DOLLMASTER クインナルシー
秋田川緑
第1章 美しき地球へ
第1話 大気圏突入
『人類史上、最もかわいいハルマゲドン』と呼ばれた大破壊。
その後の『かわいい独裁者達による群雄割拠時代』を経て、地球の文明は崩壊した。
それより千年と少しばかり。
今、大破壊の際に宇宙に逃げ延びた人々の末裔が、再び地球の広大な青さを眼下に見て、その重力の元へと帰ろうとしていた。
――
『これより華麗なる降下を開始します……突入角度、良好!』
『美しき機関部に問題なし!』
「了解。各員、清らかな水のように美しく、冷静におやりなさい。大丈夫、私達は美しいのです。上手く出来るはずです」
少女はそう言うと、再び宇宙船の各ブロックからの通信を聞いた。
武装した巨大宇宙船、地球へ降りるための同族を多数載せたこの船は、もうすぐ地球に降りる。
大破壊後、初となる有人船の大気圏突入である。
この記念すべき出来事に、少女は激しく胸を躍らせていた。
もっとも、大気圏突入の際に発生した振動のために物理的にもぷるぷると揺れていた胸のたわわではあったが、それ以上に震える心のときめきは何にも例えることは出来ない。
今、宇宙へ脱出した人間達が、生命のルーツである青い星の影響下に戻る。
そう考えると、自然と激しく燃え上がっていた心の昂ぶりは、どうにも抑えようが無いのである。
しかし、一方で不安を感じているのも確かであった。
何しろ彼女にとって――いや、この船に乗っている誰にとっても、大気圏突入など初めての経験なのだ。
船が大きく揺れながら重力に引かれて行くこの感覚は、経験したことのない者にとっては、恐れを覚えずにはいられない。
少女は、今一度自分を落ち着かせるようにして言葉を繰り返した。
「大丈夫。私達は美しい。きっと、大丈夫……私達は美しい」
少女は長いまつげの目をギュッと閉じて、手を胸の前で組んで祈りをささげる。
(夢にまで見た地球に帰る。どうか、無事に降りれますように)
……ふとその時、通信手が何事か伝えてきた。なにやら慌てている様子である。
『すぐ近くに船影反応あり! 美しい我々と同じく、すでに大気圏突入コースに入っています!』
「なんですって? 美しい角度なの?」
『はい! 我々と同じです! 美しい同族以外にありえません!』
「なんと言うこと! すぐに船のタイプを照合なさい!」
やがて伝えられる船の型式。
「……小型の旧式船。なるほど。デブリに紛れて気づかなかったと? しかし、醜いものね。あんな船で地球に降りられるのかしら」
『どうしましょう?』
「……このタイミングではお互いに何か出来るなんて思えない。私達は美しいですし。あんな船で何かが出来るとも思えません」
その通りであった。
宇宙に上がって千年。誰かが地球に降下した等と言う話などは聞いた事が無い。
お互いに初の大気圏突入ともなれば、何かを仕掛ける余裕など無いはずだ。
少女はにこやかに笑むと、通信手に伝えた。
「皆に落ち着くように伝えて。深窓のお嬢様のようにお淑やかにふるまうのよ。もしあの船も無事に降りられるようなら、地球で会うこともあるでしょう。あちらの船のサイズではろくな戦力もないはず。こちらは新型の『DOLL』も積んでいます。ふふ、挨拶はその時にでも、たっぷりとしてあげましょう?」
そうして巨大宇宙船は熱で燃え尽きることなく、無事に成層圏に達した。
小型の宇宙船の姿は無い。
無事に降りられたのか、それとも……
「まぁ、良いわ」
少女は興味なさ気につぶやくと、通信回線を通して次の命令を飛ばした。
『各員、着陸後に付近の捜索を開始しなさい。私もDOLLで出ます』
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