銀の悪魔

@slapkazu

第1話 プロローグ

人の上半身ほどの大きさをした筐体の前面はガラス張り、

その中には派手な液晶画面を中心に、それを囲むように無数の釘が

打ち込まれており、中心にある液晶画面から1尺ほど下に穴がある。


この機械の持ち主に1玉4円で小さい銀の玉を借りることで遊ぶ事ができ、

最低レンタル費用は500円から。およそ125個の玉を機械の右下についている

ハンドルを回すことで中心液晶上部に打ち出すことで張り巡らされた釘の目を抜け

液晶下にある「穴」への入賞を目指すのだ。


その穴に玉が入る事でくじの抽選が行われ数百分の一の確率で当選する。

しかし、当選しただけでは多くの出玉を獲得する事はできない、

当選と同時に「確率変動」という特殊なモードへの抽選も行われており

この移行する確率は機械により様々用意されている。

100%確率変動モードへ移行するものもあれば、50%しか移行しないものもある。

このリスクの大小により、その後のリターンにも影響するように作られている。


これすなわち、パチンコである。


知らない人、知っている人、誰がどう見ても『ギャンブル』であるこのパチンコは

日本国内においては「遊戯機」、つまりゲームセンターと同じ位置にカテゴライズされている。

もちろんゲームセンターなら換金は出来ないわけだが、3点方式という法の目をかいくぐるだけの強引な手法で打ち手の換金を実現しているのだ。

国内におけるパチンコ人口はおよそ1000万人、全盛期の3000万人に比べると大幅に減少しているものの、成人以下は利用できないため成人人口1億人の内10人に1人がパチンコユーザーと言われている一方、アンケート時に利用をひた隠す人も多く存在しているとの声もあり、実際の利用人口は1000万人以上とも言われている。




「パパ~、テント届いてるで!」

「パーパ、テント、きた!」

仕事から帰宅した私に走って駆け寄る5歳と2歳の息子達。


「おお、やっと届いたんか、これで盆休みはキャンプいけるな」

「キャンプ!キャンプ!めっちゃ楽しみ!」


私はネクタイも脱がずにはしゃぐ息子達とリビングでテントを広げる。

「おかえりなさい、送料込みって言ってなかったけ?なんか着払いで届いてんけど」

妻の美香がふくれっ面で私の夕食の用意をしていた。

「あれ?そうなん?一回業者に確認してみるわ」

適当に返事をしてまだ開く前のテントに潜り込む息子達を抱えるとケラケラケラと私の体によじ登って遊びだす。

「ほんまにちゃんと確認してや、敏君いっつもせえへんからな」

「わかったって、ちゃんとしとくから、さあ、おまえら風呂入るぞ~」

二人の息子を抱えて立ち上がった。



私の名前は小野敏伸(おのとしのぶ)。

妻と息子2人の4人家族。広告関係の会社に勤めるいたって平凡な38歳である。

大阪生まれ、大阪育ちだが大学を卒業し就職の関係で上京、2人目の息子が生まれた年に大阪支社への異動が決まり帰阪と同時にマイホームを購入。

住宅ローンという「大人の責任」を抱えはしたが日々幸せな毎日を過ごしている。

妻の美香は高校時代から付き合っていて私の上京に合わせて妻も上京、しかし

東京では一度も同棲する事なく交際を続け30代前半で自然の流れで結婚、

まあ、私がプロポーズできずにいるところ、半ば強引に妻が話を進めて成就したという男としては何とも情けない結婚となってしまったのが今も悔やまれる事だ。


8月上旬、家族が出来てからこの時期になると毎年連休に向けて旅行の準備で忙しくなり、一年で最も家族が盛り上がる特別な期間となるが、同時に必ず思い出す、

「あの事件」の事。


旅行支度の合間にマイホーム購入のきっかけとなった自慢の庭でタバコに火をつけて休憩しながら星を眺めていると、妻が麦茶を持ってきてくれた。

「また加藤君の思い出してるの?」

「まあ、、ね、。この時期なると必ず思い出すわな、、」

「そうやね、敏君一番仲良しやったから、、」

そう言いながら妻は部屋に戻り私を一人にしてくれた。



加藤たくみ

中学時代から同級生で私の親友である。

15年前、

彼は自殺した。





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