第38話『神獣化LV5』


 翌朝。

 魔王城に近い門の前には冒険者と辺境伯軍の混合軍が集結していた。

 一か所にこれだけ人が集まるとさすがに壮観だな。




「お、兄ちゃん、久しぶりじゃねえか」


「あれ、あんた奴隷商にいた……」


 最前列でフラフラしていると、銀髪のねーちゃんに声をかけられた。

 犬っぽい耳、ふさふさの尻尾。

 処女であることを心の中で笑ったら、めっちゃ睨んできた狼族の奴隷ちゃんだった。


「あれ? 奴隷だったんじゃ? なんでここに? 誰かに買われたの?」


「いや、非常時だってんで戦闘ができるやつは駆り出されたのさ。これでもオレは元Bランクの冒険者だったからな。はあ、隙を見て逃げ出せねえかなぁ……」


「首輪があるうちは逃げられんと思うけど」


「だよなぁ……。ここで魔物を狩りまくれば褒賞で解放してくれねーかな。なあ兄ちゃん、どうにかなんねえか?」


 俺に言われても知らんがな……。

 とはいえ、腕利きの冒険者なら貴重な戦力だ。


「ちょっとこれ持ってみて」


 俺は気まぐれで鞄からとある武器を取り出した。


「へえ、こりゃまたすげえ素材を使った剣だなぁ……」


 狼族のねーちゃんに渡したのは月牙の剣だった。

 言ってなかったけど、実はちゃっかり買ってたんだよね。

 さて、このねーちゃんは果たして選ばれし者なのか……。



【月牙の剣】

【フェンリスヴォルフの牙を素材に用いて作られた伝説の剣。選ばれし者が使うと隠された力が解放される】

【付加スキル:※※※LV4 ※※※LV3 ※※※LV5 ※※※LV2 神獣化LV5】



 こいつも選ばれし者だった! しかもなんかすごいのついてるぞ!

 神獣ってなんやねん。

 代わりにベルナデットにあった自然治癒が消えちゃってるけど。



「おお、こいつはすげえ、力が沸いてくる感じがすんな!」


 狼族のねーちゃんはウッキウキだった。


「じゃあ、それで戦っていいよ。貸してやるから」


「マジで? 助かるぜ。支給されたボロっちいサーベルじゃいつ折れるか不安だったんだよ」


 末端の武器までは整備が行き届いてないのか。

 まあ仕方ないことなんだろうな……。



「フゥーッ! 眠っていた野生が目覚めてく気分だ! クソ魔物どもをぶち殺してやる! ヒャッハー!」



 狼族のねーちゃんは叫びながら人混みに戻っていった。

 うん、彼女たちに任せておけば大丈夫そうだな。




 バルバトスが会いにきた。


「ヒョロイカ……本当に昨日言っていたようにいくのか……? オレたちは……初めのうちは待機していればいいのだな……?」


「おう、そういう感じでやってくれ。俺が間引くから、残った雑兵は頼む。周りへの説明はよろしくな」


「ああ、任せてくれ……すでに話は通してある……」




 エレンとデルフィーヌもきた。


「ねえ、ジロー! あたし、昨日の夜から身体の調子がすこぶるいいのよ! 魔力の通りも良好でね? これならいい魔法がバチーンって出せるわ!」



 デルフィーヌ、自信満々だな。頼もしいぜ。



「エレンも参加するんだな。貴族の令嬢がこんな危険なところに来て大丈夫なの?」



 半分茶化すように訊く。すると、



「貴族といっても、私は辺境伯家の人間だ。身分を隠して冒険者をやっていたのも、こういういざというときに領地を守る力をつけるため。エアルドレッド家の長女として、敵を前に逃げ出すなどできるはずがない」



「そ、そうか」



 真面目なトーンで語られてしまった。いろいろ背負ってる感じだ。

 茶化したのは悪かったかも。

 でも死んじゃったらどうすんだ?


 怪我とかしたら?


 そうならないように俺が頑張るしかないな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る