閑話 ―2― 前編

 自称・恋する乙女の彼女が言う。


「いやー、やっぱり、諦めた方が良いのかな、中島君のこと!」


 親友である柿本かきもとさきがそう言ったから、私はお弁当の卵焼きを飲み込んでから答えることにした。


「中島君? 咲ちゃん、この前、神橋君のことが好きとか言ってなかった?」

「ふっふっふ……情報が古いよ、クルミ!」


 言外に、それでも情報屋か、という皮肉が込められていた。いやいや、ちょっと待って欲しい。私が彼女が神橋君が好きだということを聞いたのは、確かつい昨日だったと思う。いくら私でも、そこまで情報更新は早くない。


「やっぱり中島君はカッコいいよー。あの知的な感じが堪んない!」

「はあ……」


 昨日は神橋君の筋肉質なところが良いって言っていたのに。まったく適当というか何というか……。

 柿本咲は私の親友である。中学以来の。

 ちょっと茶髪がかった髪の毛、女子にしては高い身長、あとスタイルも良い。バスケ部に所属している。

 性格は、良く言えばクラスのムードメーカー。悪く言えばお調子者。まあ、それも今に始まったわけではないけれど。

 しかしながら、周りの女の子たちのこういう、いわゆる恋話というのには、イマイチ共感できない。何でだろう?


「そりゃあ、アンタがまだ楠木先輩のことが好きだからでしょ」

「むぅ……」


 鋭い指摘に、私は唇を尖らせた。

 私がまだ真先輩が好き? そんなことはない……と思う。

 私はどちらかといえば合理主義だ。だから、真先輩が私のことを好きになってはくれないと悟った時、彼を想うことも諦めたはず……なのに。

 どうしてあの人を考えると、こんなに心が苦しいのだろう。

 はぁ。まったく。恋なんてものは面倒くさい。いや、この場合面倒くさいのは私自身かな?

 そんな思惑なんて他所に、咲ちゃんが続ける。


「それでさ、それでさ! 中島君の情報、何でも良いから……ううん。何でもかんでも教えてくれない!」


 やはり、そう来たか。何でもかんでもという言葉の使い方が正しいかどうかはともかく、私はこのお願いを一体何回聞いてきただろう。

 咲ちゃんは普通にしていれば結構可愛いと思うし、性格も悪くない(少なくとも私よりは断然良い)。だけど肝心なところで彼氏が欲しいという願望が見えすぎてしまって、失敗する。運の強さだったら、もしかしたら私たちは良い勝負かもしれない。もちろん、悪い方の運ではあるけれど。


「いい加減、その無差別に情報を知りたがる癖、何とかしなよ」

「えー。良いじゃん。ちゃんと料金は払ってるんだからさ」


 そういうわけにもいかない。やはり親友の恋は上手くいって欲しいし、そのためには私の情報は、むしろ邪魔をしているのではないかとさえ思える。咲ちゃんが暴走するのは、半分くらいは情報を与えた私の責任でもあるのだ。

 こんなこともあった。

 彼女が毎度のことながら気に入った男子ができ、その情報を私に求めた。私は“情報屋”としてその仕事を請け負い、その相手の住所とツイッターアカウント、連絡先を教えた。

 けれど、それがまずかった。

 相手のことをもっと知りたいと思った咲ちゃんは、私が教えた住所の元へ訪れたのだ。

 ……え? 可愛いものだって?

 いやいや、多分そんなもんじゃない。

 何せ一カ月以上、毎日欠かさず通い続けたのだから。

 要するに、ストーカーと化してしまったのだ。

 幸いというか不幸にもというか、その相手に彼女ができたことで咲ちゃんは諦めたのだが、もしかしたら通報されていたかもしれないと考えると、ゾッとしてしまう。

 私は時々忘れそうになるけれど、情報屋というのはそういう仕事なのだ。

 一つの情報が身を破滅させるかもしれない。当事者だけではなく、その周りにいる人間さえも。

 その事実を肝に銘じなければならないだろう。

 さて。


「まあ、そりゃあ、知ってはいるよ。中島君の情報は」

「え? 何々? 親友割引で格安で教えてくれるって?」

「そんなことは言ってない」


 それじゃあ、商売上がったりだし、彼女への戒めという意味でも、料金はきちんともらった方が良いだろう。


「じゃあ、二万ね」

「さらっとふっかけるよね……ていうか、前より料金上がってるし」


 前は一万だった。まあ、それでも他の顧客に比べればかなり高い方だろう。

 しかしながら、さっきも言ったように、彼女への戒めという意味も込めて、二万。高校生という身分を考えればかなり高い金額ではあるけれど、しかし犯罪一歩手前までいった彼女への請求としては、やはりまだ安い方だろう。


「まあ、分かったよ。払えば良いんでしょ、払えば」


 そう言って、咲ちゃんは渋々財布を取り出す。ああ、本当に出すんだ……。


「前から気になってたんだけどさー」


 諭吉さんを二枚、私に差し出しながら、彼女は続ける。財布の中に諭吉さんが二枚も入っているのは、少しおかしな話ではあるけれど、まあ、咲ちゃんのことだからあらかじめ多めに持ってきていたのかもしれない。


「クルミはそんなにお金を集めてどうすんの?」

「どうするも何も……」


 そもそも、私に情報を求める人間自体、そうそういないのだ。色んな人の相談を受け付け、解決するために情報を必要とする真先輩は例外とするにしても、その他の人間で私に情報を求めてくるのは、せいぜい月に一人か二人くらいだろう。それも、一万円を超える依頼をしてくるのは、咲ちゃんくらいだ。


「だから、まあ、そんなに稼いでいるわけじゃないんだよ」


 普通のアルバイトと同じくらいだ。何なら少し少ないくらいだろう。


「んー、でもさー。私って、クルミの私生活を意外と知らないなって。休みの日とか何してんの?」

「えっと……」


 言われて、回想する。だけど、意外と何も思い浮かばない。もしかしたら私は貴重な休日を無駄にしているのではないか、という疑念に襲われる。

 いやいや、ちょっと待て。私だって花の女子高生だ。買い物くらいは行くだろう。後は、そう、美味しいものを食べに行ったり、映画を観に行ったりもする。だけどやっぱり、家にいることが多いだろう。


「ふーん。じゃあさ、家では何やってんの?」

「家では普通だよ。宿題やったり、本を読んだり」

「ツイッターは?」

「……」


 咲ちゃんは、時々鋭いことを言う。

 言われるまでもなく、いや、言われて気付いたのだけれど、私はツイッターをやっている時間が長い。いや、ツイッターだけではない。SNS全般だ。

 気が付けば一日中スマートフォンを弄っている。

 このままではいけない、と思うこともあるけれど、何より楽しいし、それに奇妙な義務感も感じる。情報屋としてのさがかな。


「仕事熱心というか、救いようがないというか……」


 そう言って、彼女はやれやれと額に手をあてる。確かに私はSNS依存症かもしれないけれど、しかしそれを恋愛依存症であるところの咲ちゃんには言われたくないな。

 なんて言い返そうかと思っていたら、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。


「それじゃあ、情報よろしく!」


 咲ちゃんはそう言って、自分の席へと戻っていった。

 料金をもらった以上は仕方がない。中島君の情報は、後で咲ちゃんにメールか何かで伝えておこう。

 ……中島君、ごめんなさい。

 と、一応心の中で謝っておくことにする。




 その次の日のことだった。事件が起きたのは。

 咲ちゃんが学校を休んだ。病欠だと、担任の先生は言っていたけれど、私にはどうしても信じられない。昨日はあんなに元気そうだったのに。

 放課後を迎え、私は新聞部の部室へと向かった。別段やるべき仕事はなかったけれど、スマホを弄りたかったのだ。咲ちゃんの容態を確認するために。校内で迂闊にスマホを使って先生に見つかれば、没収されてしまうかもしれない。うちの高校には中学の升田みたいな適当な教師はいない。

 部室には私の他には誰もいなかった。まあ、それもよくあることだ。

 新聞部の主な活動は毎月発行される学校新聞の編集だ。部員は月の初めに部室に集まり、それぞれが担当する記事を決める。そして締め切りまでに各々で取材し、記事を書く。それを月末に持ち寄り新聞を完成させる、といった手順だ。そのため部室には月頭と月末以外にはほとんど部員が集まることはない。

 先生の見回りも滅多にないことだから、スマホを弄るにはうってつけだ。

 私は早速ツイッターを開く。柿本咲の名前を検索すると、三件のヒットがあった。その内の一つは中学の時の後輩の(と言っても直接の面識はないけれど)柿本かきもと咲月さつきさん。もう一つはこの学園のOGの(こちらも面識はない)柿本かきもと美咲みさきさん。そして三人目が、欠席した私の親友、柿本咲であった。

 フルネームで入力してもヒットが三件も出るというのは、多大な情報量の弊害でもあるけれど、しかし慣れてしまえばどうということはない。


「最終ツイートは、昨日の夜か……」


 現国の宿題内容を尋ねる、ごく普通の呟きと言えるだろう。その質問には五分後に彼女と同じバスケ部に所属している長谷部はせべ絵美えみという女子が答えていた。勿論、その回答も正確な情報だった。

 うーん。おかしい。

 咲ちゃんは陽気な女の子だ。いくら風邪を引いているとはいえ、「風邪引いちゃった☆」くらいは呟きそうである。そこまでひどい体調なのだろうか……。

 なんて考えていたら、左手の中のスマホが鳴った。と言ってもバイブレーションだけれど、一瞬、私の肩はびくりと跳ね上がる。

 着信は咲ちゃんからだった。


「もしもし、咲ちゃん?」

『クルミ……』


 今にも泣き出しそうな声だった。彼女との付き合いもいい加減長いのだから、電話超しでもそれくらいは分かる。私は事態の緊急性を直感した。


「どうしたの、咲ちゃん?」

『今から、そっち行ってもいい……?』

「そっちって? 今どこにいるの?」

『今、学校の前まで来てる。クルミ、どうせ部室にいるんでしょ? 相談に乗って!』


 やはり、声が少し震えている。これは直接話を聞いた方がよさそうだ。


「分かった。部室で待ってるね。大丈夫? 一人で来られる?」

『大丈夫。体調は、そんなに悪いわけじゃないから』

「そう……先生に見つからないようにね」

『クルミ心配しすぎだよ。……じゃあ、今から行くね』


 そう言って、電話は切られた。

 私は妙な脱力感を感じて、スマホを持つ手をがくりと落とす。

 何だろう。嫌な予感がする。

 ……いやいや、落ち着け。こういう時こそ冷静に、だ。真先輩ほどじゃないにせよ、私は冷静な性格のはずだ。まずは落ち着こう。きっと私が慌てても、事態は何ら好転しない。

 咲ちゃんは体調は大丈夫だと言っていた。それから相談があるとも。

 体調に何も問題がないのなら、学校を休んだのはおそらく精神的なことからだろう。相談があると言っていたから、まず間違いない。

 問題はその内容だ。

 ――人の悩み事っていうのは、その大多数を人間関係の悩みが占めているんだ。

 そう言っていたのは、確か真先輩だ。

 その通りだと思った。

 だって私自身がそうだから。楠木真という人間との関係に、一喜一憂していたのだから。恋愛だって、人間関係の一つだろう。

 だけど、咲ちゃんに限ってそれはない。

 彼女は確かに恋多き人だけれど、どんなことがあっても恋愛でへこたれることはないのだ。それこそ何十回、何百回フラれたとしても、ストーカー扱いされたとしても、彼女が諦めることはない。彼女が恋を諦めるのは、別の新たな恋が始まった時だけだ。

 しかしそれでは、彼女は一体何に悩んでいるのだろう?




 部室にやって来た咲ちゃんの話をまとめると、事態はそうややこしいことではなかった。解決は難しいけれど、しかしややこしくはない。そんな内容だ。少なくとも日頃、真先輩が受けている相談に比べれば、シンプルと言わざるを得ないだろう。

 ――部活仲間とのケンカ。

 それが咲ちゃんが抱えている悩み事だった。

 本人には申し訳ないけれどもっと深刻なことを相談されるのではないかと危惧していたから、少しだけ安心することができた。

 彼女の話によると、ケンカの原因はとあるSNSらしかった。

 そのSNSにはグループ機能があって、特定の人間が集まって同時にチャットをすることができる。そして咲ちゃんは所属するバスケ部のグループに入っていた。

 メンバーは彼女を含めて七人。全員が二年生の女子だ。

 そして昨晩そのグループで、事件が起こった。

 咲ちゃんがチャットの内容を見ようとそのSNSを開くと、グループから退会させられてしまっていたのだ。まあ、そんな感じの手違いはよくあることだから、すぐにまたグループに入れてもらえるよう、他のメンバーに訴えたらしい。そしてそのメンバーは快くそれを受諾。咲ちゃんは無事にグループに戻ることになった。

 ここまでなら本当によくある話であるのだが、問題はその行動の理由……つまり、どうして咲ちゃんがグループを退会させられていたのか、ということだ。


「別にさ、間違ったんならそれでも良いんだよ。正直に言ってくれればさ。私も文句は言わないよ? けど、何かさ、誤魔化すようにしてるしさ」


 そう言って、咲ちゃんは肩を震わせる。

 誤魔化すようにした、と彼女は言った。

 きっとこんな感じだろう。

 ――グループに戻してくれてありがとー! ところでさ、さっきの何で退会させられてたの?

 ――いやいや、気にしないで。何でもないから。

 ――ふーん。間違っただけ?

 ――え? ああ、そう。そうだよ。ごめんね。

 ――別に良いけどさ……何かあるならちゃんと話してね?

 ――ああ、うん、分かった。ちゃんと話すよー。

 ――本当に?

 ――だからそうするって言ってんじゃん。何? 疑ってんの?


 実際にはもっと色々な言葉が飛び交っていたのだろうけれど、大筋はこんなものだろう。


「もうそれで大喧嘩だよ! あんまりだから今日は学校休んじゃった」

「大変だったね」

「うん。超大変だった!」

「にしても……」

「ん?」

「そのグループの人たちは、どうして咲ちゃんを退会させちゃったんだろうね」

「さあ? 私のことが、気に入らなかったんじゃないの!」


 うーん。かなり頭にきているようだ。

 仮に咲ちゃんの言う通り、彼女のことが気に入らなくて退会させたのだとしたら、どうして再びグループに入れたのだろう? 


「ねえ、咲ちゃん。他のバスケ部員に気に入られていないって言ってたけど、何か心当たりはあるの? 部活で何か嫌がらせを受けたとか」

「え? うーん。特に思い当たらないけれど……でも、それくらいしか考えられないじゃない」


 まあ、確かにそうだ。他人をグループから退会させる理由に、「気に入らないから」以外は私も思い付かない。

 けれど、何かが気になる。引っかかっている。

 ……きっと真先輩なら、あっという間に真相に辿り着いちゃうんだろうな。

 でも、私は真先輩じゃないし、名探偵でもない。私は“情報屋”だ。推理を飛躍させることはできないけれど、情報を一つずつ積み重ねていくことはできる。

 きっと真先輩だったらこの手の話しを面倒がるだろうし、私だって普段なら関わりたくないことだけれど、しかし柿本咲に関しては違う。彼女は私の親友だ。そしてその親友が今にも泣き出しそうなくらいに憤慨し、悲しんでいるのだ。ならば、私が手を貸さない理由は、どこにもないだろう。


「分かった。ちょっと調べてみる」


 私はそう言って、自分のスマートフォンを取り出した。

 確か、バスケ部でリストにしていたはずだ。

 そのリストはすぐに見つかった。作ったのが結構前だったから、時間がかかるかと思ったけど、そんなことはなかった。どうやら私の記憶力もまだまだ大丈夫らしい。

 さて。

 私はリスト内の人間のツイッタープロフィールを出す。

 しかしざっと目を通した結果、その行動は無意味だということが分かった。

 バスケ部の面々は昨日から今日にかけて、何一つツイートをしてはいなかったのだ。

 もちろん、いわゆる“鍵アカウント”を使っているという可能性はあるけれど、全員が何の呟きをしていないのはおかしい。いや、全くあり得ないというわけではないけれど、でもまあ、とにかく何のヒントも得られそうになかった。

 一応、二、三日前のツイートも確認してみたけれど、やはり何の成果も得られなかった。

 では、一体どうして咲ちゃんはグループを退会させられたのだろう?

 当然、そのヒントが全てSNS上に公開されているというわけではないけれど、何の兆候も得られないというのも何だかおかしな話である。何となく、情報屋としての勘がそう告げている。


「どう? 何か分かりそう?」

「うーん。ごめん。ちょっと分かんないかな」

「そっか……」


 咲ちゃんががっくりと肩を落とす。

 何とかしてあげたい。けど、私には情報を集めることしかできないし、そしてその情報は見つからない。存在していないのかもしれない。

 仕方がない。あまり気は進まないけれど、最後の手段をとるしかなさそうだ。


「よしっ!」


 勢いよく立ち上がった私に驚いた咲ちゃんが、びくりと肩を震わせる。


「え、何?」

「文芸部に行こう!」

「文芸部?」

「そこに真先輩がいるから、助けてもらおう!」


 きっと退屈そうに本を読んでいるに違いない。もしかしたら猫屋敷先輩の幽霊と話しているのかもしれないけれど、幽霊の事情なんて知ったことじゃない。もし真先輩が協力を渋るのであれば、彼は私に借りがあるという事実を叩き付けるだけだ。

 咲ちゃんがゆっくりと立ち上がりながら言う。


「いや、でもさ、うーん。大丈夫なの?」

「大丈夫って何が?」

「いやさ、別にアンタの初恋の人をどうこう言うつもりはないけど」

「別に初恋じゃない!」

「はいはい……初恋の人をどうこう言うつもりはないけどさ、正直、楠木先輩って中学の頃の評判は最悪だったじゃん」

「それは……」


 そうかもしれないけれど。

 確かに中学時代の――とりわけ猫屋敷先輩が亡くなってからの楠木真という人間は、近づく人間全てを傷つけるような存在だった。意図せず、しかし必然的に傷を負わせていった。その被害者には私も含まれている。

 いや、被害者などと言うのは筋違いかもしれない。

 私は初め、彼に救われたのだから。

 そして彼に勝手に期待し、裏切られた。

 だから一概に彼が悪いとも言い切れないのだろう。

 けれど実際、他人を傷つけていたのだから、彼の悪評は仕方のないことなのだろう。でも、今の真先輩は違う。野々宮先輩によって更正した。いや、あるべき姿に戻ったと言った方が良いかな? とにかく私が何を言おうとしているかというと、


「真先輩はそんなに悪い人じゃないよ。少なくとも今はね。普通に頼れる先輩だよ」


 私にとって、彼はヒーローだった。時にはダークヒーローだったけれど。

 だけど今は違う。普通のどこにでもいる先輩だ。頼れる自慢の先輩だ。そりゃあ、私だって皮肉の一つくらいは言うけれど、それくらいは可愛い後輩のイタズラだとでも思って見逃して欲しい。

 私は咲ちゃんに向かって続ける。


「まあ、うん。咲ちゃんが心配する気持ちも分かるけれど、今の真先輩は大丈夫だよ。だからさ、話してみない? きっと力になってもらえると思うよ」

「そっか……うん。分かった。じゃあ、話してみよっかな。クルミも一緒に来てくれる?」

「うん!」


 そして私たちは、真先輩が待っているであろう文芸部室に足を運ぶことにしたのだった。

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