第126話『記憶能力にムラが出始めるお年頃なのか?』
◇◇◇◇◇
おいっすー。
朝です。
ジャードが呼んでいると言われて起きたら裏庭にたくさんの猫がいました。
なんか捕まえた獲物を俺に運んできてくれたみたいです。
うおおおっ……! 猫たちが俺のためにプレゼントを……!
感激! ヤバいですね!
しかし、喜ぶだけで終われないのが残念なところ。
第一発見者のジャード曰く、猫たちが捕まえた獲物たちは自分たちをハルン公国の騎士と名乗っているとかなんとか。
いや、騎士が猫に捕まってるってどういう状況なの……。
拘束されて歩いているやつの一人が何か騒いでいる。
「おい、僕はフルティエット家の次男だぞ! こんな扱いが許されると思っているのか!」
あれ? あの鼻のでかい金髪は見覚えがあるな……。
勇者パーティ候補の一人だった、名前は――アルトバイエルン?
公国の騎士になってたんだね……いや、待て、なんか違う。
同じような意味ではあるが、名前の文字列が激しく乖離してるような?
こう、もっとフラフラって感じの名前だったはずだ。
この前はちゃんとフルネームを言えた気がしたんだが……。
もしかして記憶能力にムラが出始めるお年頃なのか?
マジで? 俺、まだ二十代なのに……。
ちょっとヘコむ。
「おーしおし、いいこいいこ~えらかったゾ~ありがとな~!」
状況はわからんままだが。
とりあえず俺は猫たちを褒めることを優先した。
それが一番大事。
猫の気持ちよさそうなポイントを撫でてマッサージする。
『なぉん!』
『なぁーん!』
『なぅん!』
「うしうしぃ~」
一通り褒め称えると、猫たちは満足した様子でのっしのっしと帰って行った。
「またなー」
俺は手を振って猫たちを見送った。
「で、あいつらなんなん?」
再度問題に向き合う俺。
牢屋に連行されていった輩どものことをジャードに訊ねる。
知らないうちに領地に侵入して、気がついたら猫に捕まっていて……。
彼らは一体何をしたかったんだ?
煽りとかではなく、純粋に意味がわからないんだが……。
「俺、あいつらに恨まれるようなことしたのかなぁ。武装した騎士が事前に連絡なく侵入してくるって相当だよな?」
「裏付けはまだですが、彼らは王命で任務を遂行しにきたと言っていますね」
「王命ってことはハルンケア8世か? なんでウチの領地に兵を送り込んできたんだ? もしかして、俺たちのやろうとしていることがバレたってこと?」
「我々の企みが漏れているのなら、エアルドレッド辺境伯にも同様に刺客が差し向けられているはずですが」
エレンの父親であるブラッド氏には他の貴族たちをこちら側につけるための根回しをやってもらっている。
理由がそうなら狙われる可能性はめっちゃある。
「それはまずいな……。ちょっと確認してくるわ」
シュンッ。
転移でウレアに移動。
俺はエアルドレッド邸に赴いて確認しに行った。
「大丈夫みたい」
「そうですか……ならば、理由は別にあるのかもしれません」
別っていってもなぁ。
表向きでは俺、ハルンケア8世に敵対の意思を示してないんだぞ?
武装した野郎どもを送り込まれる筋合いなんかねえンだわ。
「ニコルコが発展したから妬まれたのかねぇ……」
資源も何も取れない危険な森に囲まれた僻地だったのに、多くの国と道を繋げて魔境からいろいろ発掘できるようにしたからな。
魅力的になったニコルコが惜しくなって奪い返しに来たのかもしれん。
「叛意を悟られていないのなら、領地の発展が原因である可能性は十分にありえますね。制圧が目的にしては派遣された戦力が少ないような気もしますが……」
「ハルンケア8世は自分の指示だったって認めるかな?」
「十中八九、認めないと思います」
「だよなぁ」
何の理由もなく武装した部隊を差し向けてくるのはさすがに王族でもやばいし。
罪に問われてしょっ引かれるからやばいのではなく、公国中の貴族から不信感を抱かれるからやばいって意味だけど。
やれやれ、どっちにしろ面倒なことになったもんだ。
俺たちがこれからの対応に頭を悩ませていると、
『じろー!』
バッサバッサ。
ブラックドラゴンが空から舞い降りてきた。
ドラゴンの手には鎧を着たボロボロの騎士たちが十数人ほど載せられていた。
侵入者、他にもおったんかーい!
なに? こいつも俺にプレゼントしに来たの?
トカゲにもそういう習性あるんですか?
『森でくたくたになってたお客さんたち連れてきてあげたよー!」
…………。
いや、客とか言ってるし。
なんか勘違いしてるっぽい。
『ふふん!』
「…………」
ブラックドラゴンはどこか褒めて欲しそうにしていた。
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