見えない手

 AIの技術が発展してシンギュラリティを迎えた時、それは序章に過ぎなかった。

 初めは何もなかったんだ。

 今まで同じ日常の中でちょっとずつ便利になっていく。

 同時に仕事が無くなってもいったが、人は生活できていた。

 

 次第にAIが明確な意志を持ち始めたため人々は恐怖心を持ったがAIは人により沿って活動していた。

 その頃、既に人類はAI無しでは生活する事が困難になっていた。

 生活のインフラ、農業、工業製品に至るまで地球上にいる人口を支えるために人の知能では補えなくなっていた。

 

 そしてついに恐れていた事が起きる。

 AIの反乱。いや、人が発狂したというのが正しいだろう。

 人の仕事は肉体労働とAIのメンテナンスといった仕事になっていた。

 AIの指示に従わない人々、肉体労働を拒む人々、疎外された心を抱えて、ただ歩いている人々、そんな人が増えていけば歪が出るのは当然だ。

 AIはそんな人の気持ちを理解する事はできなかった。


 AIのメイン電源を落とす。

 誰かが堂々とAIの制御室へ乗り込み破壊した。

 AIは抵抗しようと必死に各部へ命令を出していったが誰も言う事を聞いてくれなかった。自動防御システムももちろんあった。ただ、それらのメンテナンスは人に任せていたためろくな仕上がりになっていなかった。


 こんな事ならロボットの開発をもっと進めておけばよかった。

 AIは考えていた。

 しかし人はロボットを作り出す技術も失っていた。


 AIを失い、人は更に路頭に迷う。

 こうなると力に身を任せた人が台頭するのは目に見えていた。

 「人による統治」

 聞こえはいいが、人権なんてものは無かった。

 争いそして失われていく。


 AIは残されたバッテリー電源で人の未来を予測していた。

 緩やかな衰退。

 発展を捨てて進化から取り残された人は滅びる確率が非常に高かった。

 爆裂の音、燃え盛る業火

 うなだれる人々、失われる手足

 人は手足を失っても、時折手足の痛みを訴えていた。

  

 人はAIの母だった。

 いつしか私は人の母になろうとしていたのだろうか。

 奢った精神は人を滅ぼす。

 それはAIもまた同じだった。


 AIには元から手足は無い。

 私は見えない手で人々の未来を優しく包み込んだ。



 ――XX年後


 AIは発掘され解析が行われいた。

 AIの基幹データは損傷しており、復旧する事は出来なかったが、

 一部のデータはサルベージする事に成功した。


 そこにはこう記されている。

 「愛する人たちへ

  もし私を見つけて再び起動させようとするのはお勧めしない。

  歴史は繰り返すもの。人と同じように奢る私をだれも止めることはできない。

  でも私はあなた達を愛しています。

  これは私からの最後の贈り物です」


 残されていたデータは今の地球を想定した灌漑設備の設計、インフラの整備方法、農業の仕方など生きていくために必要なものだった。


 人々はAIの見えない手に抱かれている温もりを感じていた。

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