第39話『包囲して殲滅するアレ』



 そして、時はやってきた。


 

 ズドドドドドド。


 砂煙を上げ、森の向こうから魔王軍の軍勢が進行してくる。

 うわぁ、すげえ魔物の群れだ。何体いるんだろ。5000体くらいいるのか? 

 森にいる魔物も総動員で連れてきたのかねぇ。


 上空には炎に包まれた巨大な怪鳥が羽ばたいていた。

 ふむ、あれがヒザマだろうか?



「な、なんて数なんだ……」

「あんだけの魔物を相手に戦えんのかよ」

「でも、ヒョロイカってやつが最初に何かしてくれるってバルバトスが言ってたぜ?」



 モブどもの声が聞こえる。

 バルバトスたちへの信頼で不安はいくぶんか軽減されているようだ。

 やっぱり辺境伯邸に集められた冒険者たちに根回しを頼んでおいたのは正解だったな。



「さて、いっちょうやるか……」


 街の安全のため、やつらが近づく前にやっちまわないと。

 俺は肩を回して、一人、前へ出る。

 確か古来より伝わる、大勢の敵と戦うときに有効な戦術があったよな?


 数倍の敵でも倒せるとかいう……。なんて名前だっけ。

 ほら、包囲して殲滅するアレ。

 詳しく覚えてないからどんなのかわかんねえや。


 まあいい。言葉の印象から想像してそれっぽいのを実践してみよう。



「ここは土魔法かな」



 ズズズズズ……



『ン……? ジ、地面ガセリ上ガッテ来タゾ』

『コレハ、オレタチヲ囲オウトシテイル!?』

『マズイ、早ク壁ノ向コウヘ逃ゲルンダ!』

『壁ガ高クナル前ニ、一人デモ多ク外に出ルンダ!』



 ズゾゾゾゾゾゾゾゾ……



 俺は土魔法LV5を使用し、魔物の集団をぐるっと壁で囲い込んだ。

 厚さも硬さも全力パワーを込めて築き上げた土の壁。

 高さも100メートルくらいあるし、飛べる魔物以外はもう逃げられんだろ。


 でも何割かは壁が高くなる前に外へ出ちまった。

 余裕をもって囲ったつもりだったけどな。

 やっぱそこそこ漏れちゃったか。



『ワアアア! 硬イ、土ノクセニ何テ頑丈サダ!』

『壊セネエ……ナンダコレハ!』

『助ケテクレェ!』



 ――ビュビュビュビュビュッ!

 

 俺は魔物たちを閉じ込めた壁の内側に大量の聖水を注ぎこんでいった。

 ちょっと多めに……プールみたいな感じで……溜まるように……っと。



『『『『『グアアアアアアアアアアァァ――ッ! ガガガバババガババッ……ゴボッ!』』』』』



 身動きの取れない魔物たちの断末魔が響く。

 内部はさぞ阿鼻叫喚なことになっているのだろう。

 壁を取っ払ったら金の山がきっとそこにあるはずだ。


 やがて抵抗する声が聞こえなくなり、壁の内側の生命反応が消える。

 よし、殲滅終了。

 しかし、逃げ延びた魔物たちがまだ進行を続けている。


 同じ轍を踏まないよう分散してるし……。

 ああやって散らばられると範囲攻撃じゃ効率悪いなぁ。

 まあ、あとは数百体もいない。残りは冒険者や騎士に任せて大丈夫かな。


 特に冒険者は褒賞もらって参加してんだから働いてもらわんと。

 俺が払ったわけじゃないけどさ。



「すげえ、あれだけの魔物が一瞬で……」

「なんだありゃ……」

「ひょっとしてあいつ、他国の魔王なの?」

「魔王同士の勢力争い?」


 ざわざわ……。

 失敬なやつらがいるな。

 戦場の戯言として聞かなかったことにしておいてやろう。


「じゃ、俺はヒザマを倒しに行ってくるから。ベルナデット、あとは任せた」


「はい、行ってらっしゃいませ。ジロー様」


 座布団に乗って俺は空高く浮かび上がる。

 突撃の指示をベルナデットが出し、冒険者と辺境伯の連合軍は魔王軍の残党に正面からぶつかっていった。



「ガハハッ! エアルドレッド辺境伯家の力、見せてやるぞ! おらぁ!」



 ブラッド氏、おっさんなのに元気だなぁ。

 何はともあれ、ここからが本当の開戦だ。


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