第8話 黒馬車と下衆男
奴隷市場の資材搬入口はアギラ商会の人馬で大騒ぎになっていた。なにせ十人乗り四頭立ての馬車が二台とそれらを守る護衛たちが
それは今日買い付けられた女奴隷を見物する事だった。市場の搬入口から馬車が停めてある車溜りまで、奴隷たちは建物の外を少し歩かなければならない。用意された二つの奴隷用馬車は搬入口に後ろを向けて停められ、後ろの出入り口の扉は外へ大きく観音開きになっていた。そこに向けて腰布一枚の女奴隷たちが歩くのだ。下衆男たちにとってこれほどの見世物はなかったし、女奴隷たちにとってこれほどの恥辱はなかった。
そしてそれ以上に女たちを圧迫したのは、車溜りに停められた奴隷用の馬車だった。それは全体が真っ黒に塗られた細長い箱だった。そしてそれは分厚い樫の木で作られ、分厚い板で蓋をされていた。中は人が中腰になれるくらいの高さしかなかった。壁に窓はなく、空気を通すための縦長の隙間が幾つか切られているだけだった。大きく開かれた扉は長くて太い閂と鉄製の錠前が付けられていた。怪物が大きく口を開けて獲物が入るのを待つかのように、その馬車は黒々と大口を開けていた。
搬入口の奥から、鞭の音と女たちの悲鳴が聞こえてきた。
「ほら、さっさと歩け。向こうの馬車まで走らないと男衆の見世物になるぞ」
女競売人の怒鳴り声が響くと、一人のワクワクの奴隷女が両手で乳房を隠しながら、大股で地面の土を蹴って車溜りを駆け抜け、馬車の後ろの大きく開いた入り口に駆け込んだ。男たちはそれをじっと見ていたが、一斉に卑野な笑い声を上げて囃し立てた。そして、二人三人と女奴隷たちが走り出ると、追い立てられているようにワクワクの女たちが一斉に走り出してきた。みな首輪を外されていたが、腰布一枚の彼女らは両腕で顔と乳房を隠しながら、男たちの前を走り抜けて馬車の中に入った。男たちは指笛を鳴らしたり手を叩いたりしながらその様子を眺めていた。
馬車へ駆け込もうとした最後のワクワク女の一人が足を滑らせ、地面の上にベシャリと倒れこむと、奉公人たちはドッと笑い声を上げた。その女は屈辱と恥辱に耐えるようにと倒れたままジッとしていたが、やがてゆっくりと起き上がると顔に付いた泥を落としもせずに下を向いて顔が髪で隠れるようにしながら、トボトボと歩いて馬車の中に入った。
その様子に男たちは静まり返った。みな下や横を向いてため息をついたり耳の穴に小指を突っ込んだりしていたが、ただ一人だけ奉公人頭は大声で喚き立てていた。
「なあ、面白いものが見られたろ。俺の言う通りここで待っててよかっただろ。なあ」
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