第30話『範囲攻撃って偉大だな。』


 魔法陣を囲うように円になってデルフィーヌの話を聞き始める。


「まず、ごめんなさい……。誰がこの魔法陣を魔族に教えたのかはわからなかったわ」


 デルフィーヌは少しだけ気まずそうに唇を尖らせ、そう前置きをした。


「頑張って調べたんだけど、どこの国の術式にも当てはまらなくて……。ここに持ってきた資料だけではちょっと無理だったみたい」


 でも、わかったこともあるの、と彼女は続けた。


「それは、この魔法陣が勇者召喚に干渉するためには対象となる魔法陣を完全に把握している必要があるということ」


 それが略奪召喚を行なうための絶対条件だとデルフィーヌは言った。なるほど、大掛かりな術に割り込むにはそれなりの制限があるというわけだな。しかし俺が魔王城に召喚されたのなら、魔族はその条件をクリアしていたというわけで……。


「そう、つまり、父さんの魔法陣は魔族側に漏れていたということになるわ」


 まあ、そうなるよな。


「フィー……それは……もしかして……っ」


 様子のおかしいエレン。

 ああ、これはなんかまずいことがありそうですね。

 


 デルフィーヌは静かに頷き、



「勇者召喚用の魔法陣は重大な機密事項でね。事前にその形を知ることができたのは宰相を始めとする一部の臣下だけだったのよ。そして魔法陣は儀式を行う直前まで父さんが関係者以外の人間が見れないよう、厳重に結界を張って管理をしていた……」



 おいおい、それって……。

 国の偉いやつのなかに裏切り者がいるかもしれないってこと?

 うあ、やべーじゃん……この国。ものすごく帰りたくなってきた。



「できることならすぐにこのことを陛下にお伝えしたい。けど……わたしが言っても信じてもらえるかどうか……」


「私や私の父が進言しても難しいかもしれんな……。シリウス氏を大々的に処刑してしまった直後では簡単に認めるわけにもいかんだろう……。それに裏切り者が王城の要職にいるなら告発しても揉み消される可能性が高い」


「せめて、この魔法陣を見せることができれば……ちゃんとしたところで時間をかけて検証すればもっと具体的なことがわかるかもしれないのに……。そうすれば陛下に一考して頂ける報告ができるのに……」


 二人がウンウン唸っている。うわぁ、キナ臭い話になってきた……。策謀の類は俺の専門外なんだけど。


「なあ、だったらこの床、切り取って持ってくか?」


 もっと調べたいことがあるみたいだし、ここで頭を抱えていても仕方がない。

 厄介ごとはごめんだが、事態が好転するなら助力は惜しまないつもりだ。


「ジロー、そんなことできるの!?」


 デルフィーヌが期待に満ちた目で見つめてきた。

 キラキラな瞳が眩しいぜ。


「まあ、できないことはないはずだが……」


 大理石を切るなら水魔法かな? 

 ウォーターカッターとかあるじゃん? ああいう感じで行けると思う。

 久しぶりにビュッビュッビュッと行きますか。



 


 よし、それじゃあやるとしますかね。

 


 ――バタン。



『オイ、貴様ラ! ソコデ何ヲシテイルッ!』



「「「「!?」」」」



 作業に取り掛かろうとした瞬間、部屋の扉が開け放たれた。

 そして武装したゴブリンっぽい魔物が数匹入ってきた。


「げっ、見つかった!」


 これまでまったく来る気配がなかったから油断した!

 確認を疎かにしたらこの様よ……。


「どどどど、どうしましょう! ジロー! やばいわよ!」


「ヒ、ヒロオカ殿! どうするんだ!? 大変だぞ! 私たちは死ぬのか?」


 いや、いざとなったら普通に全部倒せばいいだけだけど……。


「やりますか? ジロー様」


 ベルナデット、お前は剣を仕舞え。

 こんなところで一匹ずつ相手にしてたら大変だろ。



「おいしょーっ!」


 

 ――ドバァ



『グギャアアアアア! コレハ聖水!?』



 俺は水魔法を入り口に向けて大放出した。

 魔物兵士は押し流されてどこかに消えていく。

 今のうちに床を削り取ろう。


 範囲攻撃って偉大だな。

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