第58話 殷賑のエル・デルタ
ヨハネは馬車小屋から一番小さくて古い箱馬車に馬を一頭付けた。これは以前カピタンの私用馬車だったが、今では誰にも使われず、馬車小屋の奥で埃をかぶっていた。
通常、
しかし、貿易量が増えるにつれ、
これは街が急激に豊かになっている証拠だった。ヨハネは
それくらいペテロの帰還を祝福したかった。
だが、意外にも今回限りという条件でトマスは許しをくれた。「なぜ、馬車を使いたい」とのトマスの問いに「親友を喜ばせたい」とヨハネが答えると、トマスは歯を見せずに両方の口角を上げて笑って答えた。
「使え。ただし今回一度限りだ」
ヨハネは一番年を取った馬に馬具を付けて馬車に繋ぐと、
視界が一気に開けた。御者台からは広い大通りの先が見渡せた。道行く人々や小さな商店は下に小さく見えた。大通りの大きな建物は、徒歩で歩く時よりずっと低く見えた。しばらく進むと、馬車は緩やかな坂道に差し掛かった。ヨハネは馬と箱馬車が適切な距離を取れるように注意深く馬を走らせた。年老いた馬は一気に汗を流し始めた。その汗はすぐに白い跡となって馬の皮膚に張り付いた。
馬車は坂を上り切った。そこからは下り坂だったが、その坂の上からは、エル・デルタの美しい街並みが一望できた。
その風景は市民たちの誇りだった。
石垣の防波堤に囲まれた中州の集合体が、エル・デルタの街だった。
橋は人馬だけを渡しているわけではなかった。
この街では、北の山々から引かれた清潔な水を、特別な水路で街中に行き渡らせていた。人馬用の橋に並行して、水路が川を渡るための特別な橋が造られていた。人々はその水路から生活水を得ていた。
みな
死ぬのは市民ではなくワクワクの奴隷か、ヨハネのような混血の奉公人だった。奉公人は死ぬと
そのような血なまぐさい
大通りは幾つかの中州と橋を通り、突き当りの港まで続いた。ヨハネは馬車を停め、御者台の上から沖を眺望した。穏やかなエル・マール・インテリオールは今日も太陽に照らされて青く輝き、沖には十数隻のガレオン船が
ガレオン船は日焼けと再塗装を繰り返した末、
その中にペテロがいるはずだった。
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