第23話 エル・デルタの眺望
ヨハネは神殿のあった小高い丘の上から、真正面に見えるエル・デルタの街を眺めた。
街は春の光を浴びて、色鮮やかにその姿を浮かび上がらせていた。
雲雀の鳴き声があたりに響いていた。
この丘は街の東はずれにあり、その上からは街の全体が眺められた。北の山脈から流れる大きな河が数千年の時をかけて削り取って作り上げた二十数個の三角洲の上に、赤い煉瓦で造られた多くの建物が秩序だって立ち並んで、エル・デルタの市街地を形成していた。一つ一つの洲は、水害対策の防波堤で囲まれ、隣の洲と煉瓦造りの橋で結ばれていた。
その中で一番大きな洲には中央に大通りが走り、その両側には大商人たちの商館が立ち並んでいた。大通りの突き当りにはこの街最大の教会と市参事会の建物が威厳をもって立っていた。
また網の目のように広がる河には、多くの小舟が人や物を乗せて行き来し、防波堤の横に造られた桟橋にはハシケが取りつき、人夫たちが荷物の積み下ろしをしきりに行っていた。そこで運ばれているものは、日用雑貨や衣類、食料の他には、様々な肉体労働をするための人足だった。
そして、この市街地を幾つもの小高い丘が取り囲んでいた。その丘には街を支配する大商人たちの大邸宅が立ち並び、お互い富力を競い合うかのように、豪華な建築様式の屋敷と美的感覚の粋を集めた庭園がその美しさを誇示し合っていた。
しかし、どの街もそうであるようにこの街にも悪所があった。
街外れの丘にある街から見えない貧民街がそうだった。ここでは街の生活からこぼれ落ちた人々がひしめき合って暮らしていた。また、正体不明の肉を食わせる屋台や、
飲み屋も売春宿も不衛生なために様々な疫病が定期的に流行り、夜になると殺人や強盗事件が起き、
エル・デルタの善男善女はそこに決して近寄らなかった。
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