第113話『しょーもない相談』
翌朝、ネイバーフッド伯爵は馬車に乗って帰っていった。味方になったネイバーフッド伯爵は近隣の領主たちとの顔繋ぎ役をしてくれると約束してくれた。
領地もまあまあ形になってきたし、そろそろ社交にも力を入れなければと思っていたから非常にありがたいことである。
そのうち周辺の貴族を招いて大規模なパーティを開いてみるのもいいかもしれない。
体制をひっくり返すなら、その時にこちらについてくれる存在を増やさないといけないし。
人脈作りは大事だぜオウイェー!
てか、そういうことになるならあれだな?
後回しにしてたけど、俺が住んでいる屋敷も建て直したほうがいいよね?
領主邸って水回りとかはリフォームで部分的に新しくしてるけど、外観は当初と変わらぬレトロな雰囲気のままだし。
家のグレードで侮られて、変に舐めた態度を取ってくる輩が出てきても困る。
屋敷の新築を優先事項に加えておこう。
◇◇◇◇◇
ネイバーフッド伯爵が来訪して改めて実感したことがある。
それはニコルコの発展具合を知っているのは一部の情報通のみであるということ。
大多数の人間にはまだ正確な情報が行き届いていないのだ。
隣の領地のネイバーフッド伯爵ですらニコルコの状態を正しく把握していなかったし。
ネットがない社会の情報伝達じゃ、まあこんなもんなのかもしれんが……。
そろそろ大々的に広告するターンに入ってもいいだろう。
俺は領地の宣伝にはご当地アイドルみたいなのを起用して盛り上げていくのがいいんじゃないかって思ってるんだけど。
どうだろうか?
まあ、近いうちに候補を募ってみる予定だ。
「相談があるのですが」
そう言って俺を訊ねてきたのは元・大聖国の聖騎士、ダスク・ヴィバーチェだった。
本人としては元ではないのかもしれないが。
俺にとってはどっちでもいいことだ。
「相談ってなんだよ」
正直、こいつらとはもう関わりたくないんだよな……。
こいつの主人である緑髪の聖女と関わった件は普通に面倒臭いだけだった。
調子扱いた態度取って給料に10億請求してきた挙句、泣き出して冒険者ギルドを飛び出してそれっきり。
ちょっとだけ気まずい雰囲気の冒険者ギルドに残された俺は心労で夕飯のブロッコリーを残してしまった。
「実はスチ……」
「スチルを雇う話なら知らんぞ。何かあるなら本人が直接来い」
一応、あいつ貴族に仕えるって話を途中でほっぽり出した無礼者である。
聖女の身分を明かしてない以上、常識では平身低頭して謝りにこなきゃならんはずだ。
聖女だったとしても普通に人として礼を欠いた行為だが。
そこんところわかってるのか?
わかってないのでダスクさんは話を続けるようです。
「そんなこと言わないでほしいのです。傷心したスチル様はあれから家で常にゴロゴロするだけの存在になってしまったのですよ?」
だから、どうして君は身分を隠した状態でそんなしょーもない相談をしてくるんだい?
引きこもりの話はそういう支援団体に……。
ああ、こっちにはそんなもんないか。
というか、家でゴロゴロ……前もそうだって言ってなかった?
いや、あれはスチルが言われたって俺に話してきたんだったか。
「以前は家にいても日に三度の礼拝は欠かさず行っていたのです。しかし、冒険者ギルドを飛び出したあの日以降、スチル様は礼拝すらしなくなり、教徒としての義務をすべて放棄している有り様で……。このままではスチル様はダメ人間になってしまうのです!」
「…………」
俺はこっそりステータスを見てお前らの素性を知っているから相手してやってるが。
普通の領主なら叩き出している内容だぞ?
いや、そもそも面会すらしないかな……。
「なあ、お前も振り回されて散々だろ? あいつはワガママだし偉そうだし。どうしようもないならさっさと見捨てて一人で国に帰ったらどうだ?」
お前にも家族がいるだろう?
「ち、違うのです! 本来のスチル様は貞淑で繊細で心優しく誰にでも気配りができて、規律を重んじる立派な人なのです! スチル様がああなったのは、あの女のせいで――」
「あの女?」
俺が訊くと、ダスクはクワッと目を見開いた。
「そうです! 詳しい経緯は言えませんが、とある事情で遠方から召か……招待した女が好き勝手やって、スチル様を貶めて居場所を奪ったのです! あのちょっと回復魔法が得意なだけで信仰心の欠片もない下品な売女が……!」
「…………」
あのビッチ女子高生、めちゃくちゃ嫌われてるんですね。
ダスクがスチル寄りの立場だからそういう評価をしてるだけならいいけど。
「あの女はスチル様が守ってきた教会の規律を古臭いだの理にかなってないなどと抜かし、信徒たちに堕落を促した挙句、スチル様を侮る発言を吹聴してスチル様が周囲に軽んじられるよう仕向けて……」
「…………」
「そういう、あの女による度重なる嫌がらせでスチル様は心を病まれ、今のような見るに堪えない姿になってしまわれたのです!」
「そうなんだ……」
いや、そうなんだとしか言いようがない。
ビッチ女子高生もやりたい放題やっててやばそうだが。
でも、スチルのほうも素はアレで、それまでが猫被ってただけじゃない? って思う。
貞淑で繊細な子なら、ああはならず塞ぎ込んじゃうんじゃない?
あいつはやってられるかーいって我慢をやめただけに見えるけど……。
「お願いですぅ……! この見知らぬ土地で他に頼れる人などいないのです……。どうかスチル様に職を与えてください!」
「…………」
なんでお前の家の引きこもり問題を俺が解決せにゃならんのじゃ! ……と思ったが。
ここで恩を売っておけばスチルが復権したときにいくらか大聖国への貸しになるかもしれん。
俺自身が回収できる貸しになるかはわからんけど。
ビッチ女子高生も魔王を討伐すればいずれこの世界からいなくなる。
そうすれば大聖国は再びスチルを必要とするはず。
俺の帰還後に効いてくる貸しになったとしても、それはそれでニコルコにいい置き土産を残せたことになるのでまあいいだろう。
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