第146話『『GAMAN』と言われる精神』
「そ、そんな……あいつら、オレにメロメロになってたんじゃなかったのかよ……ッ!」
地面に拳を叩きつけながら悔しがるリク。
ショックを受ける部分、メロメロとかなんだ……。
見捨てるような人間だったことじゃないんだ……。
「もう駄目だぁ……。パーティメンバーにも見捨てられて、オレは一人で死ぬんだぁ……」
今度はネガティブな発言を始めて、鼻水と涙をドバドバ流しだす。
調子扱いていたところから急転直下である。
「リク様! 何を仰いますか! 諦めないで下さい!」
タチアナがリクに声を掛けた。
寄り添い、瓶に詰めていたらしい聖水をリクに振りかけて応急処置をする。
「ぐすっ……タチアナ……お前は逃げないの……?」
「リク様を置いて行くわけないでしょう! 私はニップル姉妹とは違います!」
ニップル姉妹ってのは、あの魔道士とシスターのことか?
あの二人って姉妹だったんだね。
「いつもオレに小言ばかり言ってたのに……」
「それはリク様が不適切な行いをするからです」
「オレのことが嫌いだったんじゃ……」
「そんなわけないじゃないですか!」
「部屋に誘っても全然来なかったし……」
「…………」
ぼそっと呟いたリクの発言で微妙な空気になったのが遠目でもわかった。
「確かに複数の女性と関係を持とうするリク様の性質には思うところがあります」
「…………」
「しかし、ゴルディオン卿の厳しい訓練を耐えて強くなり、勇者としての役割を一生懸命に果たそうとするリク様のことを嫌いになれるはずがないじゃないですか」
「別に……魔王を倒さないと帰れないし……」
「それでも、普通はなかなか割り切ることができないと思いますよ? 責任感がなければできない振る舞いだと思います。私は、そんなリク様のことをとても好ましく思います」
「オレに責任感がある……!? そんなこと初めて言われたぞ……」
リクが目を丸くして驚いていた。
日本人は我慢を美徳とする民族で、海外から『GAMAN』と言われる精神を幼い頃から教育として刷り込まれている。
そういうベースがあるから、ひょっとしたらリクみたいな人間でも異世界人の基準では実直な部類に入ってしまうのかもしれない。
タチアナの目が曇っている可能性もなくはないけど。
「タチアナ……オ、オレは……弱かった……幹部に全然勝てなかったよ……!」
「そうですね……でも、とても頑張っていました」
「そ、そうかな?」
「勝てなかったら、また鍛え直して一から始めればいいんですよ。だから、一緒に生きて戻りましょう?」
「タチアナ……」
「私は最後までお供しますから――」
頬を染めながら、優しげにリクの頭を撫でるタチアナ。
何も知らなければ、美少女が泣き崩れるイケメンを慰めている構図に見える。
だが、タチアナは男だ……。
「タ、タチアナアァァァァァァァァァアアァッ――!!!!」
リクはタチアナにしがみつき、恥も外聞も殴り捨てて号泣し始めた。
お、おおう……。
なんだよ、あの妙なロマンスっぽい絵図は……。
俺は何を見せられてるんだ?
「ヒロオカ卿……! ワシはこれ以上は見ていられませぬッ!」
ゴルディオンが剣を強く握り締めてモゾモゾしていた。
どういう意味で見ていられないの?
まあ、普通にリクのピンチを見過ごせない的な意味だろうけど。
俺は違う意味で見ていられないわ。
「いいよ、ヤバそうだし、そろそろ助けに行ってやろうぜ」
「うおおおおおおっ! リク殿ォオォオオォオォオォオ! 今、助けに行きますぞーッ!」
めっちゃデカい声を上げながらゴルディオンは駆け出していった。
隣にいて、耳がキーンってなるレベルだから大きすぎだよ……。
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