼は寝台から抜け出すと、勝手口の外にある井戸まで行って水を飲んだ。初夏の夜は、ラーナたちの鳴き声が辺りに響いていた。彼は空を見上げた。大きな満月が他の星を圧倒して光り輝いていた。その光は、井戸の脇に立っているピーノの木に長い長い影を引きずらせていた。


 彼はその影を見て、何か懐かしいものを感じた。彼の鼻の奥には、ふとカラタチの香りが蘇えった。その一瞬、月明かりが陰り、人影が地面に映し出された。彼は驚いて顔を上げた。そこには、満月ただ青々と輝いていた。彼が地面に目を落とすと、人影はもう消え去っていた。


 彼はあの後、イゴールに聞いた東にある土地の情勢を思い出していた。

 

 投機と賭博の街、ラ・クエスタ。この国の首都であり、副王が住む、ヌエヴォ・ヴァリャドリッド。見渡す限り豊穣の黒土が続くラス・ティエラス・ネグラス。そして最終目的地の石造りの街、エル・カピタル。


 明日の早朝には、彼はメグとペテロと連れて、船に乗る。その先に起こるであろう出来事は彼をどう迎えるのだろうか。運命は彼をのろうのか寿ことほぐのか。彼にはまったく想像がつかなかった。

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