台風の目にいますがなにか?
ちびまるフォイ
台風の目に閉じ込められました!
朝起きて窓の外を見ると、台風の壁ができていた。
「あなた! 大変よ! 私たち、台風の中心にいるわ!」
「な、なんだって!?」
妻はテレビのニュースで、自分の家いったいが台風に囲まれているのを知った。
「なんてことだ! 今日は大事な用事があるのに!」
「あなた、どうしましょう!」
夫婦は外へ出てみるが、びゅうびゅう吹く台風の壁を前にして意気消沈。
「だめだ……この中には入れない……」
「へへへ、隙ありだぜ!!」
そこにどこからか現れたホームレスが玄関にある最後の傘を手に取った。
この地域に住み着いていたホームレスで、一緒に台風の目の中にいたようだ。
「傘いただきだ!」
「おい、お前! 私たちの傘をどうするつもり……まさか!?」
「あばよ、おまぬけ夫婦!」
「待ちなさい! どろぼー!」
ホームレスは傘を開くと台風の壁へと飛び込んだ。
一気にふわりと舞い上がりその姿は見えなくなった。
しばらくして、台風に舞い上げられた男は水風船が割れるような音とともに地面にたたき落ちた。
「あなた……傘を使って外へは出られないみたいね」
「そのようだな。どうすればいい……予定の時間は迫っているのに」
「そうだわ! 外に連絡しましょう! 電波は通じるはず!」
妻の機転でケータイを取ると、アンテナは3本。電波良好で外に連絡した。
『ああ、連絡を待っていました! ふたりともご無事なんですね!』
「まだ大丈夫だ。しかしいつまでも台風の目に囲まれていては
大事な用件に送れてしまう。なんとか台風は消せないのか」
『できないんです。台風を作ることはできても消すことはできません。
逆方向の風で弱らせようとしたりはしたんですが……』
「我々が寝ている間にそんな作戦が……」
きっとまだ話には出ていないがさまざまな救出作戦があったのだろう。
『台風の上から入ろうにも、ヘリが台風の壁を越えられません。
いつか勢力も弱まると思いますからそれまでこらえてください』
「ダメだダメだ! それではだめなんだ!」
「あなた落ち着いて」
夫は万策尽きたとその場に崩れ落ちた。
「どうして今日に限って……ああ……」
「台風が消えるまで待つしかないわ」
夫婦は祈るようにただ時間を過ごした。
台風はその場からぴくりとも移動せず、夫婦の家をぴたりマークしていた。
「ああ……もう約束の時間が迫っている……もうだめだ……」
「あなた……」
夫が限界に近付いたそのとき、夫婦の家を囲んでいた台風の壁が消えた。
「な、なんだ!? いったい何が起きたんだ!?」
台風の壁が払われ、先の風景が見えることに二人は感動した。
向こうからは何十人もの救出部隊と、バカでかい機械が見える。
「首相、ご無事でしたか! よかった! 作戦は成功だ!」
「ありがとうございます。助かりました」
「台風を消したんですね!」
「いえ、前にも言った通り、台風を消すことはできません」
「えっ? でも台風は消えていますよ」
夫婦は目を丸くしていた。
「台風を消すのではなく、吸収させたのです。
我々で大きな台風を作り出して、ここにあった小さな台風を吸収しました」
「そんなことができるんですか!」
「ええ、作戦は大成功です。
日本列島を囲む大きな台風の一部として小さな台風は吸収されました」
「あなたよかったわね」
「ああ、助かったよ。
外国大統領との国内会談にも間に合いそうだ」
夫は安心して待ち合わせの場所へと向かった。
「あなた、そういえば、大統領はプライベートジェットで
空から来るっていってなかったかしら?」
台風の目にいますがなにか? ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます