第5話

「たっ君なの?」

「悪い。誰の事だ?」

「……ごめん、何でもない」

その場を逃げるように立ち去った。


……その日の夜……

相川がたっ君かもしれない。

私に小説を書くことを教えてくれたたっ君がどこにいるのか。

たったそれだけが私を奮い立たせた。

私はたっ君のあの日の後のことを調べられるだけ調べ尽くした。

あの頃のたっ君が通っていた病院を探す為にいくつもの病院に電話した。

すると六軒目でようやく手がかりを見つけた。

「詳しくは教えられないですが、臓器の移植をした経歴がありますね」

「ありがとうございます」

そこからは手術後、住む場所をを転々としていたらしく遡っていく作業を続けた。


……二日後……

「……今、何時だろう?」

針は七時を指していたが、日付が変わってしまっていた。

あれから分かったことは大きく分けて二つあった。

一つは再びこの町に帰ってきていること。

もう一つは臓器の移植にはある事が起こる可能性があること。

この事から、おそらく相川と神楽 佑は同一人物である……表面上は。


……その日の放課後……

私は屋上にいた、するとやはり扉が開いた。

「……何で私がいるって分かったの?」

「嫌なことを全部流してくれるんだろ」

「おめでとう。今来なかったら、二度と屋上に近づかないようにと思っていたんだけどね」

冗談を言いながら私は覚悟を決めた。

「相川。いいや、相川 佑君君はやはりたっ君だよ」

「だからその人は知らないって…」

「それはあなたが知らないだけ、あなたは元々肺が弱っていて、ドナーを探していた。

そしてある日ついに見つかった。しかし臓器の移植によって解離性同一性障害が起こった」

解離性同一性障害。世間では多重人格と言われているものである。先天性以外にも、臓器の提供者の人格が移ることが稀にあるのだ。

「…………そうだったんだね」

「でも相川は相川。たっ君とは違う人」

「君はそれでいいの?」

いいわけがない。

「いいんだ。これで吹っ切れた」

「……だったら言わせてくれ。俺はお前のことが好きだ、付き合ってほしい」

答えは決まっていた。

「無理だよ。一度失った人に恋なんて出来ないよ」

頬を涙をつたった。

「……そっか……だよな……でも俺はいつまでもお前のこと好きだから」

私もだよ。

(いつまでもラブリの王子様でいてねタスク)


その週の土曜日に出たスタプリの最終巻は、いくつもの人の勇気を起こした。


fin

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