第65話『引き続き、夜の部屋。』
引き続き、夜の部屋。
「ねえ見て、ジロー。星がとってもきれいよ」
デルフィーヌが立ち上がって部屋の窓を開ける。
空には月が輝き、瞬く星が散っていた。
田舎によくある満点の星空ってやつだ。
よくあるよね?
……というか、デルフィーヌの話は終わったんじゃ?
まだ戻らないのだろうか。
あんまり長くいるのは屋敷の風紀や良俗的によくない気がするんだが。
「あのね、あたし……もう一つ考えたことがあって――」
「ほう?」
まだ話は終わってなかったらしい。
窓の縁に手をかけて、デルフィーヌが若干上擦った声で言ってくる。
「あたしは助けてもらうだけじゃなく、ジローを助けられる存在でいたいの。一方的に頼り切ってるのは明らかに歪だと思うから」
「…………」
「当主には連れ合いが必要だってジャードが話してたでしょ? そうしないといろいろ誤解されるって……ジローは……それじゃ困るのよね……?」
一歩、二歩。
デルフィーヌが窓際からゆっくりと近づいてくる。。
やがてゼロに近い距離までやってきて――
「…………!?」
こいつは何を言おうとしてるんだ? なんでこんな近くに来るの!?
対応に困るぞ……。
俺の目の前で手を擦り合わせてデルフィーヌはモジモジ。
月の光が彼女の美しい金髪や上気した白い肌をほんのりと照らす。
デルフィーヌの人形めいて整った容姿も相俟って、ちょっと幻想的に見えるな……とかいう感想を抱きつつ。
俺は彼女の言葉に耳を傾ける。
「実際にどうこうとか、そういう意図はなくてね? いや、本当にね? ただ、あくまでジローが余計な噂を立てられないためにっていう、名目上の……そのアレで? ジローはほら、貴族のことも詳しくないみたいだし……つまり……モニョモニョに……あたしが――」
「…………」
むむむ……? 一体、何の……?
あたふたしてて要領を得ないが、デルフィーヌはひょっとして俺の――
ガチャ。
「ジロー様。本日のモフモフに参りました」
あ、ベルナデット。
今夜もモフモフに来てくれたんだ。
遅いよ、今日はこないと思ってた。
……と、今の状況はちょっとあれかな。
ベルナデットの目が見開かれる。
「ああっ! デルフィーヌ! なんでぇ――ッ!?」
「どうしたどうした! 曲者か! 討ち入りか! 大きな声を出して何があった!」
どたどた。
就寝寸前だったのか、ネグリジェ姿のエレンが剣を持って突入してくる。
彼女は日中と違って長い銀髪を片側にまとめ、ひとつにきゅっと結んでいた。
ほう、エレンは寝るときそうしてるのか。
「フィー!?」
向かい合う俺たちを見つけるとエレンは大声で叫んだ。
「そんな薄着で夜分に殿方の部屋を訪ねるなんてはしたない! 嫁入り前の娘にあるまじき……はっ、もしや、さっき言っていた覚悟を決めたというのはそういう――」
さっきってなんだ? 事前に何か相談してたの? というか、お前も大概薄着だぞ?
まあ、そこは突っ込まないでおいたほうがいいのだろう……。
「ち、違うからぁ! エレン違うからぁ!」
「いいえ、怪しいです! デルフィーヌからメスの匂いがしますよ!」
「いかん、いかんぞ、婚前の男女がふしだらなことをするのはよくないぞ!」
「だからもー!」
ぎゃーぎゃー。
なんか、デルフィーヌは割と重大なことを言おうとしてたはずなんだけど。
そういう空気じゃなくなっちゃったな……。
この調子だと今日はもう続きは聞けないよね。
「あっ、ちょっとジロー!」
「ジロー様!?」
「ヒ、ヒロオカ殿!? 何をする!」
俺はギャースカやってる女性陣を部屋から摘まみだして、
「ヒロオカ殿! なぜ閉めるのだ!?」
「ジロー! まだ話が!」
「ジロー様! モフモフしないんですか!?」
どん! どん! どん!
うるさいな。
明日も朝から早いんだってーの。
わし、寝不足は嫌なんじゃもん。
そういうわけで、就寝。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます