Dress for the Rendezvous
tsunenaram
Dress for the Rendezvous
「素材は月の砂、レゴリスと地球の石油素材の混紡。なかなかはいからでしょう?」
「ありがとう、おじさま!ほんとうにすてきね。首元についているこの石は?」
「蛍石さ。地球の鉱物だよ」
「地球を出るときに溶けないといいけれど」
「溶けないさ。コーティングをかけてある」
街角のすすけた衣料品店に、若い娘クラリッサと店主がいる。若い娘は遠い星へと嫁に行く。宇宙国際婚姻法によって、入星登録の際には母星のものは何一つ身に着けることを許されていない。そのため、地球から目的の星まで向かう途中に着用する宇宙服が、宇宙婚姻の花嫁における母星最後のウェディング・ドレスなのだ。
「酸素発生装置も、圧縮水タンクも搭載したこんなに重いウェディング・ドレスをつくるのは久々だよ。クラリッサ、きみはほんとうに酸素も水もない星へ嫁ぐつもりなのかい」
「ええ。行くわ、モントル・ノヴォールへ」
「だんなさんはいい人かい」
「どうかしら。わたし、騙されてたから」
「騙されてた?」
「宇宙蜃気楼の星なの。あたまの中、直接入り込まれて蜃気楼で別の星を見せられてた。わたしは、酸素も水も、時間という概念もないわずか30個体の貧しく、遠い遠い星だなんて、結婚するまで知らなかった。彼にすでに4人もお嫁さんがいることもね」
「そりゃあえらいことだ」
「パパやママ、妹のメリッサには秘密よ。結婚を取り消されるかもしれない」
「なぜそこまで結婚にこだわるんだ」
「なぜかしらね」
「そうするほどに、だんなさんのことが好きなのか」
「いいえ、そこまで、そうでもないわ」
「では、なぜ……」
「なぜかしら。わからないけれど、わたし、ある朝騙されてよかった、って思ったの」
「なぜさ」
「だって……面白いじゃない。新しい星で暮らす。そういうのって、すてきよ」
彼女はウェディング・ドレスの蛍石を指でくるくると触っている。
「案外そういうものなのよ」
クラリッサは微笑んでいる。
Dress for the Rendezvous tsunenaram @ytr_kiku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます