第57話『俺の領地経営が始まる』



 部屋で家具の配置を決めたり、挨拶に来た町長とかの相手をしてるうちに夜になった。


 夕飯には炊いた米が出てきた。

 俺が田んぼで米に興味を示していたのをジャードが料理人に伝えたらしい。

 あいつ、そういう気配りできるの? 


 あの顔で? ……気持ち悪っ!




 ――もぐもぐ



 久しぶりに食べる白米。すげえ懐かしい。

 かつてないほど美味しく感じる。

 甘さとか食感がパネェ……。


 ああ、やっぱり焼いた肉と一緒に米を掻き込むのはいいなぁ!

 これは牛肉か? 

 適度に脂が乗ってて柔らかい。


 へえ、地元の農家が育てた牛なの?


「よそから商人なんか、めったにこねえからさぁ。なんでも自分らで作るしかねえんだぁ」

「なんもねえけど、飯はうめえ! ワハハハハハハ!」


 料理人とメイド長が豪快に笑った。

 エアルドレッド家の使用人たちと雰囲気が全然違うわ。

 めっさフレンドリー。




 しかしうめーな。

 これは懐かしさ補正で済ます領域じゃないぞ。

 ひょっとしてニコルコの食材ってレベル高い?


 自領だけで消費せず、他領や他国に輸出すればビジネスになるかも?

 ……しかし、俺以外のやつらは微妙な顔をしていた。

 なんでじゃ!


 どうやら米と肉を一緒に食うことに抵抗を覚えるらしい。

 米も味がしないから苦手とか言ってやがる。

 噛めば甘いじゃん! 


 外国人の味覚だとそういうのがわからないのかな……。

 肉は美味そうにしてるけど。

 こういう食べ方が浸透してるニコルコって異世界では異質っぽい。


 辺境で隔離された土地だから文化が独特になったのだろうか?


「ジロー様の故郷の食べ方なら……頑張って受け入れます! はぐはぐ……っ」


 ベルナデット、そんなとこでストイックにならなくていいから。

 好きなように食えよ。

 食文化の違いも考慮しないと成功には繋がらなさそうだ。


 いろいろと考えさせられる食卓だった。



 明日から俺の領地経営が始まる。


 就寝。





 翌朝。


 ジャードに道案内をさせて教会へ赴く。

 ほら、幼女の感染した菌が残っているかもしれないじゃん?

 念のため教会全体を浄化魔法で除菌しておこうかなって。


 ベルナデットも同行を申し出てきた。

 本人曰く護衛なんだってよ。

 俺に必要か? 勇者やぞ? 


 けど、一人くらいいたほうが見栄えもいいか。

 後ろに誰かを控えさせてると偉い人っぽい感じがするよな。




-教会-



「まあまあ! 領主様! いらして下さったのですね!」



 教会に入るとシスターが歓喜の声を上げながら飛び出して来た。

 今にも抱き着いてきそうな勢いだが子供たちの手前なので自重した模様。

 神父の気弱そうなおっさんが顔を見せて申し訳なさそうに頭を下げてくる。


 いい人っぽいが幸薄そうなおっさんだった。

 ついでに髪も薄……。

 そこは信仰心ではどうにもならないんだろうな。


 アーメン。



 神父に説明し、除菌をする許可をもらう。


 ついでに俺は汚物放置がもたらす健康への被害を神父とシスターに語った。

 町が綺麗になると病気になる人が減るよ。

 子供が死ににくくなるよ。だから町を綺麗にしたいんだよ。


 もしよかったら協力してくれない?

 そんな感じのことを話した。



「うーん、それで町の人や子供たちが健やかに過ごせるのならば……」

「ぜひぜひ! 滅私の心で手伝わせていただきます!」



 教会は町の衛生管理に協力してくれることになった。

 神父とシスターの温度差はすさまじかったが。

 住民たちに呼びかけたり、清掃に人手を出したりしてくれるって。


 いずれはニコルコに日本と近い衛生観念が浸透すればいいんだけど。

 町を綺麗にして、うんこポイ捨て禁止して、下水を引いて……。

 やることがいっぱいだ。


 はあ、下水の工事ってホントどうやればいいんだろ。

 穴掘ったりすりゃなんとかなるかね。

 まあええか。

 詰まりそうなことはその時になって考える。

 そういう感じで流してやっていこう。


 下水だけに。




 神父たちとの話が終わった。


「…………」


 ジャードが俺を見ている。

 そんなじっとり見てくるんじゃないよ。

 ひょっとしてお前こそが男色なんじゃなかろうな?


「……ヒョロイカ卿はいろいろと考えていらっしゃるんですね」


「ああ、こっちの都合で申し訳ないが、ニコルコにはこれからどんどん発展していってもらうつもりだからな」


「発展ですか……。それはどのくらいまでを想定しているのでしょう?」


「できれば王都に匹敵するくらいの町にしたいよ。簡単に潰されない、大きな力に太刀打ちできるほどの場所に――」


「…………」



 ジャードの目がスッと細くなる。

 おっと、まだ会って日が浅い内政官に話すことではなかったか。

 迂闊な発言は慎まないと。


 どこにスパイが忍び込んでいるかわかったもんじゃないし。



 ベルナデットが礼拝堂の一角で子供たちを集めていた。



「1にジロー様。2にジロー様。3、4がなくて5にジロー様です。いいですか皆さん?」


「じろー様、ばんじゃーい!」

「じろー様、ばんじゃーい!」

「じろー様、さいこー!」



 お前は何を教えとるんだ?

 いい笑顔で子供を洗脳するのはやめなさい。


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