第125話 再会

「おい、ヨハネ! 起きろよ」


 ヨハネは飛び起きた。目の前には見覚えのある顔が二つ並んでいた。

 ペテロとパウロだった。


「無事だったか。ずいぶんひどい目に遭ったそうじゃないか」

「二人ともどうしたんだ」

「お前に会いに来たのさ」

「今まで通り仕事を続けろと言っただろ! 私の共犯だと思われたらどうするんだ」

「簡単さ。『先輩奉公人が後輩を連れて悪所あくしょに遊びに行く』と言っておいた。誰も疑わない。みんなやっているからな。それより背中に彫り物と焼き印を入れられたって聞いたぞ。見せてみろよ」


 そう言うとペテロはヨハネのシャツをまくり上げて背中を見た。ペテロは喜色で顔を赤くし、パウロは衝撃で真っ青になった。


「これはすごいな。男ぶりが一段と上ったじゃないか。ははっ」

「ペテロさん、何を言ってるんですか。……これはひどい」

「気にするなよ。沖仲士おきなかせ川人足かわにんそくの中には、惚れた女の名前を入れ墨にしたり、度胸試しで腕に焼きごてを当てるやつはたくさんいるぞ。パウロ、お前もセシリアの名前を腕に彫れよ。あの娘、きっと喜ぶぞ」

「嫌ですよ。そんなのしなくても十分です」

「それで、ヨハネはこれからどうするんだ」


 ヨハネは寝台の上に腰かけると少し考えて、言った。

「今度はマリアを助ける。東ミゲル会社まで行く」


 ペテロとトマスは顔を見合わせた。そして口々に言った。

「ヨハネは東ミゲル商会がどこにあるのか知っているのか? 『エル・カピタル』と呼ばれる遥か東の街だ。そんな遠い所まで金を持っていないお前がどうやって行くつもりだ」

「そうですよ。どうやって行くんですか。金も時間もいくらかかるか想像もつきません」

「それでも、私は行く。費用は、何か働いて稼ぐ。私は馬車や馬を扱えるし、たくさんの人足仕事をしてきた。読み書きも金勘定もできる。何かしら方法はあるはずだ」

 ペテロとトマスはまた顔を見合わせた。


 部屋に沈黙が訪れた。


 二人ともヨハネが言い出したら聞かない性格だとよく知っていた。だが、この無謀すぎる旅をヨハネ一人で完遂できるとは思えなかった。路傍に死すのがオチではないか、二人はそう考えた。

 扉が開いてメグが入って来た。

「あら、三人で楽しそうね」

「メグ。無事でよかった」


 ペテロはそう言うと、その高い背でメグの上から覆いかぶさるように近づいた。メグは半歩下がってペテロを見上げると、腕組みをして言った。

「なんとかね。大変だったけど。みんな、イゴールが呼んでるわ。彼の部屋まで来てちょうだい」

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