第12話『【月牙の剣】』


 オヤジを待ってる間、ベルナデットと世間話をする。

 コミュニケーションって大事だよ。


「ご主人様はAランクの冒険者様だったんですか? それも魔法使いだったなんて……」


 ベルナデットが尊敬の眼差しになっていた。キラキラの瞳が眩しいぜ。

 魔法使いはこっちでも希少な存在のようだ。


「すごいだろ? しかも勇者でもあるんだぜ」


「ふふっ、ご主人様は冗談も上手いんですね。さすがです」


「……冗談じゃないんだけど」


 自分の奴隷にすら信じてもらえない。

 ふん、別にいいもん。倒した魔王を見せて王様に褒めてもらうもん。

 俺はいじけながら店に置いてあった大剣を何気なく手に取った。


「なんだ、そいつに興味があるのか?」


「え?」


 オヤジが武器と防具を見繕って戻って来た。


「それは質で流れてきたブツでな。素材は極上なんだが、デカさの割に斬れないし魔法効果の付与もないから実戦向きじゃねえぞ」


「ふーん」


 鑑定スキルでなんとなく見てみた。



【月牙の剣】

【フェンリスヴォルフの牙を素材に用いて作られた伝説の剣。選ばれし者が使うと隠された力が解放される】

【付加スキル:※※※LV4 ※※※LV3 ※※※LV5 ※※※LV2 ※※※LV5】



 伝説の剣だった。


「…………」


 オヤジはこの剣の価値を正しく把握してないのか? スキルが見えていないのは俺が選ばれし者でないからだろうか。


「オヤジ、この剣いくらだ?」


「300万だ」


「わ、わたしより高い……」


「そいつにはインテリアとしての価値もあるからな」


 ベルナデットが軽くショックを受けていた。

 奴隷の相場ってどうなってんだろ。

 ま、元気出せよ。


 それよりも。


「ベルナデット、ちょっとこれ持ってみろ」


「え? はい」



【月牙の剣】

【フェンリスヴォルフの牙を素材に用いて作られた伝説の剣。選ばれし者が使うと隠された力が解放される】

【付加スキル:※※※LV4 ※※※LV3 ※※※LV5 自然治癒LV2 ※※※LV5】



 試しにベルナデットに持たせた状態で確認してみる。

 剣のスキルがひとつ明らかになっていた。

 すげえ、うちの奴隷ちゃんは選ばれし者だった。


 でも解放されたスキルはひとつだけ。なんだろ、少しだけ選ばれてるってことか?

 もっと適性がある人間が持ったら全部解放されるんだろうか。

 それとも持ち主が成長すれば順次解放されていくのか。


 少しでも効果があるなら持たせてあげたい気もする。けど使いこなせないなら無理して買う必要ないよな……。


 明らかにベルナデットの小柄な体格には不釣り合いの大きさだし。

 今も身体全体で抱きかかえているような恰好だ。

 振り回すなんて到底できそうにない。


「坊主、いつまでボーッとしてんだ。それを買うのか?」


「今は持ち合わせがないからいいや。後で買いに来るかも」


「そんな嗜好品に気を取られてないでちゃんと身を守る武器を真剣に選べよ」


「はいはい」


 それから俺たちはオヤジの持ってきた武器防具を身体に合わせて確かめた。

 しっくりきたのを一式購入して店を出た。

 伝説の剣は覚えてたら買いに来よう。




 冒険者ギルドに来た。

 個室に通されると、ギルドマスターと秘書さんが応対してくる。

 宰相ヘルハウンドの懸賞金10億ゴールド。


 超級魔物の懸賞金と素材買い取りの残り、大体3億ゴールド。

 それらを二つの袋にわけて差し出された。さすがにすごい量だ。

 アイテムバックがなかったら持ち運ぶのに苦労しただろう。


「これで全額になりますが、いかがいたしましょう。ギルドにいくらか預金してみては?」


「預金かぁ」


 どうしようかな。バッグはまだ余裕だし自分で管理できるけども。


「そんなに多くはありませんが利息も付きますよ」


「うーん、じゃあ10億はそっちに預けます」


 バッグを紛失して無一文になるのは困るしな。保険としておくのも悪くない。


「では預からせていただきます」


 ヘルハウンドの10億が入った袋を引っ込めるギルマス。

 預金はギルドカードを提示すればすべての冒険者ギルドで引き出せると説明を受けた。


「ところで魔王を倒したらここに持ってくればいいんすかね?」


「そうですね……もし仮に、そのようなことがあればよろしくお願いします」


 ギルマスは困ったように苦笑しながら答える。

 絶対ないと思ってやがるな、こいつ。見てろよ見てろよ~。


「ちなみに賞金はいくらほどに?」


「魔王に懸賞金は掛けられておりません。ですが、国王様から直々に莫大な恩賞が与えられるという話です」


「ふーん」


 対価が曖昧になっているのは不安要素だな。

 相手に足元を見られてしまうかもしれない。

 

 ここで出そうと思ってたけど、直接王様に見せたほうがいいかな?

 

 そっちのほうがインパクトありそうだし、交渉しやすそうだな。

 儲けたいわけじゃないけど、侮られて搾取されるのはなんか嫌だ。

 ベルナデットを一人前にしたら王都に行ってみよう。

 

 よし、今後の予定はそういう感じで。


「この国は勇者召喚に失敗しましたからね。あなたのような強い冒険者がいてくれるのは大変ありがたいことです。一応、召喚に失敗した魔導士の娘が魔王退治に動き出したらしいですが正直誰も当てにしていません。皆、不安なんですよ」


「へえ」


 勇者が然るべき場所に召喚されなかったことでいろんなところに皺寄せがいってるのか。


 国民は不安になって、魔導士の家族は修羅の道に。


「ちなみに俺が勇者って言ったらどう?」


「ハッハッハッ、頼もしいですね。今後もその調子でお願いします」


 信じる気配の欠片もねえよ。


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