思い付いたら増えるトキパカ中心SS

M.A.F.

第1話「ジャパリカフェは雲の上」

トキはいつものとおり、ジャパリカフェの庭で歌の練習をしていました。

かばんから教わった呼吸の仕方を忘れず、

またアルパカの淹れてくれる喉に良いお茶を練習の前と後に飲んでいるおかげで、

トキの歌は初めてかばんやサーバルに出会ったときとはまるで違ったように上手になっていました。

ひととおり一日分の練習がすんだころに、カフェの扉が開いてアルパカが顔を出します。

「トキちぁん、お茶だよぉ」

「ありがとう、アルパカ」

トキはすぐにテーブルにつきました。もちろんアルパカもその向かいです。

ふうふうと冷ましながら、ゆっくりとお茶をすすります。

パーク中に届くかと思われるほどの大きな声を出して疲れた喉を、お茶の爽やかさと温かさが癒します。

一息ついて、トキはふとさっき思ったことを口にしました。

「アルパカ、あなたは私をちゃん付けで呼ぶわね」

「ん~?そうだねえ」

アルパカの訛り方では実際「ちぁん」のように聞こえます。

「私はあなたを呼び捨てしてしまっているわ。いつもお茶を淹れてくれているのにちょっと失礼じゃないかしら?」

「ええ?ぜ~んぜん?誰に呼び捨てされたって気にしたことないよ~」

アルパカは平然とそう言いました。

「あー、ワカイヤだけあたしのことスリって呼ぶね~」

「ワカイヤ?」

「あたしはアルパカ・スリでしょ~、アルパカ・ワカイヤって子がいるんだよ~」

「そうだったの」

トキは再びお茶をすすり始めましたが、しばらくしてまたこんなことを言い出しました。

「ねえ、ちょっとだけ呼び方を交換してみたらどうかしら」

「交換?」

「私がアルパカをちゃん付けで呼んで、アルパカが私を呼び捨てにするの」

「ホントに気にしなくていいのにぃ」

「いいからいいから。せーので言ってみるわよ」

お互いきちんと相手の顔を見て姿勢を整えました。

「せーの……」


「アルパカちゃん」「トキ」


アルパカはゆっくりと空を見上げました

もちろん、天気を気にしているのではありません。

雨雲はジャパリカフェよりも下にできます。

アルパカの真一文字に引き結んだ口はかすかに震えていました。


トキはカップに顔を伏せました。

そのまま、カップを持ち上げることはありません。

とっくに全て飲み干しています。

トキの耳はすぐそばの髪と大して変わらないくらい赤くなっていました。


「これは……、たまに、にしましょう」

「たまに、がいいよお」

ふたりとも、たった一度で心臓が持たないくらいになっていました。

ただ、それでも、この感じをまた味わってみたいとも思っていました。

次にこんな気持ちになるのは、相手に不意を突かれたときです。

ふたりともいつそうしてやろうかとぼんやり考えていました。

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