雨音が僕等を殺す

咳屋キエル

序文



「お前を絵にしてみたい。ああいや、描きたいんだよ」


 細葉巻を揺らし、男は嗤う。


「好きにしろ。食って飲んで寝て死ぬだけの、クズでいいのなら描いてみろ」


 外套の胸元に着けた錆び付いた金具を弄りながら、男は嗤う。


「そうだな、……そうだ。絵の具を、買いに行こう」


 醜い傷を描く画材を選びに行こう、と男は細葉巻を吐き捨てた。


「好きにしろ」


 吐き捨てた吐息は、雨の音に紛れて消えた。

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