第105話『な、ななな……!』
「えーと、こちらが町のメインストリートになっていまーす!」
俺はネイバーフッド伯爵を案内しながら改めて町の様子を見渡す。
ニコルコも俺が初めて来たときと比べるとだいぶ変わったよなぁ……。
木造の家が乱雑に建っていた町並みは区画整理されてスタイリッシュな石造りの家が並ぶ住宅街となり、外からの来訪者の増加で人の往来も多くなっている。
まあ、まだ開発の進んでない区画も残ってるし完全な都会とはいえないけど。
賑やかさは以前と段違い。
中心部分に関してはザ・田舎の村だった頃の面影はすっかり失せていた。
「領民が身綺麗すぎる……」
町の景色を見ていたネイバーフッド伯爵が第一声を発する。
ふーん? てっきり建物とか人通りの多さに言及してくると思ったけど。
そこが一番気になったのか。
「まあ、彼らはほぼ毎日風呂に入ってますので」
「ふ、風呂に毎日ですと? 平民が? 一体どうやって……」
「実は少し前に水道関係のインフラを町全体に整えたんですよ。そのときに領民ならタダで入れる公衆浴場を作りまして」
「無料の公衆浴場? そんなものを平民にわざわざ作ってやったのですか!?」
ネイバーフッド伯爵が驚くのも無理はない。
でも、衛生環境を整えるのは身銭を切ってでも必須だったからな。
「あ、せっかくなら伯爵も入っていきます? 聖水の風呂なんで旅の疲れも取れますよ?」
ちょうど銭湯が見える辺りまできたし。
実体験してもらえば有意義さを理解してもらえるのではないだろうか?
けど、ネイバーフッド伯爵は貴族だ。
平民の前で裸体を晒すのは抵抗があるかもしれない。
俺の屋敷にある浴場のほうがいいか?
俺は雰囲気が好きで町の銭湯にも時々行くんだけど。
「せ、聖水!? あれは大聖国のものでは……? それもかなり貴重なはず……」
「あーなんかそうらしいっすね? でも、ニコルコの水回りはトイレから何まで全部聖水なんですよ」
ウチの領民は聖水で日常的に身体や髪をジャバジャバ洗っている。
だからその辺を歩いてるおばちゃんでも世界が嫉妬する髪だし玉のお肌というプチホラー。
洗濯もそれでやってるから汚れもゴッソリ落ちて柔らかーい、柔軟剤も使ったのか? ってレベルで衣類が綺麗になる。
「トイレに……水……? そういえば汚物が道端にまったく落ちていないが……」
ネイバーフッド伯爵は困惑の表情で周囲をキョロキョロする。
「はい、町の住居はすべて水洗トイレに改修しました」
「町中のトイレが水洗!? バカな! 連邦の首都じゃあるまいし! いや、そもそも聖水をそんなものに使うなんて――」
うーん。
友好を深めて親しみを持ってもらうためのガイドだけど。
今のところただ驚かせてるだけだな……。
これでは逆に警戒されてしまいそうだ。
ジャードは何も口を挟んでくるつもりがなさそうだし。
ここは自力で打開策を探し出すしかない。
「あの、ネイ――」
「な、ななな……!」
突如、ネイバーフッド伯爵が慄きの声を上げて後ずさりを始めた。
なんだこのおっさん。
驚きすぎていよいよ気が触れたか?
いや、違った。
散歩中と思しき猫たちがのっしのっしと道の向こうから歩いてきていたのだった。
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